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第19章 因果関係図

因果関係図は、「構造型」の問題を分析するための道具です。
「困ったこと」と原因が1対1で対応しやすい「発生型」の問題のに対しては論理ツリーが有効でしたが、現実の問題の多くは、「困ったこと」と原因が1対1に対応するような簡単な構造になっておらず、複雑に入り組んでいることが多いです。この「構造型」の問題の本質的原因をどのように分析して特定するのかについて学びます。

目次
1 「構造型」の問題
2 因果関係図
3 因果関係図作成の準備
4 因果関係図の作成
5 因果関係図による本質的原因の特定
6 循環する「構造型」の問題
7 まとめ

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1 「構造型」の問題

論理ツリーによる問題の原因分析をするのに非常に有益でした。そして、論理ツリーが有効な問題の類型は、「発生型」の問題でした。
「発生型」の問題は、「困ったこと」が単発的に現れるような問題でした。ですから、分析して具体化的になった事柄が、「困ったこと」が現れている原因だと分かります。問題と原因が1対1に対応していると言えるような場合が多かったです。

しかし、世の中は複雑で、1つの「困ったこと」が1つの原因から生じていることは少ないです。
つまり、「困ったこと」が複数現れていることが多いです。
また、色々な事象が連続的に現れて、しかも絡み合いながら問題が発生していることも多いです。

このように、連続的に現れて相互に関係し合う「困ったこと」が複数あり、その1つ1つの事象が「困ったこと」であると同時に、全体として大きな「困ったこと」を形成していることがあります。

そして、連続的に現れる複数の事象が、相互に関係し合いながら、「困ったこと」を形成している問題は、残念ながら論理ツリーでは分析し難いです。
なぜなら、論理ツリーで活躍したダブりなくモレなく(MECE)分解するという考え方と相性が悪いからです。
論理ツリーでダブりなくモレなく分解するとき、相互に絡み合いながら連続的に現れる事象の関係性をぶった切ることになります。

言葉だけでは理解が難しいので、分かりやすくするため、図で表します。
まず、事象 A、事象 B、そして事象 C があるとします。
さらに、この3つの事象が連続的に現れており、事象 A は、事象 B と事象 C から影響を受けて発生しているとします。
つまり、3つの事象によって、1つの「困ったこと」が現れています。
図19.1.構造型の問題 


事象 B・C から事象 A へと矢印(→)が伸びていますが、この矢印が影響を与えていることを表しています。

ここで、事象 A と事象 B は、性質が似ているとします。
これに対して、事象 A と事象 B の似た性質である2つの事象は、事象 C とは、性質がかなり違うとします。
この3つの事象に対して、ある枠組みを使って MECE に分解すると、性質の違いから、事象 B と事象 C は、別々のものとして分類されることになります。
図19.1.構造型の問題 


見ての通り、本来なら、事象 A は、事象 B と事象 C の影響を受けていると理解しなければ正しく捉えたことになりません。
それなのに、論理ツリーのように枠組みを使って MECE に無理矢理整理しようとすると、事象 A が事象 C から切り離されたものとして捉えることになります。したがって、問題を正しく捉えられていないことになります。

これから分かることは、MECE を重視する論理ツリーを使って分析すると、問題を正しく認識することができないことがある、ということです。
ですから、事象 A と事象 B と事象 C それぞれが、全体の中でどのような働きををしているのか、どのような関係性にあるのか、について分析して正しく捉える必要があります。
つまり、事象を構造的に考えます。

したがって、「構造型」の問題とは、複数の事象がそれぞれ何かしらの機能を果たしつつ、相互に関係して複数の「困ったこと」が連続的に現れる、という結果を引き起こしている問題と言えます。

そして、「構造型」の問題は、複数の事象のそれぞれの機能と相互の関係性を正確に捉えるために、各事象の因果関係を明確にすることが大切になります。
ある事象が原因として、他の事象を結果として生じさせて、その結果である事象が新たな原因となり、また違う結果である事象を生じさせているという因果関係を明らかにすることで、各事象の機能と相互の関係性が明らかにします。
図19.2.構造型の問題と因果関係 


このようにして、連続的に現れる複数の「困ったこと」がどのように、そして、なぜ発生しているのか、という構造が分かります。
そうすると、各事象のどれが本質的な原因であり、何が本質的な問題なのかが分かります。
したがって、どの事象が原因となって、複数の「困ったこと」全体を引き起こしているのかが明らかになります。
後は、その原因を除去・改善するような解決策を考えて行けばいいことになります。

