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第14章 問題と解決
論理的思考を用いて、問題を解決するためには、まず何が解決されるべき問題なのかが分からないといけません。そこで、問題の解決を考えるための最初の第一歩として、問題とは何かについて考察します。
目次 |
1 問題と解決 2 問題の類型 3 課題形成 4 解決策立案 5 実行 6 まとめ テキストのダウンロード[詳細] 通常版 既述版 |
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1 問題と解決
この講義では、論理的に問題を解決することを目指しているのですが、問題解決の流れは図14.1のようになっています。
図14.1.問題解決の過程
問題解決の過程は、その中心となる作業に応じて大きく分けると、3つの段階に分けられます。「課題形成」、「解決策立案」、「実行」の3段階です。
問題を解決するためには、解決すべき「問題」が何なのか分からないといけません。そして、「問題」が認識できたら、解決するための「課題」に整える必要があります。
この段階を「課題形成」段階と呼びます。
解決するべき「課題」が明らかになったら、「課題」を解決できるための策、つまり、「解決策」を立案しないといけません。
この段階を「解決策立案」段階と呼びます。
解決策が具体的に決まったら、後はその解決策を実行するのみです。
この段階をそのまま「実行」段階と呼びます。
これからこの問題解決の過程を順に説明していくのですが、自分が何をしているのかをハッキリさせておくためにも、もう少し「問題」と「解決」の関係について明確しておきたいと思います。
そもそも「問題」とは一体何なのでしょうか。
今まで「問題」という言葉を特段明確に定義せずに、「問題がなぜ問題と言えるのか」とか、「問題は解決すべきだ」等のように使ってきました。論理的思考を用いて、問題を解決する実践段階に移るためにも、「問題」について改めて考えておきます。
まず、私達が「これは問題だ」と言うときは、「これは困ったことになっている」という場合が多いです。とすると、「問題」と言える場合には、「困ったこと」であることが推測されます。
それでは、何故「困ったことだ」と私達は考えるのでしょうか。
私達が「困ったこと」だと思うとき、それは、「都合の悪い」まずい状況であるのが普通です。そして、「都合の悪い」状態とは、自分がそうであって欲しいと願っている状態と、今現在の状況が異なることによって生じるものです。
要は、「問題」とは、「理想の状態と現実の状態との乖離」であると言えます。
「乖離」とは、「そむき離れていること」という意味です。「問題」は「理想と現実が離れて開きがあること」ということになります。「乖離」という言葉が難しければ、今風に「ギャップ」と言い換えてもいいです。
図14.2.問題と解決
理想と現実が違うから、困っったことだと感じ、都合が悪く、問題に思うわけです。よく「理想と現実は違う」と言われますが、そう言われている場面を思い出してみると、大体において、何か問題があり、困った状態で不満があるはずです。
したがって、問題解決とは、この理想の状態と現実の状態との乖離を埋めることになります。もちろん、理想を下げて現実に合せるのではなく、現実を改善して、理想の状態に近づけることで乖離を埋めるのが原則です。
図14.2.問題と解決
このように、問題を解決することは、問題を引き起こしている、つまり、理想の状態と現実の状態を乖離させている要因を取り除いたり、改善することになります。原因を除去・改善することで、理想と現実の乖離が埋まることになります。
ここで、さらに「問題」と視野を広げてみると、もう1つあることに気付きます。試験や入試の問題といった「問題」です。
こうした「問題」は別に解決されなくても特段困りません。「いや、問題が解けないと試験に落ちるから困る」という人もいるでしょうが、問題作成者が、「問題」を設定して解決すべきだとしているだけで、別に「困ったこと」だから解決しようとしているのではありません。しかし、問題が解けいていないという「現実の状態」と、問題が解けたという「理想の状態」とに一応「乖離」があるので、「問題」として含めてしまいます。
こうして見ると、一口に「問題」と言っても、色々な種類があり、その範囲も相当広そうです。実効性があり、実現可能性がある解決策を立てるためにも、「問題」の種類についても整理しておく必要がありそうです。
2 問題の類型
問題が、理想の状態と現実の状態との乖離だと定義でき、色々な種類がありそうだと分かりました。続いて、問題の種類について整理するのですが、どのような基準で分類して整理していくのがいいでしょうか。
先程、問題は、「困ったこと」であることと、「困ったことではないこと」の2つがあることを確認しました。これに対応させて、「原因がある問題」と「原因のない問題」とに分けます。
つまり、「困ったこと」である問題が「原因のある問題」、
「困ったことではないこと」の問題が「原因のない問題」です。
何故このような分け方をするかと言えば、問題を解決するという目的意識からです。
問題が「困ったこと」であれば、何かしらの要因があって、ある「困ったこと」を引き起こしていると考えられます。つまり、何かしらの要因が「原因」として、ある「困ったこと」が「結果」であると考えることができます。ですから、「困ったこと」である問題が、「原因のある問題」ということになります。
これに対して、「困ったことではないこと」である問題は、「困ったこと」がないのだから、「原因のある問題」ではなくなります。つまり、何かしらの要因が「原因」として、ある「困ったこと」である「結果」を引き起こしてはいない、ということです。したがって、「困ったこと」を引き起こす「原因」は存在しないが、目標を設定して解決することを目指す問題と考えることができます。
ですから、「困ったことではないこと」である問題は、「原因のない問題」ということになります。
図14.3.問題の類型 画像クリックで拡大
何が問題であるのかを分析するためには、まず問題を観察して発見しないといけません。そこで、「困ったこと」が現れるときの違いから「原因のある問題」を分類・整理します。
1.発生型の問題 ―単発的に現れる困ったこと―
分かりやすいのは、「困ったこと」が1つ現れる、つまり、単発的に現れる場合です。もちろん、必ずしも1つのみ現れるとは限りませんが、多くの場合、これが「困ってたこと」なんだと具体的に考えられ、何が問題なのかが明確に分かります。
このように、問題が単発的に現れる場合、問題が1つで明確なので、これが困った事態だと特定できます。または、予定とは異なる事態が起きたときも、その異なる事態が問題だと分かります。これを「発生型」の問題と呼ぶことにします。
図14.3.問題の類型 画像クリックで拡大
2.構造型と現象型の問題―連続的に現れる困ったこと―
もちろん、単発的に現れる問題ではない問題もあります。つまり、2つの以上の「困ったこと」が現れ、その複数の「困ったこと」が無関係に独立しているのではなく、関係しながら現れる場合です。単発的に現れる問題に対して、これは連続的に現れる問題と言えます。連続的に現れる問題では、複数の「困ったこと」の中で、どの「困ったこと」が、本質的なものなのかを探す必要があります。
つまり、本質的な原因を探すことになります。本質的な原因とは、これが原因となって、一連の「困ったこと」である結果を引き起こす要因です。
なぜ本質的な原因を探すかと言えば、連続的に現れる問題を解決する際には、すべての「困ったこと」に対して、1つずつ解決策を考えても行くよりも、この本質的な原因を除去したり改善したりすることで、多くの複数の「困ったこと」を効果的に解決する方が効率が良いからです。
図14.3.問題の類型 画像クリックで拡大
そして、連続的に現れる問題は、その構造が明確に分かっているかどうかで問題の質が変わってきます。
連続的に現れる問題の構造が分かっていれば、何が本質的な原因なのかが分かりやすいです。
逆に、構造が分かっていなければ、何が本質的な原因なのかも分かりません。ですから、中々連続的に現れる問題を一斉に解決できる方法が見つけ難いことになります。
これを踏まえて、構造という観点から、連続的に現れる問題をさらに分類してみます。
構造が分かっているとは、因果関係が特定できているということを意味します。
言い換えると、何が原因であり、複数の「困ったこと」である結果を引き起こしているのかが分かっているということです。つまり、「困ったこと」が、構造的な因果関係から生じています。
この問題に気付くためには、原因と結果が絡み合って生じている良くない状態に注目すればいいです。これを「構造型」の問題と呼ぶことにします。
図14.3.問題の類型 画像クリックで拡大
「構造型」の問題では、因果関係が特定できれば、複数の「困ったこと」を引き起こす原因の中で、何が本質的な原因なのかが分かり、問題の本質が理解できます。本質的な原因の除去・改善を実行できれば、問題は解決できます。
しかし、現実では、構造を明確に特定できる場合ばかりではありません。
因果関係があるかは分からないが、複数の「困ったこと」が関係して現れることだけが分かっている場合も多いです。構造が分からないとしても、こうした問題も「困ったこと」であるからには、解決したいものです。
構造が分からないながらも、何が本質的に「困ったこと」なのかを考えなければなりません。
こうした問題を「現象型」の問題と呼ぶことにします。つまり、複数の「困ったこと」が生じている問題です。これは構造が分からないので、現象を現象のまま受け入れます。現象として見えている多くの「困ったこと」をしっかりと認識することが大切です。
図14.3.問題の類型 画像クリックで拡大
似ており混乱しやすいので、「構造型」と「現象型」の相違点と共通点を整理しておきます。
原因と結果の関係、つまり、因果関係が明確に分かるかの違いがありました。因果関係が分かるのが「構造型」で、因果関係までは分からないのが「現象型」です。
「構造型」の問題では、原因と結果が絡み合って「困ったこと」が生じます。
「現象型」の問題では、因果関係まで分からないが、現象として「困ったこと」が多く生じています。
しかし、「構造型」も「現象型」も、問題の本質を理解するために、何が最も重要な「困ったこと」なのかを理解することが大切になります。
こう見ると、「現象型」の問題の中で因果関係が特定できて構造が明確に分かる問題が、「構造型」の問題とも言えます。
ですから、最初はよく分からないが、問題を分析していくと、「現象型」ではなく、「構造型」の問題だと分かる場合もあります。また、「構造型」の問題だと思って、分析を始めてみると、実は因果関係が特定できずに、「現象型」の問題だったという場合も有り得ます。
さらには、見方によっては、単発的に現れている「発生型」の問題も期間を長くとって考えると、「構造型」の問題だったとも考えられます。
例えば、交通事故の原因を調べるとき、太郎が起こした1回だけの交通事故の問題を分析している場合には、太郎の交通事故の問題点のみを考えるので、「発生型」の問題と言えます。しかし、太郎が交通事故を起こした場所で、多くの交通事故が起きていると、もしかしたら太郎の不注意だけでなく、視界が悪く交通事故を引き起こしやすい環境になっているのかもしれないと気付くわけです。そうすると、これは「構造型」の問題になっていきます。
このように、「発生型」、「構造型」、「現象型」の問題の分類は、見方によって、異なる場合も多くなってきます。
今自分が何を問題にしているのかという目的意識によって問題の捉え方は変わります。したがって、最初は細かい分類は気にせずに、何となく「発生型」の問題だと感じたから程度で分析を開始しても構いません。分析していく内に、問題がどのような問題なのかが分かって来るものです。
そして、学識をつけ、経験を積むことで、「この問題は『発生型』だ」、「あの問題は『現象型』だ」と直観的に分かって来るようになります。
3.設定型と創造型の問題 ―原因のない問題―
次に、「原因のない問題」について考えます。「原因のない問題」は、特段「困ったこと」は起きていないが、何かしらの目標や課題を設定して、その実現を目指すことになります。特に「困ったこと」はないが、敢えて「困ったこと」を自ら課題として設定しているとも言えます。
ですから、どのような目標や課題を設定するのかが重要になります。
そこで、「原因のない問題」を「設定型」の問題と「創造型」の問題に分けます。
図14.3.問題の類型 画像クリックで拡大
「設定型」の問題は、その名が示す通り、実現すべき課題や、達成すべき課題を設定する問題です。課題を確実に解決するためにも、課題が一体どのような枠組みになっているのかを知る必要があります。
「創造型」の問題は、その名が示す通り、新たな事を創出するような創造的な課題を設定する問題です。今までに無かったような創造的な事をどのような方向で生み出すのか定めることになります。
図14.3.問題の類型 画像クリックで拡大
「原因のない問題」を「設定型」と「創造型」とに分けたのには、ちゃんと理由があります。
論理的思考を主に使うのが「設定型」の問題で、論理的思考を使いつつも創造力が重要になるのが「創造型」の問題になるからです。最近よく言われる、創造的な仕事とか、creative な仕事、創造的な問題解決能力、といったものは後者の「創造型」の問題に分類されます。「創造型」の問題は、純粋な意味での論理的思考とは少し毛色が変わってくるので、別に分けておきました。
なお、「原因のない問題」では、原因がないのだから、本質的な原因を明らかにする必要はありません。しかしながら、課題を設定して現実の状態を理想の状態に近づけるためには、現実の状態と理想の状態を明確にする必要があります。したがって、現実の状態や理想の状態の分析は必要になります。
この点では、「設定型」でも「創造型」でも、現実の状態と理想の状態を分析することになるので、「原因のある問題」と同じと言えます。
さて、問題を考えるとき、その類型に合計5種類があると分かりました。「原因のある問題」に「発生型」と「構造型」と「現象型」の3つ、「原因のない問題」に「設定型」と「創造型」の2つです。
図14.3.問題の類型 画像クリックで拡大
まず、問題を考える際には、問題がどの型に分類されるかを考えてください。
問題がどの型であるかによって、後の分析の仕方に関わってくるからです。ただし、注意してもらいたいのは、前にも説明しましたが、問題の捉え方によって、同じ問題でも違う型として考えることもできるということです。その場合、問題の捉え方が違うので、導かれる結論も異なって来ます。ですから、同じ問題でも違う型として捉えていることは、自分が問題をどのように捉えているのかを意味するので、しっかりと意識できておかないといけません。
そして、問題があると感じた最初の段階では、大体の場合、問題がどの型なのかはハッキリと分からない場合が多いはずです。ですから、問題がどの型に当てはまるのかを幅広く色々な視点から考えてみてください。
特定の分野に精通して来ると、この問題はこの型と、直感的に分かるようになります。ただし、問題が複雑になってくると、1つの型に収まらず、複数の型にまたがることもあります。その場合は、異なる型から問題を検討していく必要があるのは言うまでもありません。
3 課題形成
問題には5つの型があると分かったところで、各問題をどう分析して解決すべき課題を形成するか、といったことについての話に移りたいと思います。
課題形成段階では、問題を解決するために、問題の本質と解決の基本方向を明らかにすることが目的となります。問題を解決せよと言われても、何が問題なのかが分からないと解きようがありません。
例えば、受験勉強で問題集を解いている状況を思い浮かべてください。
「次の問題を解け」と書かれているのに、問題が何も書かれていないと解きようがありません。また、問題がちゃんと与えられていても、問題が何を意味しているのか理解できていないと、答えを出しても、間違っており誤まりとなってしまう経験をしているかと思います。
問題の本質を正しくつかんでおく必要があります。
このように、問題を解決するためには、問題は何なのか、問題となっている本質的な原因や要因は何なのかを最初に明らかにして正しく把握しておかないといけません。そして、これは次の解決策立案段階から見れば、解決すべき課題の形成と見ることができます。ですから、課題形成段階と呼ぶことにしています。
図14.1.問題解決の過程
課題形成段階は、大きく3つの段階に分けられます。「問題の設定・情報収集」、「本質的な問題の発見」、「課題化」の3段階です。
まず、何かが問題だと感じたら、その問題意識を具体的に明らかにするために、問題を設定して、情報を収集しなければなりません。
これが「問題の設定・情報収集」段階になります。
何が問題なのかを考えるための材料を集めます。
そして、集めた情報を分析して、本質的な問題を明らかにします。
これが「本質的な問題の発見」段階です。
情報を集めることで、何となく感じていた問題意識が段々と具体的に認識できるようになります。こうした情報を分析することで、何が問題なのかを明らかにしていきます。
分析して本質的な問題が発見できたら、解決すべき問題として課題に整理します。
これが「課題化」段階です。
分析をした個々の情報を整理して総合します。問題全体を把握できるようにするとともに、何を解決すればよいのかという課題を明確にします。
では、より具体的に「問題の設定・情報収集」、「本質的な問題の発見」、「課題化」の順を追って、課題形成過程を見て行きましょう。1.問題の設定・情報収集
最初に、問題の設定・情報取集段階についてです。
そもそも、問題が何かを正しく認識しないと、正しく解決はできません。
それでは、問題を正しく認識するには、どのようなことが必要でしょうか。
問題とは、現実の状態と理想の状態の乖離だったので、「現実の状態」と「理想の状態」を正しく把握することが、問題を正しく認識することに繋がります。
図14.4.問題の認識 画像クリックで拡大
したがって、何よりもまず、現実の状態を正しく把握しなければなりません。
そして、現実の状態を正しく把握するためにも、事実を最重要視します。最近では、カタカナでファクトとも言ったりしますが、英語の fact のことです。
事実とは、実際に起きた出来事や、実際に存在する事物です。
そこに価値観は反映されていませんし、その事実自体が何か特別なことを意味しているわけでもありません。
このように、情報収集を行う際には、現実の状態を正しく把握できるように、事実を事実として受け止め、できるだけ解釈を挟まないことが大切です。そして、評価や解釈は、情報収集の次の段階で行うものです。
情報収集の段階で、ある評価や解釈に囚われてしまうと、その評価に合うように、情報収集をしてしまい、現実の状態を正しく把握できなる危険があります。
したがって、事実と評価を切り分け、解釈が入り込まないようにましょう。
図14.4.問題の認識 画像クリックで拡大
例えば、とある上手くいかなかった企画を調べるために、人に聴き取り調査をするとします。そこで回答者が、「あの企画は、100万円の損害を出した大失敗だった」と答えたとします。
このとき、回答者の主観が入り込んでいることに気を付けてください。
事実としてあるのは、「あの企画は、100万円の損害を出した」ことと、「回答者は、それを大失敗だったと評価している」ことの2つです。決して「あの企画は、100万円の損害を出した大失敗だった」という1つの事実ではありません。企画について調査をしているので、「企画が出した損害」と「実行人の企画に対する評価」を混ぜこぜにせずに、きっぱりと分けるようにしておく必要があります。
他にも、飛行機事故で大勢の人が亡くなったとき、つい「このような事故は悲惨だ」と価値判断をしてしまいます。しかし、事実を事実として受け止めるために、情報収集の段階では、「飛行機事故の死傷者数は何人だ」と客観的に表しておくことが大切です。
直接見聞きする以外に、書籍やインターネット、テレビや新聞を利用して、情報を集めるかと思いますが、このときも情報発信者の評価を事実であるかのように受け取らないようにしないといけません。
事実と評価を分離して、客観的な事実だけを捉えて、それとは別に「あの出来事をこう評価する人がいる」という事実として受け止めるのはいいのですが、「あの出来事はこのような評価だ」と事実と勘違いしてはいけません。
そして、情報を収集するとき、自分の知っていることを取り掛かりとして、そこから調べ始めることが多いはずです。このときも、注意しておかないといけないのは、自分の知っている事柄とは、案外主観に染まっている場合が多いことです。つまり、事実に対しての何かしらの評価や解釈が既に自分の中で出来上がっている確率が高いという意味です。そうした主観的な評価を取り除いて事実を事実として受け取るように心掛けないといけません。
図14.4.問題の認識 画像クリックで拡大
気を付けることとして、事実と評価・解釈の区別に加えて、集めるべき情報を収集することも意識しないといけません。