「構造型」の問題について注意点があります。

まず、本質的な原因や解決すべき問題が複数あり得ることです。
「構造型」の問題では、複数の事象が絡み合って、1つ以上の「困ったこと」が発生しています。全体として「困ったこと」にしろ、多くの「困ったこと」にしろ、その「困ったこと」を引き起こしている鍵となる本質的な原因は1つとは限りません。

また、連続的に複数の事象が絡み合って現れているので、時間の経過とともに状況も変化していくのが普通です。
本質的な原因だと思われるものを1つだけ解決しても、既に発生している事象が2次的な原因となっており、それによって引き起こされている「困ったこと」が解決されるとは限らないことがあります。
そうすると、「困ったこと」を引き起こしている本質的な原因を1つと考えることなく、複数あると考え直して各問題を解決するための方策を考える必要が出てきます。
したがって、本質的な原因とは別に、既に生じている「困ったこと」も解決する必要があることもあります。

例えば、事象1が原因として、事象2という「困ったこと」である結果を引き起こしているとします。さらに、事象2が原因となって、事象3という「困ったこと」である結果を引き起こしているとします。
図19.3.原因が複数存在する可能性 


そうすると、事象1が解決されれば、連鎖的に、事象2と事象3も一気に解消されると考えるのが普通でしょう。
図19.3.原因が複数存在する可能性 


確かに、事象1を解決すれば、事象1から事象2が発生し、そして、事象2から事象3が延々と発生し続けることは防げます。
しかし、事象1を解決しても、事象2と事象3が解決されず、「困ったこと」が起きつづけることがあります。
図19.3.原因が複数存在する可能性 


これは、事象1を解決しても、既に発生している事象2が独立して存在しているために、事象2とそれによって引き起こされている事象3までも一緒に解消されることがないからです。
図19.3.原因が複数存在する可能性 


この場合は、事象1だけではなく事象2も一緒に解消してやる必要があるのが分かります。

このように、「問題」を解決する上で、本質的な原因を解決するのは当然として、
その本質的な問題が1つとは限らない、
また、既に発生している「困ったこと」も個別に解決する必要がある、
といったことを想定しておかないといけません。

以上、「構造型」の問題の特徴でした。

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2 因果関係図

「構造型」の問題が、複数の事象がそれぞれ何かしらの機能を果たしつつ、相互に関係して複数の「困ったこと」が連続的に現れる、という結果を引き起こしている問題である。
そのため「構造型」の問題では、因果関係を明確にする必要がある。
本質的な原因が1つとは限らず、また、解決すべき問題も1つとは限らない。
このことが分かったところで、「構造型」の問題を分析するための道具として、因果関係図を学びます。

因果関係図とは、ある時点において、観察あるいは推定される一連の事象の原因と結果の関係を矢印(→)で結合して描かいた図のことです。
ただし、ここでの原因と結果の関係とは、必ずしも厳密な意味での因果関係のことではありません。
復習(第10章 論理的思考のまとめ 4 因果関係と相関関係)になりますが、厳密な意味での因果関係、あるいは、狭義の因果関係と言うとき、2つの事象 X と Y の間に次の2つの関係があることを言いました。
1つ目に、X と Y の間に相互に変化する関係、つまり、相関関係があることが必要です。X が変化したとき、Y も同時に変化することが見つけ出せる、といった関係です。
2つ目に、X と Y の変化する順序が明確である。最初にXが変化して、次に Y が変化する、といった順序です。
この2つ要素があるとき、X と Y に因果関係があると言えました。X が原因で、Y が結果となります。
因果関係を厳密に考えると、これだけ狭く考えないといけません。
図10.5.相関関係から因果関係の特定 


しかし、「こんなこと一々全部分かるのか?」と感じた人もいるでしょう。
お察しの通り、厳密な意味での因果関係は、特定するのが非常に難しいです。現に学問や科学では、この因果関係を見出すことに多くの精力を傾けています。因果関係を証明で、一本の論文が書ける程にです。

しかし、この厳密な因果関係の特定の困難さは、問題解決という目的達成志向の観点からすると、少々困ったことになります。
前提となる知識や事実の真偽が確定されないと、論理的に正しい推論はできません。しかし、100%正しくない限り、問題解決を実行に移せないとしたら、ほとんどの問題は解決できなくなります。したがって、「因果関係が明らかに特定できない限り原因とは言い切きない」とすると、問題を解決することができなくなります。