情報収集を開始するとき、問題に関係しそうだと思うことから調べ始めます。問題に関係しそうだと思うには、そのことについて多少なりとも何かしらの知識を持っていることになります。まったく何も知らないと、何を調べたらいいのかすら想像できないからです。ヒトはまったく知らない事柄は想像できないため、知っていること・観念を手掛かりにするしかありません(観念連合)。
したがって、自分の知っている事柄から調べ始めることが多くなります。
このように、自分の知っている事柄から情報取集を開始するために、集めるべき情報ではなく、集められる情報のみを収集して終わらしてしまう危険があります。
つまり、自分の知っている範囲のみの情報を集めて、問題を把握したと考えてしまいがちだということです。集められる情報を集めるのではなく、問題を正しく認識したと言えるのに必要で十分な情報を集めることが重要になります。
以上のように、事実に基づいた情報の収集、集めるべき情報の収集に気を付けて、情報を収集するように心掛けてください。こうして、情報は収集すべきものを収集すれば、それは把握した情報となり、把握した情報からさらに収集すべき情報が何か分かるという循環になります。
では、具体的に、どのように情報を収集すればいいでしょうか。
手当たり次第に何でもかんでも情報を収集するのも1つの手です。とくに不慣れな分野では、何となく問題だと感じているだけだと、何から取り掛かればいいのか分からないものなので、そうなっても仕方ないとも言えます。
しかし、実際に手当たり次第に情報を収集しようとすると、問題自体が中々把握できず、しかも、とんでもない時間を要することになり、辟易とすることになるでしょう。
そこで、情報収集でも、目的達成志向が大切になります。
漠然と抱いている問題意識を明確にするために、理想の状態とは何のために必要なのか、という上位の目的を明確にします。
問題が解決されて理想の状態になると、どのような良いことがあるのか、といった問題解決の上位の目的をしっかりと持つことが重要です。
このように、上位目的に適した理想を設定すると、集めるべき情報が分かって来ます。
図14.4.問題の認識 画像クリックで拡大
例えば、受験勉強でも、偏差値等が気になるはずです。ここでは、理想の状態が、「偏差値が70である」としましょう。
「偏差値が70」になると、どのような良いことがあるのか、なぜ必要なのかといった目的をしっかりと意識します。この場合、理想の状態に対する上位の目的には、「有名難関大学に合格するため」といったものがあるはずです。
他にも、会社なら個々の問題は、企業の利益の最大化といった上位目的があるはずです。
このように、理想の状態に対する上位の目的をしっかりと意識して、その上位の目的から考えると、理想の状態とは一体どのような状態なのか、将来どのような状態になればよいのかを考えると、問題が解決されたときの理想の状態が明確になってきます。
つまり、上位の目的が意識されることで、将来のあるべき状態が明確になると言えます。
言ってみれば、理想の状態が、上位目的を達成する手段のように捉えられます。
理想の状態が「当面の目的」ですが、「当面の目的」は何なのかを考えるだけでは、把握し難いものです。したがって、その「当面の目的」より一段上の「上位目的」から考えてみることで、視点を切り替えて「当面の目的」全体を見渡そうとしています。
500mの長さの壁をわずか10mの距離から眺めても壁全体は中々把握できません。しかし、壁からの距離を100mとれば、500m全体の壁の姿を把握できるようになります。これと同じことです。10mの距離が「当面の目的」を考えているときです。100mの距離が「上位目的」から考えるときです。
図14.4.問題の認識 画像クリックで拡大
また理想の状態を上位目的から考えるだけではなく、その理想の状態が求められる背景をより明確に意識するのも大切です。
理想の状態が求められるのは、上位目的を達成するためでした。それでは、上位目的が求められる背景には、どういったものがあるのか等を考えます。理想の状態が求められる背景を考えることは上位目的を考えることと似ているので、明確に区別できないことが多いですが、理想の状態がどういう状態なのかということを考える視点となるはずです。
図14.4.問題の認識 画像クリックで拡大
例えば、「有名難関大学に合格するため」という上位目的の下に、「偏差値が70である」ことが理想の状態だとします。
そこで、何故そのような「偏差値が70である」ことが求められるのかといった背景を考えます。これに関する情報を収集すれば良いことが分かります。したがって、「偏差値70以上の受験生が多く有名難関大学へ合格している」という事実があるのか確かめたり、各偏差値の受験生がどういった大学に受かっているのかという情報を集めればよいと見当がつきます。
そうすると、さらに、「偏差値70以上の受験生がどういったものなのか」が分からないことにも気付きます。そこで、具体的に「偏差値70以上の受験生がどういった勉強をしているのか」とか、「どのような学力なのか」といった情報を収集していけばよいと分かります。
さらに、「偏差値が70である」という理想の状態と照らして、自分の今の偏差値の状況はどうなのか、偏差値70以上の受験生の勉強法や学力と照らして、自分の勉強法や学力はどうなのか、といった現実の状態の把握できるような情報も収集しなければならないくコトに気付きます。
このように、背景を考えることで、理想の状態がどういったものなのかを知るのに必要な情報、つまり集めるべき情報が、段々と具体的になって行きます。
そうすると、現実の状態についても、何の情報を把握しなければならないかも分かって来ます。
そして、現実の状態が分かって来ると、その現実の状態のまま進んで行くと、どのような不都合な事態、「困ったこと」が起きているのか、あるいは、起き得るのかが予測できます。現状のまま進むとどうなるかの未来予測です。
そうすると、理想の状態と現実の状態の乖離が明確になり、より具体的に考えることができます。
図14.4.問題の認識 画像クリックで拡大
例えば、「偏差値が50である」という現実の状態が把握できたとします。
このまま進んで行けば、「有名難関大学への合格」という目的の達成は、確率的にほぼ無理だと予測できます。そうすると、「偏差値が70である」という理想の状態との乖離は、より具体的に、「偏差値20足りない」と分かることになります。
このように、事実を事実として受け止めて、集めるべき情報を考えながら、情報収集を進めて行きます。
上位目的から理想の状態を考え、背景を押えて、現実の状態を正しく把握し、現実の状態ではどのような「困ったこと」が起き得るのかを意識することが大切で、情報収集の手掛かりになることが分かります。
そして、この情報収集の過程から分かる通り、情報収集は理想の状態と現実の状態の間を行ったり来たりしながら、1つの考えに落ち着いていきます。
情報収集を開始した最初の段階では、考えがまとまらずに色々な方向に広がっていくことが多いです。これを発散と言います。
しかし、情報を整理することで、考えがまとまって行きます。これを収束と言います。
そして、新たな情報が加わることでまた発散し、どういうことなのかと考えることで収束します。
こうして、発散と収束を繰り返しながら、問題が認識されて行くことになります。
図14.4.問題の認識 画像クリックで拡大 2.本質的な問題の発見
情報収集と同時並行、または、それが終わった次の段階では、本質的な問題を明らかにしないといけません。
本質的な問題を明確にすることは、「原因のある問題」では本質的な原因を明確にすることを意味し、「原因のない問題」では本質的な課題を明確にすることを意味します。
先に説明したように、「原因のない問題」では本質的な原因を明確にする必要がないだけで、課題の本質を考えないといけないので、結局、「原因のある問題」と似た情報収集の過程をたどることになります。
いずれにしろ、収集した情報を分析して、整理して、解釈することで、問題の本質を突き止めなければなりません。
問題の本質を突き止めるとは、この問題が解決されることで、多くの「困ったこと」、主要な「困ったこと」が解決できる事柄を明らかにする、ということです。
分析・整理・解釈の過程で、集めた情報に不足があることに気付くことも多いです。その際には、その不足している情報を収集するようにします。
ただし、都合の良い情報のみを集めたりしないこと、都合の良い解釈を行わないことに気を付けてください。自分の考えと合わない事実を発見したときには、無視せずに自分の考えを修正します。また、都合の悪い事実に対して無理矢理な解釈をして、自分の考えに合うように都合良く捻じ曲げることもしてはいけません。
こうして見てみると、明らかになった本質的な問題は、一種の仮説だということが分かります。
仮説とは仮の説明です。つまり、「理想の状態と現実の状態の乖離を生んでいる本質的な問題は〜だ」、という仮の説明だということです。仮説に反する事実があるのなら、仮説が誤りであることを認めて修正・棄却しないといけません。第 I 部 論理的思考の帰納法や仮説推論や誤謬等でも散々言って来たことです。
どう分析・整理・解釈すればよいのかという具体的な方法は、問題の型によって、変わってきます。
「発生型」の問題については、論理ツリーを用います。
「構造型」の問題については、因果関係図を用います。
「現象型」の問題については、論理ピラミッドを用います。
「設定型」の問題と「創造型」の問題については、論理ツリーを用います。
論理ツリー・因果関係図・論理ピラミッドについては後で詳しく説明するので、今は問題の型に応じて分析の道具・方法が変わってくることだけを押えてくれればいいです。
このように、どの問題の型に該当するかで、問題の分析・整理・解釈の仕方が変わって来ます。したがって、問題がどの型に当てはまるのかはしっかりと意識しないとけません。
と言っても、実際には、最初の内は問題の型が分からないこともあります。その場合は、まず「現象型」の問題として捉えて論理ピラミッドを用いて、分析・整理・解釈してみることをお勧めします。そうやって問題の本質が分かって来ると、どの問題の型なのかも見えて来るはずです。見えてきたら、問題の型に応じて、論理ツリーや因果関係図に切り替えて考えたり、そのまま論理ピラミッドで考えて行けばいいのです。3.課題化
こうして本質的な問題が分かれば、問題を解決するための課題化は簡単です。本質的な問題の命題を裏を取ればいいだけです。
本質的問題:A が B である ↓裏返す 課題化:A が B ではない状態にする |