ですから、「構造型」の問題では、「本質的な原因と問題を明らかにするために、複数の事象の因果関係を分析する」と言ったとき、学問的あるいは科学的なほどに厳密な意味・狭い意味での因果関係のことではないとします。
つまり、「構造型」の問題での因果関係というとき、広義の因果関係と考えることになります。

広義の因果関係なので、事象間の関係で狭義の因果関係が明確でなくても、単に順序関係があるだけでも因果関係ありとしてもよしとします。
他にも、事象間に主従関係があったり、影響を与える側と影響を受ける側の関係、力の大小や優劣関係でも因果関係と広く捉えてもいいです。
このように、「構造型」の問題では、因果関係と言うとき、かなり広く捉えていることに注意してください。

科学論文のような厳密な因果関係を特定することを目指す、という姿勢は非常に大切ですし、「構造型」の問題で原因を特定する際にも、常に本当に因果関係があるのか?、この関係性で正しいのか?、と批判的に考えることは重要です。実際、研究者を目指す場合には、こうした厳しい姿勢が求められますし、独断と偏見に陥らないようにしないといけません。
しかし、科学論文を書くのと違って、時間に余裕がなく、科学ほど厳密に因果関係が明らかではないとしても、現に目の前に起きている問題に対応しなければいけない場合には、悠長に因果関係を特定している余裕はありません。
ですから、妥協として、因果関係を広く捉えることにしています。あくまで、問題解決という目的達成志向のための分析であることを忘れないでください。

因果関係図における因果関係がやや広く捉えられていることが分かったところで、因果関係図の作り方を説明します。

因果関係図の作り方
(1)各事象は、主語と述語を用いて明確に記述する
(2)各事象の因果関係に従って、原因である事象から結果である事象に矢印(→)を繋ぐ
(3)個々の事象同士の関係性を全体に渡り過不足なく捉える

因果関係図の作り方の原則です。もちろん、情報収集から始まりますが、集めた情報を因果関係図で整理していきます。

(1)「各事象は、主語と述語を用いて明確に記述する」ことが基本です。
その理由は、連続的に現れる複数の事象を主語と述語を使って記述することで、その事象が何なのか、何が起きているのかを明らかにして意識づけるためです。単に名詞だけで終わらせると、事象が何を表しているのか曖昧になりやすいです。
ただし、名詞だけでは絶対に駄目だということではありません。主語と述語で表す必要が本当になければ名詞だけでも構いません。まぁ、あまりそういうことは起こらないかと思います。

(2)「各事象の因果関係に従って、原因である事象から結果である事象に矢印(→)を繋ぐ」とは、原因から結果に矢印(→)を繋ぐことというそのままの意味です。
原因である事象から、結果である事象に矢印を繋ぐことで、各事象の関係性を明らかにしていきます。
こうすることで、単に文章で読むよりも、視覚的に因果関係が明らかになり、問題の構造を把握しやすくなります。

(3)「個々の事象同士の関係性を全体に渡り過不足なく捉える」とは、(1)と(2)を繰り返した結果として、複数の事象が絡み合いながら形成している問題の全体が明らかになることです。
このように因果関係図を作ることで、全体の構造が見渡せるので、個別の各事象のどれが重要であるのかが分かります。
これは、各事象の関係の中で、全体に及ぼす影響度の高い本質的な事象を見極めることに役立ちます。
その結果、本質的な原因と本質的な問題が明確になり特定できることになります。

なお、論理ツリーのときは MECE (ダブりなくモレなく)に分解するということを口煩く言いましたが、因果関係図のときは MECE に整理することはあまり重要ではありません。これは最初の「構造型」の問題を説明したときにも触れました。
図19.3.因果関係図 


まず、モレなく(CE)が非常に困難なことから説明しましょう。
事象間に広義の因果関係を見い出そうとすると、大体の事象に何らかの関係性があると言えることが多いです。そうすると、あれもこれも、何もかもにも因果関係があるとなってしまいます。これでは、考える対象が膨大になって行き、収拾がつかなくなります。
ですから、関係する事象のすべてをモレなく(CE)網羅するということは目指さなくてもいいです。
重要な事象と、それらの関係性に注目することで、構造の核心を捉えることを目指します。

続いて、ダブりなく(ME)にも拘る必要がないことについてです。
1つの原因である事象から矢印を繋げることができるのは、1つの事象のみということはありません。
1つの原因である事象から、複数の結果である事象に矢印が繋がることがあっても一行に構いません
また、原因と結果の間に矢印が互いに行き来して循環するような形になっても構いません

このように、因果関係図では MECE であることは、さほど重要ではありません。論理ツリーでは理解できない問題をの全体の構造を理解することが目的だからです。

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3 因果関係図作成の準備

それでは、因果関係図を実際に作ってみましょう。(19.1)を見てください。

(19.1)ある試験の過去問を数回解いて、時間が足りなくなり、全問を解き終わることがほとんどない。全問を解き終わることがないので、総合点も低くなることが多かった。これを踏まえて、時間が足りなくなることで、総合点が低くなることの原因となり得る要因を因果関係図を用いて示せ。

入試のための勉強、資格のための勉強、何にしろ試験勉強の対策をしていると、時間不足によって総合点が伸び悩むことを経験したことがあるのではないでしょうか。
この「時間が足りなくなることで、総合点が低い」という「困ったこと」である原因を分析します。

原因を分析するにあたっては、まず「時間が足りなくなることで、総合点が低い」こと自体が一体どういうことなのか、について押えておく必要があります。
対象の理解なしには、原因を分析するための情報を収集することもできないからです。ですから、「時間が足りなくなることで、総合点が低い」という事象を客観的に把握します。

そこで、対象の分析になるので、論理ツリーの what ツリーを使いながら分析します(第15章 論理ツリー ― what ツリー―参照)。

それでは、what ツリーによって、「時間が足りなくなることで、総合点が低い」とは「何か?」と問いながら対象を分析して行きます。
どのような視点、つまり、枠組みで「時間が足りなくなることで、総合点が低い」ことを整理・理解したらよいでしょうか。

まず、「時間が足りなくなる」という事実から気付くことがあります。それは、「試験問題を全問解き終えていない」ということです。
(19.1)の問題文からは試験問題が全部で何問あるかは定かではありませんが、「時間が足りなくなる」ということは、試験開始とともに第1問から順番に解き進めて行き、最終問題まで行き着く前に試験終了となっているはずです。
したがって、実際に解いた問題もあれば、解いていない問題もあることになります。
このことから、「手を付けて解いた問題」か、「手を付けずに解かなかった問題」かという枠組みで分解します。これは、「そのもの」か「それ以外」かの枠組みの応用です。「手を付けずに解かなかった問題」は「手を付けて解いた問題」以外になります。
図19.4.対象たる問題の理解 画像クリックで拡大 


まず、「手を付けて解いた問題」について考えます。
「手を付けて解いた問題」の中には、「間違えた問題」と「正解した問題」が当然にあるはずです。
「総合点が低い」ことの要因としては、問題を正解できるかできないかが重要になるので、この「間違えた問題」か「正解した問題」かの枠組みを当てはめます。
図19.4.対象たる問題の理解 画像クリックで拡大 


「正解した問題」については、正解できており、「困ったこと」ではないので、わざわざ範疇(カテゴリー)を設けなくてもいいかもしれません。
が、しかし、対象の全体像を理解している段階で情報が要るか要らないかを判断することは難しく、また、原因分析に必要かどうかは後で判断すればいいため、一応押えておくことにします。

「間違えた問題」を分析してみると、「日頃の学習では確実に正解できる簡単な問題」、「時間をかければ解けそうな難し目の問題」、そして、自分の学力や知識から考えてみて「到底正解できるはずのない問題」があることに気付きます。
図19.4.対象たる問題の理解 画像クリックで拡大 


次に、「手を付けずに解かなかった問題」について考えます。
「手を付けずに解かなかった問題」は、解いていないので、すべての問題が得点に結びついていないことになります。
しかし、試験終了後に手を付けなかった問題に目を通して解いてみると、解けた問題もあることに気付くはずです。

そこで、「手を付けて解いた問題」の中の「間違えた問題」と同様に、「日頃の学習では確実に正解できる簡単な問題」、「時間をかければ解けそうな難し目の問題」、そして、「到底正解できるはずのない問題」があることになります。
図19.4.対象たる問題の理解 画像クリックで拡大 


これで、粗方ですが、「時間が足りなくなることで、総合点が低い」という対象の要素が、間違えた問題の種類を中心にして、どのように構成されているかが理解できました。

こうして見ると、「時間が足りなくなることで、総合点が低い」ことの原因となっている事象が何となく分かって来ます。
「正解できた問題」は得点ができているので、「総合点が低い」ことを引き起こしている要因とは考えにくいので除外します。
また、「到底正解できるはずのない問題」は、自分の学力では正解できないので、どんなに頑張っても得点を上げることができません。したがって、「時間が足りなくなることで、総合点が低い」ことを引き起こしている要因とは言えません。