そして、問題が課題化されれば、問題の本質と課題は何なのか、解決策の方向は基本的にどうなるのか、といったことが明確になります。
例えば、「偏差値が70である」という理想の状態と、「偏差値が50である」という現実の状態との乖離は「偏差値が20足りない」ことです。この乖離が問題なわけです。
本質的問題:偏差値が70であるべきなのに、実際の偏差値は50である →偏差値が20足りない |
これを解決するためには、これを課題として設定するわけですが、「偏差値が20足りない」ことがそのまま課題になるのではなく、「偏差値を20上げる」ことが課題となります。「不足分を補う」ことが課題と言えます。
本質的問題:偏差値が70であるべきなのに、実際の偏差値は50である →偏差値が20足りない ↓裏返す 課題化:偏差値を20上げる |
また、「原因のない問題」では、予め課題が設定されているので、課題化は必要ないように思えます。しかし、現実の状態と理想の状態の乖離が分析され、本質的な課題が明確になるので、予め設定された課題をより適切に設定し直して、解決に向けた基本方向が具体的にすることになります。つまり、「原因のない問題」も、課題化の作業が必要になることがほとんどです。
なお、問題自体が複雑だと、解決すべき課題も複雑になる傾向があります。
この場合、1つの課題を解決するだけでは足りません。そのときは、論理ツリーを用いて、課題を細かい要素に分解して、個別の課題に分けてやります。そして、個別に課題化されたものそれぞれについて、本質に注目しながら解決策を考えていくことになります。
解決すべき課題が複数存在する場合もあるということです。
4 解決策立案
問題が把握でき、解決すべき課題が明確になったら、その課題を解決するための方法を考えないといけません。解決策立案段階です。
解決策立案段階では、課題形成段階で明らかになった課題の解決策の基本方向に従って、解決策を考案することが目的です。問題を解決するためには、解決策が具体的であり、実効性と実現可能性があるものでないといけません。
再び、受験勉強での問題集を解くことに喩えて説明します。
問題が何を意味しているのかが理解できたら、自ずと解き方の方向性も見えてくるはずです。しかし、問題の解き方は複数あります。
例えば、数学での確率の問題を考えても、すべての場合を書き出して調べる方法もあれば、数式を立てて計算する方法もあります。
二次法的式の解を求める問題でも、因数分解して求めることもできますし、解の公式で答えを出してしまうこともできます。
応用問題になれば、解法はさらに多様になります。
以上のように、問題の本質を理解したら、どの解法で解くのかといった枠組みを適切に設けます。そして、枠組みに沿って複数の問題の解き方の構想を出します。さらに、どの解法が最も適切なのか、つまり、早く、かつ、誤る確率を下げて、問題を解けるのかいといったことを検討して絞り込んでいます。
このように、問題を解決するためには、解決策が適切である必要があります。
問題が分かったから後は実行あるのみと、思いついた解決策を手当たり次第場当たり的に試すよりは、複数の解決策を予め検討しておき、どの解決策が最適かを考えて選ぶ方が効率が良いです。
図14.1.問題解決の過程
課題形成段階では、最初に、問題の本質と課題の解決策の基本方向に従って、解決策を考えるために適切な枠組みを設定します。
この枠組みを基にして、解決策の構想をを複数考え出します。
そして、複数の構想から解決策をどう行えばよいか具体的に考えて仮説を組み立てます。その具体化された解決策を実効性や実現可能性を検証して、どの解決策が最適なモノなのかを選びます。
したがって、解決策立案段階は、大きく3つの段階に分けられます。「枠組み設定・構想出し」、「解決策の仮説設定」、「解決策の検証・最適案の選択」の3段階です。
課題形成段階を終えた時点で、問題の本質と課題の解決策の基本方向が明確になっているので、それを参考にしながら、解決策を考えるために適切な枠組みを設定して、それに沿って解決策の構想を複数考え出します。
これが「枠組み設定・構想だし」段階になります。
解決策を1つ1つ細かく考える前に、解決策をどう考えるかという大枠を決定して、その大枠に基づいてどんな解決策があるか大まかに出していきます。
そして、枠組みができ、構想が出たら、1つ1つの解決策を具体的に考えて行きます。
これが「解決策の仮説設定」段階です。
解決策を具体的にどう実行すればよいのか、実行するには何が必要なのか、といったことを考えます。この解決策をこう行えば、課題はこう解決できるという解決の道筋の仮説を組み立てます。
最後に、複数の解決策を検証して比較することで、最適な解決策を選択します。
これが「解決策の検証・最適案の選択」段階です。
具体化された複数の解決策それぞれについて、課題の解決に実効性はあるのか、解決策を実際に行えるのかという実現可能性を確認します。そして、各解決策候補の実効性や実現可能性の高さを比べて、どの解決策が一番良いのかを決めます。
なお、実際に解決策を考案する際には、具体的には論理ツリーを使うのですが、これは後で詳しく説明します。今はどのように解決策を考えて行くかの過程に絞って話します。1.枠組み設定・構想出し
それでは最初に、枠組み設定・構想出し段階についてです。
このとき重要になるのが論理的思考に加えて、創造的思考、creative thinking です。
この2つの思考法、論理的思考と創造的思考を巧く組み合わせながら解決策の構想を出します。
図14.5.解決策立案 画像クリックで拡大
課題形成段階が終わり、問題が解決すべき課題となった時点で、解決の基本的な方向性が何本かに絞られているかと思います。
その解決の基本方向に従って、まず、どのような解決策を立てるべきかの枠組みを設定します。
つまり、枠組みは、課題に対する解決策を考えるための基本的な方向性であり、基礎的な指針です。
図14.5.解決策立案 画像クリックで拡大
枠組みを設定する理由は、枠組みが解決の方向性を示してくれるので解決策を考えやすくなるとともに、考えている間に課題解決という当初の目的から知らぬ間に離れて、変な方向に流されないためでもあります。
ちなみに、枠組みは、英語では framework と言います。最近では、カタカナでフレームワークと言うことの方が多いかもしれません。
枠組みが設定できたら、その枠組みに従って、解決策の構想を複数出していきます。
枠組みに沿って考えると、解決策は大体こんな具合になるという案を過不足なく出していくことです。
図14.5.解決策立案 画像クリックで拡大
予め枠組みを設定したことで、「課題解決に適した方法は、A、B、C の3つだけで、それ以外にはない」といった解決策の方向性と構想が明らかになります。つまり、「この枠組みにおいては」「解決策としてはこの3つだけしかない」ということが明らかになっているということです。
見落としていた解決策が実は最も有効であったということが起きないようにするためにも、解決策が他にないことを明らかにしておきたいのです。このために、枠組みを最初に設定してから、次に、その枠組みに沿って解決策の構想を出すという手順にしています。
図14.5.解決策立案 画像クリックで拡大
この枠組み設定と構想出しのときに、目的達成志向を忘れることなく、目的に常に立ち返る ことが大切です。
図14.5.解決策立案 画像クリックで拡大
人間たるもの何かを考えるときには、考えている対象に意識が集中してしまい、当初の目的を忘れて、対象に囚われてしまうことが多いです。
解決策を考えているときも、課題の現象や解決策を考えることに囚われると、なぜ解決策を考えているのかといったことを忘れて、とにかく結論を出そうとしてしまいがちです。
これでは、手段が目的化しています。つまり、解決策を考えるのは問題解決のためなのに、問題が解決できるか否かに関係なく解決策を考えること自体が目的になっています。
考えに行き詰まったら、「問題を解決するためには」という目的に立ち返って、脇道にそれずに本筋を考えるようにする心掛けることが大切です。
また、課題の本質を意識することも大切です。
課題形成段階では、課題それ自体と、それがなぜ問題になっているのかといった背景や構造の分析がなされているはずです。解決策を考える際には、課題の本質を意識できていないと効果が薄くなります。
図14.5.解決策立案 画像クリックで拡大
例えば、「α は A で解決できる」という知識があったとします。そして、ある課題の中に α があることに気付いたとします。
このとき、その α という要素を持った課題に対して即座に解決策 A を当てはめて、「この課題は A で解決できる」と考えるのでは、論理的と言えません。A が解決できるのはあくまで α であり、課題自体ではありません。論理的に飛躍しています。
<前提> α は A で解決できる [結論] よって、課題は A で解決できる |
この推論が正しくなるためには、隠れた前提として「課題の本質は α である」ということが必要です。
つまり、課題が α と実質的に同じだと考えることができる必要があります(第3章 三段論法)。
<前提> α は A で解決できる <隠れた前提> 課題の本質は α である [結論] よって、課題は A で解決できる |
このように、課題のみに注目して、その文言を字面通りに受け取って、短絡的に解決策を考えても効果は薄いです。課題の背景と構造を押えつつ、課題の本質をどう解決するかを考えないと、効果的な解決策となりません。
例えば、課題には、背景や構造に α、β という事柄があるとします。
「α は A で解決できる」から「α の要素を持つ課題が解決できる」と判断するのではなく、「課題の本質が α である」から、「α を解決できる A で課題は解決できる」と判断しましょう。
そして、もし解決策 A では上手くいきそうにないと思えたとき、それは、背景や構造の主たる要因が、α ではなく、β であると分かります。したがって、β が解決すべき要因だと分かるはずです。それならば、考え方を転換し、解決の基本方向と枠組みを変えて、主たる要因 β によく効く解決策 B を考えればいいと判断できます。
図14.5.解決策立案 画像クリックで拡大
このように、常に課題の背景と構造を押えつつ、課題の本質を解決するには何をどうすればいいのか、ということを広く様々な視点から考えられるようにしてくことが必要です。
これは概念を操る力、つまり、上位概念と下位概念の関係を押えて、その枠組みの中で対象がどう位置づけられるかといったことを考える力にも関係してきます。
しかしながら、このように論理的思考で考えていると、おそらく行き詰まる場合があるはずです。そのときは、論理的思考を敢えてやめて、新しい発想を試みるといいでしょう。このとき大切なのが、創造的思考、英語では creative thinking と呼ばれるものです。
創造的思考は、制約条件を敢えて無視したり変更して考えることで、今までには無かったような考えを生み出すことです。
演繹法と帰納法を比較すると、帰納法には前提にない情報を結論に含んでいる点で(第5章 帰納法)、創造的と言えます。創造的思考では、これをさら推し進めます。
なお、制約条件とは、当事者には変更ができない条件のことです。
解決策を考える上で、手段を制約する条件だから、制約条件です。英語では、limiting conditions や constraint と言ったりします。
例えば、1日の時間は24時間ですが、これを25時間にすることはできないので、制約条件と言えます。他にも、入試の出題は大学側が決めるので、受験生にとってはどうしようもない制約条件と言えます。
論理的思考では、制約条件が前提となっており論理を組み立てており、制約条件を意識して解決策を考えています。
が、しかし、創造的思考では、とにかく、解決策を色々な観点から考えることが目的なので、こうした制約条件も敢えて無視してもよいことにします。
とは言え、制約条件はこちら側ではどうしようもない条件ですし、制約条件を意図的に無視するのは実際問題として難しいです。歳を取れば取るほど、常識に囚われて、常識外れな事柄を真剣に考えることが可笑しく思えてしまうものですしね。
そこで、慣れない内は、まず変更可能な条件の自由度を変更してみることから始めるといいでしょう。
図14.5.解決策立案 画像クリックで拡大
論理的思考では、絶対に動かせないような制約条件だけでなく、色々な条件の下に解決策を考えているはずです。例えば、
費用は100万円以内が良いなぁ。
時間はこれだけかかる。
場所は動かしたくない。
A と B は2つで1つであるべきだ。
…といった諸々の条件の下で考えている場合が多いです。これは、条件を固定的に考えていると言えます。
したがって、自由度の変更とは、こうした固定的に考えがちな条件を敢えて可能な限り変更することを意味します。変更は多くの場合、自由度の拡大になりますが、逆に自由度を極端に小さくする場合も普通にあります。
図14.5.解決策立案 画像クリックで拡大
例えば、費用は100万円以下にしたいけど、150万円までなら使えるという条件があるなら、敢えて150万円目一杯使うように自由度を変更してみる。
また、時間も短いにこしたことはないが最大限使う。
場所は動かしたくないけど動かせるのだから別の場所にする。
A と B も1セットが望ましいかもしれないが、そうでなくてもいいと言えばいいので、A と C に組み合わせを変えてみる。
他にも、この条件はあればいいが、必ず要るとも言えないので除いてみる。または、条件を敢えて厳しく追加してみる。
…といった具合に条件の自由度をそれぞれ変えてみると新しい発想が生まれやすいです。
このように、変更可能な条件の自由度を固定的に捉えずに考えてみるといいでしょう。
この変更可能な条件の自由度の変更をさらに推し進めて、すべての制約条件を外して考えることが、ゼロベース思考、いわゆる0から考えるというヤツです。英語では、そのまま zero-base thinking です。
図14.5.解決策立案 画像クリックで拡大
ゼロベース思考では、非現実的だが極端な場合どうなるかといったことを始めとして、すべての制約条件を外して考えてみることが大切です。
変更可能な条件でなくても関係なしに、条件を取っ払って解決策を考えます。常識に照らせば、荒唐無稽に思えるような案も出て来ることになりますが、問題ありません。ここでは、問題の見方を変えて、とにかく構想を絞り出すことが狙いだからです。
絞り出された案の多くは使い物にならないでしょうが、論理的思考で行き詰まっていたために思いつかなかった案がポロッと出て来る可能性もあります。また、論理的思考で縛っていたため結びつかなかった観念同士が結びつくことで、思いがけない発想になる可能性もあります。
こうしたことが、創造的思考の狙いです。
ですから、ゼロベース思考では、自分の中で常識と思われていた事柄を一旦脇に置いて、ゼロから考えてみることが大切になります。
専門分野や所属団体の常識・現状・事情・文化、自分の立場や役割、成功体験・失敗体験、従来の枠組み、偏見や先入観、固定観念や既成概念、目標や現実性等、とにかく取っ払います。
このゼロベース思考は、実際にやってみると分かりますが、かなり難しいです。
人間は自分の経験や思考回路に縛られやすく、頭のどこかで、「こんなの有り得ないよ」と思ってしまったり、無意識に制約条件を考慮して考えてしまったりしやすいからです。
ですから、「ダメで元々、どうせ論理的思考でも行き詰まっているのだから」といった楽な気持ちや、「頭の体操がてらに」といったお遊び感覚でいいので、根拠も実効性も実現可能性も無視して考えてみることから始めてみてください。難しいからこそ、そうやって、日頃から頭を柔らかくしておく練習を積むことが大切です。
ちなみに、私はこうした創造的な思考が苦手です。と言うか、創造的思考ができるなら、それで一発当てて、こんな講義もせず隠居していますしね。ですから、皆さんも気張らずに、軽い気持ちで練習すればいいかと思います。
以上のようにして、解決策の構想を出していきます。これからも分かる通り、論理的思考と創造的思考によって複数の解決策の構想が出されて行きます。ここでも発散と収束を繰り返します。
また、創造的思考が論理性を取っ払っていることから分かる通り、この段階では根拠等は特に重要ではありません。構想段階では、解決策の雛型が出ることが大切だからです。緻密な根拠等は次の段階で考えることです。
なお、忘れてはならないのは、「ヒトは無から有を生み出せない」ということです。
ヒトは無から何も創り出せないのは当然です。私達人間は、既にあるモノに手を加えて変形させることで何かを創り出せるだけです。
無から有を創造 creation できるのは、厳密には神のみです。私達が日頃使う創造的思考 creative thinking といった「創造」も所詮は、既にあるモノの並べ方や組み合わせ方を変えて新しく見えるようにしているだけです。
ヒトは、何もない無から何か有を創り出すことはできません。ヒトは神ではありませんからね。
これは発想でも同じです。
そもそも、自分のまったく知らないことは、思い浮かべることすらできません。何かを考えているときには、知っている事柄を手掛かりにして、色々観念を結び合わせながら考えています。
したがって、創造 creation という言葉から「無知な方が創造的な思考ができる」と考えてしまう人がたまにいますが、これは誤りだと分かるはずです。
無知ということは物を知らないわけですし、無から有が創り出せないので、想像 imagination すらできません。
正しくは、「既にある考え方、観念の結びつき方に囚われないから、創造的な思考ができる」です。
物を多く知れば知るほど、想像 imagination の材料が多くなるので、想像の幅は広がります。ただ、人間の習性として、経験によって、想像 imagination の仕方や観念の結びつき方が固定化しやすいだけです。つまり、この思考の硬直化は、物を多く知っていることが主な原因というよりも、人間の習性のせいだと言えます。
「無知だから創造的 creative である」のではく、あるいは、「物を多く知っているために創造的 creative ではない」のでもなく、単に「人間が自分の経験や思考様式に縛られやすいから、創造的 creation ではなくなりやすい」だけです。
ですから、どんどんと物は知って行くべきであり、同時に、思考を硬直化させないことが大切なのです。
このように、「無から有は生み出せない」ことと、想像 imagination で色々組み合わせ方を変えることで創造 creation するということを日本語でまとめると、「創造力は想像力である」と言えます。
「創造」も「想像」も「そうぞう」と読みが同じなので、何だか分かり難いかもしれませんが、人間が創造 creation するには、想像 imagination をすることから始まると言えます。
そして、創造的思考は、論理的思考と同様に、日頃から鍛錬することができます。
一番簡単で手頃な鍛錬方法としては、敢えてまったく関係なさそうなモノを結び付けて考えてみることが挙げられます。他にも、他者との交流、つまり、自分とは興味関心も考え方も異なるする人と交流することで、違う考え方を知り、刺激されることでも創造力は磨かれます。
一般に、創造力は、今までにないことを生み出す力を意味します。
今までにないことなので、何が創造的な力に貢献するか分かりません。創造的な事柄が何なのか分かっているということは、それは既に経験されたモノであり、今までにないことという文言に矛盾します。未知のモノ、新しいモノだから、創造的なのです。
ですから、創造的思考の鍛錬としては、今の自分には必要ないからと言って、適当にあしらったり無視するのではなく、常に色々学ぶ姿勢を持ち、そして、少し考えてみるという姿勢が必要になります。
2.解決策の仮説設定
さて、話を解決策の立案に戻します。枠組みが設定でき、解決策の大枠に沿って、いくつかの構想が出たら、各構想を具体化します。
これが、解決策の仮説設定段階です。
解決策を実行するには、どうすればよいのかをより細かく考えて行きます。例えば、
どれくらいの期間を設けておくべきか。
どれくらいの費用がかかるのか。
人材や道具等といった資源がどれだけ必要なのか。
実行するにあたって具体的な手順等を洗いざらい出して、「こうすれば、ああなって、ああなれば、そうなって…」といった具合に、解決策を実行することで、課題が解決される過程を具体的に考えて行きます。
…といったことを具体的に手段を考えます。仮説としてですが、解決策の構想が具体的になり、実際に実行できるのかが見えて来ます。解決策の実現可能性に関わってきます。
解決策 | |
実効性 | 実現可能性 |
・期間 ・費用 ・資源 ・手順 |
また、解決策を具体的にするとき、本当に課題を解決できるのかも考えないといけません。ただし、解決策が課題の解決にどれだけ効果があるのかの検証は、次の段階で行います。
ここでは、解決策が、どのようにして課題の解決に効果を発揮するのかを具体的に考えて予測する程度でかまいません。ただし、希望的観測ではなく、事実に基づいて論理的に考えるようにしないといけません。