ですから、「時間が足りなくなることで、総合点が低い」ことの what ツリーから、次のことが見えてきます。赤で囲った事象に注目してください。
図19.4.対象たる問題の理解 画像クリックで拡大 


これが、「困ったこと」の中に含まれているだろうと判断できます。

以上のことから、今判明したことをまとめておきます。
まず、(19.1)の問題文から、「困ったこと」の全体の核となっているだろうことが、(1)「総合点が低い」ことです。
そして、(2)「全問を解く前に時間切れとなる」ことも「困ったこと」の1つだと読み取れます。

また、what ツリーから、
(3)「日頃の学習では確実に正解できる簡単な問題を間違える」ことと、
(4)「時間をかければ解けそうな難し目の問題を間違える」ことも、
「困ったこと」に挙げられます。
さらに、(5)「時間をかければ解けそうな難し目の問題に手を付けられない」ことと、
(6)「確実に解ける簡単な問題に手を付けられない」ことも、
「困ったこと」です。

(1)総合点が低くなる
(2)全問を解く前に時間切れとなる
(3)日頃の学習では確実に正解できる簡単な問題を間違える
(4)時間をかければ解けそうな難し目の問題を間違える
(5)時間をかければ解けそうな難し目の問題に手を付けられない
(6)確実に解ける簡単な問題に手を付けられない

「時間が足りなくなることで、総合点が低い」という漠然とした「困ったこと」が少しずつですが、具体的に見えてきました。
1つ1つの事実・事象は、どれも「困ったこと」です。
特に、(1)「総合点が低い」ということが、自分の中で直接的で何とか解決したい一番の「困ったこと」でしょうが、様々な「困ったこと」が連続的に現れて、全体として「困ったこと」になっているのが理解できます。

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4 因果関係図の作成

「時間が足りなくなることで、総合点が低い」という「困ったこと」が、連続的に現れる様々な事象によって全体として「困ったこと」になっている、と理解できました。そこで、その様々な事象1つ1つの関係を確かめて行きます。

1.因果関係図の概略作成

まず、一番の「困ったこと」である(1)「総合点が低い」ことが何故生じているのか、について考えてみます。

今分かっている(1)と(2)〜(6)を漠然と見ていたら、(2)〜(6)の事象は、どれも(1)「総合点が低い」という「困ったこと」の原因だと言えそうな気がしてきます。
そうだとすると、(2)〜(6)の事象すべてが原因となり、そこから、結果である(1)の事象へと矢印を繋ぐことになります。
図19.5.因果関係図の作成1 画像クリックで拡大 


これで納得できるという人もいるでしょう。が、しかし、多くの人は、問題の構造が未だよく分からないと感じるのではないでしょうか。もう少し考えてみる必要がありそうです。

そこで、各事象・事実の特徴や性質に応じて、因果関係を整理します。
バラバラの個別的・具体的な各事象・事実で考えていても難しいので、ある程度のまとまりとして捉えて、考えて行く試みです。論理ツリーで言うところの枠組み思考と似ています。

今回は、各事象・事実を積み上げるように、つまり、ボトムアップ方式で共通項や類似点などでまとめて抽象化するといったことを行っていきます。
もちろん、先程作った「時間が足りなくなることで、総合点が低い」という対象を分析した what ツリーを利用できる場合には利用します。

(1)に繋がる直接的な原因と言える事象を(2)〜(6)から選んでみます。

まず、(1)〜(6)の事象を特徴ごとに整理します。
(1)「総合点が低い」は本質的な問題と言えそうでした。なぜならば、「総合点が低い」ことは目標の点数を取れていないことであり、数ある「困ったこと」が絡み合って現れている一番の「困ったこと」だからです。
したがって、(1)「総合点が低い」ことは、他の事象と一緒にくくることはできなさそうです。

次に、(3)「日頃の学習では確実に正解できる簡単な問題を間違える」と、(4)「時間をかければ解けそうな難し目の問題を間違える」という事象に注目します。
この2つに共通することは、(A)「手を付けたが間違えた問題」だということです。
これは、what ツリーの分析したときに明らかになっています。
図19.6.事象の特徴の整理 画像クリックで拡大 


また、(5)「時間をかければ解けそうな難し目の問題に手を付けられない」と、(6)「確実に解ける簡単な問題に手を付けられない」という事象に注目します。
この2つに共通することは、(B)「手を付けずに解かなかった問題」だということです。
これも、what ツリーの分析したときに明らかになっています。
図19.6.事象の特徴の整理 画像クリックで拡大 