これは、課題が本当に解決できるのかが分かって来るので、解決策の実効性に関わってくることになります。
解決策 | |
実効性 | 実現可能性 |
・予測 | ・期間 ・費用 ・資源 ・手順 |
このように、課題の解決に実効性と実現可能性があるかを強く意識する必要があります。
しかし、この段階ではまだ実行していないので、実際にその通りになるのか分からないので、仮説となります。
つまり、この解決策をこう実行すると、こうなって、課題がこう解決されるという仮の説明であり予言ということになります。仮説を具体的に具体的にしていき、具体化が不十分だと思えば、仮説として再び見直していくことを繰り返します。このようにして、解決策の仮説を練って行きます。
3.解決策の検証・最適案の選択
解決策の仮説が出来上がったら、仮説を検証します。仮説は仮の説明なので、実際にやってみると上手く行かずに課題を解決ができないことが起き得ます。実際にやってみたら全然できない、効果がない、こういった無駄をできるだけ防ぐために、実行する前に、解決策が課題の解決に効果があるのか、そもそも実際に行うことができるのかといったことを予め調べておきます。
課題や解決策の種類によって、検証方法は異なってきますが、大きく分けて実効性と実現可能性の2つの観点から調べます。
実効性があるかを調べるためには、実際に試してみることが一番です。
大規模に長期的に取り掛かる前に、小規模に短期的にお試し的に行ってみます。つまり、実験やシミュレーションを行うことです。実験やシミュレーションを行うのが難しければ、聴き取り調査やアンケート調査等を実施してみるのもいいでしょう。このようにして、仮説通りに、解決策が課題の解決に効果が期待できるのかを調べます。
解決策 | |
実効性 | 実現可能性 |
・予測 ・実験 ・調査 | ・期間 ・費用 ・資源 ・手順 |
実現可能性があるかを調べるためには、解決策の実行に必要な時間や費用や資源は確保できるかを調べます。
解決策の仮説設定段階で、ある程度の費用や期間、人材や資源の見積もりが立っているはずなので、その仮説の見積り通り、本当に確保できるか調べます。
実現可能性の方は仮説設定のときでも、かなり緻密に練ることができるので、細かいものをつめていくのが主になるでしょう。
それぞれの解決策の実効性と実現可能性を検証したら、実効性と実現可能性の面から、どの解決策が最適かを評価して選択します。
解決策 A と解決策 B を比較したとき、
A は実効性は高いが、実現可能性に難がある。
B は実効性は高くないが、実現可能性は高い。
こういった具合に、どの解決策が最適であるかを評価して実行すべき解決策として採用するのかを総合的には判断します。
すべての解決策を検証するのには時間がかかるので、予め良さげな2つ3つの解決策に絞って検証する場合も十分にあります。
または、最初から1つの解決策を最適と仮定して検証してみて、実効性や実現可能性が低いことが明らかになったら、次善の策を検証するという場合もあります。
場合場合によって検証・比較・評価・選択の順番は前後します。
このようにして、解決策を立案して、実行すべき解決策を決定します。
4.実行計画
ここで、解決策の実行計画を立てるときの注意点に触れておきたいと思います。実行計画を練るとき、課題解決を最終目標として、短期・中期・長期に分けて各目標を設定すると上手く行くことが多いです。
例えば、最終目標の課題解決のためには、やらなければならない手順が1、2、3、4、5、6 あるとします。手順6が終われば課題は解決されているはずだとします。
したがって、最終的には、手順1〜6すべてを実行する必要があるのは分かります。
図14.6.計画の立て方
そうすると、手順1〜6を期間内に終えるためには、終盤中の終盤には手順6が終わっておく必要があります。そして、中盤までには手順3、4を終わらせておく必要があり、それなら序盤には手順1、2を終えておく必要がある、と考えることができます。
図14.6.計画の立て方
このことから、最終目標の課題解決のためには、
長期目標として手順6が終了した状態と設定でき、
中期目標として手順4が終了した状態と設定でき、
短期目標として手順2が終了した状態と設定できます。
なお、この場合、手順6が実行できたなら課題が解決されるので、長期目標と最終目標は同じことを意味します。
図14.6.計画の立て方
さらに、各目標を細かく考えて行くということを繰り返していきます。
短期目標の中で、手順1と2に要する時間を考えると、手順1は短めに終えて、手順2のための時間を多めに設定しておく必要がある、ということ等が分かります。
こうして、各手順に必要な期間と全体の期間を調整します。
図14.6.計画の立て方
以上のように、計画全体を見渡しつつ、大きく分けて、段々小さい作業を詰めて行くように計画を立てるといいです。
もちろん、小さいものから順に、単純に積み上げて計画を立てる場合もあります。
積み上げて計画を立てる場合は、手順1を終えたら手順2、手順2を終えたら手順3、…といった具合に単純に必要な手順を踏んで行くとどうなるかを考えます。逆に、上から順に下って行くように、手順6を行うためには手順5が必要で、手順5を行うためには手順4が必要で、…といった具合に考えることもできます。 各手順を考えた後に、全期間の調整をするという方法もあります。
いずれにしろ、計画は大きな視点から考えて全体を見通して立てるとともに、細かい視点からも考えて各手順をどう行うかといった2通りの方向から考えるようにしましょう。
大きな視点ばかりでは、各手順の詰めが甘く、各段階で失敗する確率が高くなります。
細かい視点ばかりでは、各手順がどう関係して、どれぐらいで終えないといけないかを見失い、期間内に実行し終えることができないかもしれません。
以上、このようにして解決策の立案を行い、最適な解決策を選択できたら、実行計画を作れば、解決策立案段階は終わりです。
5 実行
実行すべき解決策が決定できたら、後は実行あるのみです。
ついに、実行段階です。
実行あるのみと言いましたが、自分独りだけで解決策が実行できる場合は少ないです。自分独りでできない場合は、一緒に実行する仲間や関係者に解決策を説明して納得してもらい、協力を仰ぐ必要があります。
図14.1.問題解決の過程
したがって、実行段階も大きく分けて3つの段階に分けることができます。「問題と解決策の論理の明確化」、「重要人物の説得と実行」、「点検・見直し・修正」の3段階です。
まず、課題形成段階と解決策立案段階で分析・総合したことを、他人にも分かるように整理します。
これが「問題と解決策の論理の明確化」段階です。
一緒に実行する仲間に適切に協力してもらうためには、問題意識を共有して解決策を正しく理解してもらう必要があります。そのために、自分の考えを他人が聴いても読んでも理解できるように、説明前に論理を明確にします。
次に、明確化された問題と解決策を関係者に説明します。関係者全員に説明することが最も理想的ですが、時間の都合やどうしても了解を得られない場合もあるので、大きな決定権を持っていたり、影響力のある重要人物にだけでも説明して納得してもらうようにします。重要人物の了解を得られれば、後は実行計画に沿って実行するだけです。
これが「重要人物の説得と実行」段階です。
実行中は必ずと言っていいほど、当初は予想していなかったことが起きるものです。そこで、常に、実行計画と実際に行われていることを照らし合わせることが大切になります。
これが「点検・見直し・修正」段階です。
実行計画と実際の過程にズレが生じていないかを常に監視しておきます。計画と実際の過程にズレが生じたら、計画が無謀であったと考えて計画を見直して修正するか、計画通りに行われていない可能性を考えて実際に行われていることを修正する等の必要があります。1.問題と解決策の論理の明確化
それでは最初に、問題と解決策の論理の明確化段階についてです。
課題形成段階と解決策立案段階では、主に自分独りで進めて行くものでした。問題は何か、解決すべき課題は何か、解決するためにどうすればいいのか、といったことは自分の中では明確になっています。しかし、自分にとって明らかなことでも、他人には、それがまだ明らかではありません。
一緒に実行する関係者と問題と課題と解決策への意識を共有しないといけません。
ですから、問題と解決策の論理を明確化する必要があります。
このとき、目的と手段の観点から整理すると分かりやすくなります(第12章 目的と手段)。そして、論理ピラミッドが役に立つのですが、詳しくは後でやります。今の段階では、図12.4.論理的な主張と目的と手段の考え方が理解できていれば十分です。
図12.4.論理的な主張と目的と手段
目的と手段の関係で考えると、課題形成段階と解決策立案段階が対応しています。
目的は、課題形成段階の結論が対応しています。
手段は、解決策立案段階の結論が対応しています。
ただし、基本的には、各段階で発散と収束する過程は省略して、目的と手段を導くために使った事実と推論を明らかにするようにします。
発散と収束の過程まで説明すると、話が長く複雑になり、説明を聞く方が混乱してしまうからです。自分の主張を構築するのに使った事実と推論を明確にしておけば、説得的な主張になるはずです。ですから、まず自分の主張を必要かつ十分な論理で構成することを目指しましょう。
最初に、問題がなぜ問題なのか、それをどう把握・理解して、本質的な問題や課題は何のかを明確にしておきます。
他人に分かるように、課題形成段階を整理することになります。これは、目的を明示することでもあります。目的は、目的性と必要性が重要でした。
図14.7.問題と解決策の論理の明確化
目的性、つまり、何故それが問題なのかを明示します。
今現在に存在する「困ったこと」を説明しますが、課題形成段階の現実の状態の分析が主に使われることになります。「今現在、〜な状態であり、…という困ったことが生じている」といった具合になります。このように、現実の状態について分析した内容を記すことで、問題である理由たる目的性が示せます。
図14.7.問題と解決策の論理の明確化
必要性、つまり、その問題を解決する必要があることも説明します。
問題が解決されれば、現実の状態の何が改善されて、それが良いことがあることを説明します。そうすれば、問題を解決する必要があることが明らかになります。そして、問題が解決されているということは、理想の状態になっていることを意味します。したがって、課題形成段階の理想の状態の分析が主に使われることになります。理想の状態について分析した内容を記すことで、問題を解決する必要性が示せます。