なお、(A)「手を付けたが間違えた問題」と(B)「手を付けずに解かなかった問題」は、what ツリーの第2階層の「手を付けて解いた問題」か「手を付けずに解かなかった問題」かの枠組みで分解したものと対応しているのが分かります。

最後に、(2)「全問を解く前に時間切れとなる」という事象は、他の事象とくくることができません。

本質的問題
(1)総合点が低くなる
 
(A)手を付けたが間違えた問題
(3)日頃の学習では確実に正解できる簡単な問題を間違える
(4)時間をかければ解けそうな難し目の問題を間違える
 
(B)手を付けずに解かなかった問題
(5)時間をかければ解けそうな難し目の問題に手を付けられない
(6)確実に解ける簡単な問題に手を付けられない
 
その他
(2)全問を解く前に時間切れとなる

こうして見ると、問題の構造が見えてきます。

(A)「手を付けたが間違えた問題」と(B)「手を付けずに解かなかった問題」に分類される事象は、(1)「総合点が低くなる」という事象を直接引き起こしている原因だと分かります。
そして、(2)「全問解く前に時間切れとなる」という事象は、(A)「手を付けたが間違えた問題」と(B)「手を付けずに解かなかった問題」という事象を引き起こしている原因だと言えます。
図19.7.因果関係図の作成2 画像クリックで拡大 


要は、(2)「全問解く前に時間切れとなる」ために、(A)「手を付けたが間違えた問題」と(B)「手を付けずに解かなかった問題」が発生し、その結果として(1)「総合点が低くなる」という事象が発生していると考えられるということです。
このような因果関係についての大きな構造が見えてきました。

2.因果関係図の精密化

さて、これで原因分析を終わらせてもいいのですが、何だか腑に落ちない箇所があります。
まず、(2)「全問解く前に時間切れとなる」という事象が、なぜ生じているのか、
次に、(2)「全問解く前に時間切れとなる」という事象が、(A)「手を付けたが間違えた問題」と(B)「手を付けずに解かなかった問題」という2つの事象を引き起こしているとしても、もう少しその過程、あるいは、因果関係が明らかにならないものか、
ということです。
この2つの疑問に答えられれば、問題の因果関係とその構造が明らかになり、本質的な原因を特定できそうです。
因果関係図をより詳しくしていきます。

各事象の間にある因果関係を繋ぐ更なる事象がないか。
各事象を引き起こしているそもそもの事象はないか。
こういったことを考えて行きます。

それでは最初に、(2)「全問解く前に時間切れとなる」という事象が生じている原因・理由について考えてみます。
(2)「全問解く前に時間切れとなる」のは、だいたい分かると思いますが、1問1問解くのが遅いからだと言えます。
つまり、(7)「1問当たりの解く時間が多くかかる」ために、(2)「全問解く前に時間切れとなる」ということが起きていると考えられます。
図19.8.因果関係図の作成3 画像クリックで拡大 


さらに「何故?」を深めます。「1問当たりの解く時間が多くかかる」のは何故でしょうか。
(7)「1問当たりの解く時間が多くかかる」理由は、(8)「処理速度が遅い」からです。
問題を解く速度が遅いために、1問1問解くのが遅くなります。それが積み重なって、全問を解き終える前に試験時間が終わるということになります。
図19.8.因果関係図の作成3 画像クリックで拡大 


こうして、(8)「処理速度が遅い」→(7)「1問当たりの解く時間が多くかかる」→(2)「全問解く前に時間切れとなる」という因果関係が分かりました。この一連の事象のまとまりを(C)「処理速度に関する課題」としておきます。

続いて、(2)「全問解く前に時間切れとなる」という事象が、(A)「手を付けたが間違えた問題」と(B)「手を付けずに解かなかった問題」という2つの事象を引き起こす因果関係を細かく詰めます。

その最初に、(2)「全問解く前に時間切れとなる」という事象が、(A)「手を付けたが間違えた問題」という事象を引き起こす因果関係を細かく分析します。

(2)「全問解く前に時間切れとなる」ことが、(3)「日頃の学習では確実に正解できる簡単な問題を間違える」を引き起こしているのですが、少し奇妙に感じます。と言うのも、「日頃の学習では確実に正解できる簡単な問題」は、試験でも当然に正解できるものだと考えるのが普通だからです。
「時間切れ」になると言っても、試験では「手を付けて解いている」のだから、「間違え」ている問題というのは考え難いはずです。つまり、実際に「手を付けて解いて」おり、「確実に正解できる簡単な問題」を「間違える」ということは普通ではありません。

どうやら、結果である(3)「日頃の学習では確実に正解できる簡単な問題を間違える」ことと、原因である(2)「全問解く前に時間切れとなる」ことの間には何かもう一段階ありそうだな、と感じます。

(3)「日頃の学習では確実に正解できる簡単な問題を間違える」ことと、(2)「全問解く前に時間切れとなる」ことの間を繋ぐ事象として思いつくことは何でしょうか。
それは、(3')「全問解こうとするも時間不足で焦り、処理の正確性が落ちる」ことだと言えます。
時間切れとなる中で、すべての問題を解こうとすると、焦りが生じます。焦ると、「処理の正確性が落ちる」ため「日頃の学習では確実に正解できる簡単な問題」であっても、「間違える」ことが起きます。
図19.8.因果関係図の作成3 画像クリックで拡大 


次に、同様にして、(2)「全問解く前に時間切れとなる」ことが、(4)「時間をかければ解けそうな難し目の問題を間違える」ことを引き起こしている原因を分析しましょう。

(4)「時間をかければ解けそうな難し目の問題を間違える」こと、これも「手を付けて解いている」のに「間違え」た問題です。難しい問題は中々解けないものですが、「時間をかければ解けそうな難し目の問題」なので、自分の学力的には正解できる問題だと言えます。それにもかかわらず、「間違える」わけです。

それでは、(2)「全問解く前に時間切れとなる」ことと、(4)「時間をかければ解けそうな難し目の問題を間違える」ことの間をつなぐ事象として思いつくことは何でしょうか。
それは、(4')「時間不足のため、難しい問題をじっくり解くことができない」ことだと言えます。
時間切れとなる中で、すべての問題を解こうとすると、必然的に1問当たりの時間は少なくなります。そうすると、腰を据えて(4')「難しい問題をじっくり解くことができない」ことになり、結果として(4)「時間をかければ解けそうな難し目の問題を間違える」ことになります。
図19.8.因果関係図の作成3 画像クリックで拡大 


また、(4)「時間をかければ解けそうな難し目の問題を間違える」ことにおいても、時間切れとなる中で、すべての問題を解こうすると、焦りが生じていると言えます。
そうすると、(3')「全問解こうとするも時間不足で焦り、処理の正確性が落ちる」ことは、(4)「時間をかければ解けそうな難し目の問題を間違える」ことを引き起こしていると言えます。これは、(3)「日頃の学習では確実に正解できる問題を間違える」ことを引き起こしていたのと同じです。

ですから、(3')「全問解こうとするも時間不足で焦り、処理の正確性が落ちる」ことを原因として、(4)「時間をかければ解けそうな難し目の問題を間違える」ことを結果として、矢印を繋ぐことができます。
図19.8.因果関係図の作成3 画像クリックで拡大 


このように、(A)「手を付けたが間違えた問題」を詳しく分析して見ると気付くことは、試験の問題をすべて解きたいがために「焦り」が生じており、それによって(3)「日頃の学習では確実に正解できる問題を間違える」ことや(4)「時間をかければ解けそうな難し目の問題を間違える」ことを引き起こしていることです。
では、改めて何故「焦り」が生じるのか考えてみたいと思います。

(2)「全問解く前に時間切れとなる」という事実は、(19.1)に書かれている通り、「ある試験の過去問を数回解いて、時間が足りなくなり、全問を解き終わることがほとんどない」という事実から導かれています。
つまり、もう既に、(2)「全問解く前に時間切れとなる」ことを何度か経験していることが分かります。

そうすると、(2)「全問解く前に時間切れとなる」ことが、(2')「試験前から時間不足が予想される」ことを引き起こしていることになります。
何度か解いて時間切れとなることを経験していれば、当然にまた時間切れとなるのではないか、と不安を抱くものです。(2')「試験前から時間不足が予想される」中で、すべての問題を解こうとすれば、「焦り」が生じます。速く解かないといけない間に合わないと気負うことになるからです。

そして、(2')「試験前から時間不足が予想される」中でも、「時間をかければ解けそうな難し目の問題」には時間をかけたいので、「焦り」は一層強くなります。簡単な問題は素早く解いて、難し目の問題に時間をかけたいと考えるからです。
ですから、(2')「試験前から時間不足が予想される」ことが、(2")「全問解きたい上に、難しい問題に時間をかけたいので、焦る」ことを引き起こします。
図19.8.因果関係図の作成3 画像クリックで拡大 