図14.7.問題と解決策の論理の明確化
このように、目的性と必要性を上手く説明できれば、問題たる現実と理想の乖離も明確になります。そして、乖離を生んでいる本質が何なのかを示すことになり、これを解決すことが目的だと明示できます。
目的を示すことで、自分の主張に対する why? に答えていることになります。これで、何故それが問題であり、解決の必要があるのか、について相手が理解できる形で整理して明らかにできているはずです。
図14.7.問題と解決策の論理の明確化
次に、その問題をどうやったら解決できるのかという解決策を明示します。
解決策立案段階を整理して、他人に分かるようにします。したがって、これは、手段を明示することになります。手段は、実効性と実現可能性が重要でした。
図14.7.問題と解決策の論理の明確化
実効性、つまり、その解決策が問題解決に効果があるのかということを説明します。
仮説検証の実験や聴き取り調査等で得た結果を使うことになります。「実験の結果、課題が解決できたので、大規模に実施しても同様の効果が得られるはずだ」といった説明になります。仮説検証の内容を記すことで、問題解決に実効性があることが示せます。
図14.7.問題と解決策の論理の明確化
実現可能性、つまり、解決策を実施できることができるかを説明します。
実際に行えるかどうかは、必要な期間や費用や資源が具体的で現実的であり、それを基にした実行計画が立てられていることを明らかにします。実行計画の内容を記すことで、解決策が実際に行えるという実現可能性を示せます。
図14.7.問題と解決策の論理の明確化
このように、実効性と実現可能性を上手く説明できれば、問題を解決するための効果があって実施できる手段が明確になります。そして、問題解決のための適切な手段を明示できます。
手段を示すことで、自分の主張に対する how? に答えていることになります。これで、この手段を用いれば、問題が実際に解決でき、机上の空論ではなく現実に実行できると、相手が理解できる形で整理して明らかにできるているはずです。
図14.7.問題と解決策の論理の明確化
こうして、問題と解決策の論理を明確にしておけば、説明された関係者も理解しやすく、納得しやすくなります。
このようにして、自分の主張が、要点を押えて論理的に構成できたら、次は質疑応答対策です。
関係者に説明する際には、色々な疑問がぶつけられるはずです。予め出そうな疑問に対しては、答えを準備しておくと話を進めやすいです。
質問されて、「それは分かりません」とか、「考えたけど忘れました」とか言ってしまったり、相手の疑問に上手く答えられないと、相手はこちらの主張が本当に正しいのか疑い始めます。「よく考えられた主張になっているのか?」や、「本当に深く考えられているのか? そうでないなら、真面目に聞く価値があるのか?」といった不安や不信を抱かれるのはマズイです。相手の不安や不信感は、こちらの主張の説得力を低下させてしまうので、説得するのが大変難しくなります。ですから、予め出そうな疑問に対しては、その場でビシッと答えて、自分の主張は様々な視点から考え抜かれたものであることをさりげなく見せましょう。
この質疑応答に的確に答えるために、自分の主張を構成する際には使わなかった発散と収束の過程が役に立ちます。
発散と収束の過程では、様々な疑問が浮かんで、どうなのかを調べたり検討したりしているはずです。こうした疑問は、自分だけではなく、説明を聞いている人も、当然に持ち得る疑問である確率が高いです。これを参考にしつつ、出そうな疑問を予想して、それに対する答えを用意しておきます。
例えば、問題の捉え方に A と B があることが課題形成段階で分かったとして、自分は A の捉え方を採用しているとします。
したがって、自分の主張は、A を中心に構成されています。そうすると逆に、B については、まったく触れていないか、ほとんど触れていないことになります。
このとき、事前に質疑応答のときに、誰かから「B という捉え方もできるのではないか?」と質問されるかもしれないと予測できます。
予測できていれば、質問用の答えとして、「A のように問題を捉える理由は〜であり、B のように問題を捉えるよりも本質的だから」といったものを予め用意できます。発散と収束の過程で、自分が B を採用しなかった理由は明らかなはずなので、比較的簡単に答えを用意できるはずです。
他にも想定される質問はあります。複数の解決策の中で有力なものがいくつかある場合に、なぜ他の解決策ではなく、これを選んだのかというものです。
他の解決策と実効性と実現可能性を比較した上で、自分の選んだ解決策が最適だと考えているはずです。ですから、こうした質問に対しても、自分の解決策と他の解決策の実効性と実現可能性との比較した結果を説明すればいいわけです。
また、自分の主張と真っ向から対立するような内容で、誰もが疑問に思いそうな事柄は、論理の構築の時に直接使わなかったとしても、予め自分の主張を説明する時に、それについて触れて反論しておくのも効果的です。予め「そのことは考慮してますよ」という合図を送ることです。
誰もが思うであろう疑問については、そういった疑問を考慮した上での自分の主張は構築されているということを示すことで、説得力が上がります。聞く側からすれば「ちゃんと色々考えているんだな」と思えるので、説得的になります。それに、誰もが思うであろう疑問なら、必ずその質問を受けることは簡単に予測できるので、質問に答える手間を省けることになります。
このとき、現代文とかでもよく学習する譲歩構文がよく使われます。
「なるほど確かに A ではあるが、しかし、B」といった形式の表現です。「A」には自分の主張と対立・矛盾するような内容が入り、「B」は「A」を否定して自分の主張を強化する内容が来ますです。
例えば、「なるほど確かに太郎は見た目が怖いが、しかし、優しい」というので考えましょう。
この譲歩構文による表現によって、「太郎は見た目が怖い」というのは分かっているが、それはあくまで見た目で、本当は「優しい」と説明できていることになります。
単に「太郎は優しい」とだけ言った場合、「太郎は見た目が怖い」ことについてはどう考えているのか、といった質問が出て来る確率が高いです。人間は見た目でヒトを判断しやすいので、「見た目が怖い」人を見ると、「優しい」とは考え難いからです。そこで、譲歩構文を使うことで、「見た目が怖い」ことはわかっった上で、それでも「優しい」と言えると主張していることになります。こうすることで、「見た目が怖い」ことを理由として「優しい」ことに反論したり質問したりする人はいなくなります。
無論、太郎の見た目以外の行いから怖い奴だという反論は来るかもしれません。その場合は、それとは別の反論理由で答えなければなりません。
このようにして、説得の前に、自分の主張を明確にしておきます。2.重要人物の説得と実行
自分の主張が明確になったら、重要人物の説得が大切になります。
先程も言いましたが、関係者全員に説明して、納得と了解を得ることが最も理想的です。しかし、関係者が大人数になったりすると、時間の関係上どうしても全員を説明して回るのは難しくなります。また、人間誰しも自分なりの考えがあり、全員に納得して了解してもらうことが難しいです。
そこで、最低でも、大きな決定権を持っていたり、影響力のある重要人物に説明して、納得と了解を得るようにします。
決定権を持っている人物が「やる」と言えば、決定できるわけですし、影響力のある人物が「やろう」と言えば、その取り巻きも「やろう」と思いやすいからです。
そして、この重要人物の説得段階で難しいことは、論理的であるだけでは不十分なことです。これは、論理性が不要だということを意味しているのではありません。論理性だけでは不十分で、それにプラスアルファが必要だということです。
どんなに論理的な案であって、なおかつ、決定事項になったとしても、共感を得られていないと、真摯に協力して実行してくれないことが有り得ます。協力的に見えるが、上辺だけの作業で終わらしてしまう。形だけ整えて質は度外視したような結果だとしても、言われたことはやった。こういったものが、その典型です。
ですから、完全な共感を得ることは難しいにしても、こちらの気持ちや思いを感情的には理解できるという段階までは説得しておきたいです。
自分の意見ばかりを言うのではなく、相手の立場に立って考えて、目線を合わせて話し合い、誠実に説得するということが大切です。そして、こちらの使命感や情熱を押し付けることなく、でも相手にも同じような使命感や情熱を持ってもらう、少なくとも理解してもらうことで、積極的な協力を得られるように努めます。
これは、対人技術、いわゆるコミュニケーション能力と呼ばれるものです。
繰り返しますが、論理的思考によって問題解決の案が高い質であることが大前提です。それに加えて、対人技術が必要だということです。どんなに情熱があっても、論理的にガバガバの案では、賛成は得られません。
さらなる注意点として、対人技術がアダとなることもあります。
例えば、対人技術が高いが、論理的思考の弱い人を考えてください。
対人技術が高ければ、論理的にガバガバな案でも、「こいつの言うことならば」と関係者が同調してくれることがあります。しかし、如何せん最初の案が論理的に欠陥だらけで大したものではないので、良い結果を得ることができません。金と時間、人員の無駄、労力の浪費に終わります。
でも、こうした場合でも、対人技術はそんなに高くないが、そのガバガバの案を論理的に整形して具体化してくれる優秀な人がいたとします。
そんな彼ですが、対人技術が高いだけの人に毎回振り回されることにウンザリして、反旗を翻す可能性があります。「もうやってられない、勝手にしろ」といった具合に文句を言って協力しなくなったりするかもしれません。あるいは、対人技術だけ高い人の案を完全に無視して、自分が考える最適最善の案に書き換えてくるかもしれません。これを受けて、対人技術だけ高い人は、反抗的になった論理的思考に秀でた人を疎ましく思えてきます。
しかしながら、対人技術だけ高い人は、対人技術の高さのおかげで、その論理的思考に秀でた人を追放・左遷させることが、おそらくできるのでしょう。そうすると、ガバガバの案をいつも整えてくれていた優秀な人材を失うことになります。こうなっては、もう対人技術だけ高い人が考え出す案を洗練してくれる人がいないので、何をやっても大した結果が出せなかったり、失敗続きになってしまいます。
したがって、最近のコミュニケーション能力の重要性を説く声に振り回されることなく、対人技術は、論理的思考を前提としていることに注意してください。
論理一辺倒で感情を顧みないのでは、ヒトは付いて来ません。しかし、対人技術だけ高くても、論理的でないと現実に役立つ案は生み出せません。どちらも重要であり、不可欠のものです。
重要人物が説得で来たら、後は実行計画に沿って解決策を実施していくだけです。
このようにして、説得の前に、自分の主張を明確にしておきます。3.点検・見直し・修正
実際に解決策を進めて行く上で必要なのが、点検・見直し・修正段階です。
実行計画を実施していると、必ずと言っていいほど予定外の出来事が起きます。ですから、実行中は、実施されていることが計画通りなのか常に点検しておかなければなりません。そして、必要ならば見直して修正しながら、最終目標の問題解決まで進んで行きます。
図14.8.点検・見直し・修正
点検して、見直しや修正が必要であると判断する場合は、当たり前ですが、現実に実施されていることが実行計画とズレているときです。
実施内容と実行計画がズレていないのなら、計画通り上手く行っているので、見直しや修正は必要ありません。ですから、実施内容と実行計画の少なくとも1つは問題がある場合に、見直しや修正が必要になります。
図14.9.修正の可否一覧 画像クリックで拡大
○は問題なし、×は問題あり、ということを表しています。
なお、型4の実行計画にも実施内容にも問題がある場合は、もうどうしようもないですね。計画も杜撰で、実際に行われている内容もグダグダなので、1回実行を中断して計画を練り直した方がいいです。ですから、型2と型3を中心に見て行くことにします。
そして、理想の状態が実行計画なら、現実の状態は実施されていることと言えます。このように、計画と実施のズレは、理想と現実の乖離とも捉えることができます。
図14.8.点検・見直し・修正
ですから、見直して修正すべき箇所は2つあります。
実行計画を見直し修正するか、
現実に実施されていることを見直し修正するか、
どちらかです。
実行計画に問題がなく、現実に実施されていることに問題がある場合には、実施されていることを見直し修正します。これは型2の実行計画○実施内容×です。
計画通りに行われていないことがあれば、それをちゃんと行う等がこれにあたります。
図14.8.点検・見直し・修正
実行計画に問題があり、現実に実施されていることに問題がない場合には、実行計画を見直し修正します。これは型3の実行計画×実施内容○です。
計画を実行に移して実際にやってみると、意外とできなかったりすることがあります。
また、予想外の出来事も発生するかもしれません。
さらに、状況は刻々と変化するものなので、計画当初とは状況が一変してしまうこともあります。
こういったときは、実行計画を現実に合せて見直し修正することが必要になります。
図14.8.点検・見直し・修正
計画を修正することに抵抗を感じやすい人は、気を付けてください。
特に、決めたことは最後までやり抜く、初志貫徹、志操堅固、といった心意気を持っている人です。ちょっとやってみて駄目だったら、すぐに投げ出すというのは論外です。が、実行計画と現実の実施が大きく離れているのに、とにかく計画通り進めないといけなと考えて、実行計画を修正せずに無理矢理強行突破しようとすることは、単なる精神論あるいは根性論でしかありません。
そういったことに陥らないために、論理的思考で妥当な解決策を導いたはずです。論理の根拠となっている事柄が存在しなかったり変わっていたりする場合には、それに合わせて、論理的な主張も変更しなければなりません。これが論理的思考の原則です(第I部 論理的思考)。事実を無視して考えるのは論理的思考ではありませんでした。
ですから、実行計画に変更を迫るような状況になったのならば、冷静に実行計画を修正しないといけません。
自分が心血注いでつくったモノであればあるほど、不備があること、修正しなければならないことを認めたくないというのが人情です。しかし、目的は、実行計画をそのまま実施することではなく、問題を解決することです。論理的思考が非常に思えるのなら非常になって、目的達成志向で計画を修正しましょう。
さらには、実行計画そのものを破棄する場合もあります。
最適と考えていた解決策を実施しようとして、実行不可能であることが明らかになったり、実効性があまりないことが分かることもあります。
その場合は、実行を中止して、解決策立案段階で考えていた次善の解決策に変更する等、別の策を考え直す必要があります。計画の修正以上に心理的な嫌だと感じやすいですが、目的達成志向で、実施中の解決策を放棄して、代替の解決策を基にして計画を一から練り直しましょう。
このようにして、解決策を実行していくことになります。これで問題が解決できるはずです。もちろん、問題が大きく複雑なら1つの解決策ですべて解決できるわけがないので、複数の解決策を同時に、または、順番に実行していかないといけません。
そして、解決策の実行が終わったら、反省会です。
問題が本当に解決できたかはもちろん、問題を正しく認識できていたか、解決策は妥当だったのか、実行過程が計画通りだったか、計画とどれだけズレたか、予想外の出来事への対応は適切だったか、などを検証します。
そして、改善点があれば洗い出しておき、次の似たような問題解決の際に役立てられるようにしておきます。
このようにして課題形成段階、解決策立案段階、実行段階という過程をたどりながら、問題を解決することになります。
6 まとめ
ここまで長くなりましたが、論理的に問題を解決する方法を説明してきました。
その過程で、論理的思考は当然に必要だとして、解決策立案段階では創造的思考が必要になり、実行段階では対人技術が必要であることが分かってもらえたかと思います。
過去によく起きた問題で、解決方法が確立しているなら、創造的思考はあまり必要にはならないでしょうし、独りで解決できるような問題なら、対人技術はあまり必要にはならないでしょう。
しかし、学問や研究の世界に進むにしろ、官公庁の世界に進むにしろ、商業や経済の世界に進むにしろ、第一線で活躍しようとすれば、今までになかったような問題に挑戦することになります。そのときは、確かな論理的思考力に加えて、創造的思考力と対人技術が求められることになります。
ですから、自分の好き嫌いで視野を狭めることなく、幅広く興味を持ち、色々なことを取り入れることが大切です。そして、色々な制約条件を外して考えてみたり、想像力を働かせるようにしておくといいでしょう。こうしたことは、真剣にやるだけでなく、思考のお遊びとして気軽にやってみると良い場合も多々あります。
また、想像力にも通じますが、人の気持ちを考え、ある言動によって人がどう思い、感じるのか、といったことにも気が配れるようにしておくのも大切なことです。
さて、問題解決の過程をざっとまとめておきましょう。
図14.10.問題解決の過程と方法 画像クリックで拡大
最初は課題形成段階です。
問題を解決するために、問題の本質と解決の基本方向を明らかにすることが目的です。
把握している情報と集めるべき情報を意識しながら、情報を収集します。
情報を収集したら分析して、問題の本質を特定します。
問題の本質が特定できたら、個々の分析を総合して、問題全体を捉えて解決すべき課題を整理します。
この課題形成段階で役に立つのが論理ツリー、因果関係図、論理ピラミッドです。問題の型に応じて、使い分けましょう。
解決すべき課題が分かれば、次は解決策立案段階です。
課題形成段階で明らかになった課題の解決策の基本方向に従って、解決策を考案することが目的です。
まず、解決策の大枠、つまり、枠組み framework を設定します。
その枠組みに沿って解決策の構想を出していきます。このとき、論理的思考では論理ツリーが役に立ちます。加えて、創造的思考も必要になります。
構想を具体化して、どう解決できるか、どう解決策を実行するのかといった仮説を形成します。その際には、問題意識と解決策を整理して、具体的な実行計画に落とし込みます。
そして、解決策を検証して、どの解決策が最適かを選択します。
解決策が選択できれば、実行段階です。解決策を実施します。
課題形成と解決策立案段階で考えたことを改めて総合的に整理して論理的に明確にします。このとき、論理ピラミッドが役に立ちます。
そして、論理が明確になった案を重要人物に説明して説得します。納得と了解を得たら実行に移ります。
実行中は、常に計画と実施内容を点検・見直し・修正をしながら、問題の解決を目指します。
この実行段階は、論理的思考は当然として、対人技術が必要になります。
これが、問題解決のための一連の流れです。
さて、問題の解決の過程が分かった所で、次からは、各段階で使われる論理ツリー・因果関係図・論理ピラミッドという道具の使い方を学びます。
論理ツリーは、what ツリー・ why ツリー・ how ツリーの3種類に分けて説明します。
what ツリーは、概念の整理等に役立ちます。まず、what ツリーから始めて、論理ツリーとは何かについて学びます。
次に、why ツリーについて学びます。why ツリーは、単発的に現れる「発生型」の問題における原因の究明・原因の特定に役立ちます。
最後に、how ツリーを学びます。how ツリーは、課題化された問題に対する解決策の考案に役に立ちます。
論理ツリーの次に、因果関係図を学びます。
因果関係図は、原因と結果が絡み合った「構造型」の問題の原因究明に使われる道具です。
因果関係図で原因が特定できれば、論理ツリーの how ツリーを使って解決策を考えればよくなります。
最後に、論理ピラミッドについて学びます。
論理ピラミッドは、複数の良くないことが起きる「現象型」の問題の本質的な原因究明に使われる道具です。
論理ピラミッドで原因が特定できれば、後は同じで、論理ツリーの how ツリーを使って解決策を考えていきます。
また、論理ピラミッドは、文章の骨格を作ったり、論理的に整理することにも役立ちます。発表(いわゆるプレゼン、プレゼンテーション)にも使えます。こうした対人技術に関わる方法も学ぶことにします。
ですから、これからの学習する内容は、
第15章 論理ツリー ― what ツリー―
第16章 論理ツリー ― why ツリー―
第17章 論理ツリー ― how ツリー―
第18章 設定型の問題と創造型の問題
第19章 因果関係図
第20章 論理ピラミッドの基本
第21章 論理ピラミッド ―現象型の問題―
第22章 論理ピラミッドの応用
第23章 論理的な問題解決のまとめ
のような流れになります。
前頁:第13章 演繹法と帰納法の絡み
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次頁:第15章 論理ツリー ― what ツリー―