こうして、(2)「全問解く前に時間切れとなる」→(2')「試験前から時間不足が予想される」→(2")「全問解きたい上に、難しい問題に時間をかけたいので、焦る」という因果関係の構造が見えてきました。

そして、この一連の事象は、心理的な要因としてまとめられます。
(A)「手を付けたが間違えた問題」や(B)「手を付けずに解けなかった問題」といった目に見える事実から分析しただけではなく、「時間不足という予想」から来る「焦り」や、「全問解きたい上に、難しい問題に時間をかけたい」という欲望から生じる「焦り」といったことは、目には見えないが心の中で確かに生じており、「困ったこと」を引き起こしていると考えられるものです。
ですから、このまとまりを(D)「心理面の課題」としておきます。

なお、(2")「全問解きたい上に、難しい問題に時間をかけたいので、焦る」ことが、(3')「全問解こうとするも時間不足で焦り、処理の正確性が落ちる」ことを引き起こしていることに気付きます。両者を矢印で結んでやります。
図19.8.因果関係図の作成3 画像クリックで拡大 


最後に、(2)「全問解く前に時間切れとなる」という事象が、(B)「手を付けずに解かなかった問題」という事象を引き起こす因果関係を細かく詰めます。

(5)「時間をかければ解けそうな難し目の問題に手を付けられない」ことも、(6)「確実に解ける簡単な問題に手を付けられない」ことも、結局は、「手を付けずに解かなかった」のだから正解できていないと言えます。当たり前ですが、そもそも解いていない問題はどうやっても正解できません。しかし、試験後に見返してみると、どちらも正解できたはずなのに、と悔しがることになっているはずです。

そうすると、(B)「手を付けずに解けなかった問題」という括りがかなり使えそうです。
これと(2)「全問解く前に時間切れとなる」ことと上手く因果関係で繋いでやると、(5')「時間不足で、正解できたはずの問題に手を付けられない」ことが間に補えます。

つまり、(2)「全問解く前に時間切れとなる」ために、(5')「時間不足で、正解できたはずの問題に手を付けられない」ことが起き、そのため、(5)「時間をかければ解けそうな難し目の問題に手を付けられない」ことと、(6)「確実に解ける簡単な問題に手を付けられない」ことが生じているのだと分かります。
図19.8.因果関係図の作成3 画像クリックで拡大 


そして、(3)(4)(5)(6)は、(1)「総合点が低くなる」ことの原因となっています。
以上から、一連の連続する「困ったこと」の因果関係、すなわち、問題の構造が明らかになりました。
図19.8.因果関係図の作成3 画像クリックで拡大 

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5 因果関係図による本質的原因の特定

因果関係図ができあがったので、本質的な原因の特定をします。
一連の連続的に現れる「困ったこと」の全体の中で、どの「困ったこと」が鍵となっているのでしょうか。
複数ある「困ったこと」の中で、他の様々な「困ったこと」を引き起こしている核となる原因を探り特定します。

1.基本的な本質的原因の特定

因果関係図から分かっていることは、各事象・事実がどのような因果関係になっているのかという構造です。

さらに、各事象・事実の括りも分かっています。
(A)「手を付けたが間違えた問題」
(B)「手を付けずに解かなかった問題」
(C)「処理速度に関する課題」
(D)「心理面の課題」
大きく分けると、原因の事象はこの4つのまとまりに分けられ、本質的な問題(1)「総合点が低くなる」という結果を引き起こしています。
図19.9.本質的原因の特定 画像クリックで拡大 


こうしてみると、色々な「困ったこと」の多くが、(2)「全問を解く前に時間切れとなる」ことを起点として生じているのが見て取れます。これがが鍵となりそうだと予想されます。

つまり、(2)「全問を解く前に時間切れとなる」ことが解決されれば、(A)「手を付けたが間違えた問題」、(B)「手を付けずに解かなかった問題」、そして、(D)「心理面の課題」が一気に解決でき、(1)「総合点が低い」ことも解決されそうだと予想されます。
よって、(2)「全問を解く前に時間切れとなる」ことが本質的な原因の候補として考えられます。

しかし、(2)「全問を解く前に時間切れとなる」ことを本質的な原因だと決めつける前に、因果関係図をよく見ると、そもそも何故(2)「全問を解く前に時間切れとなる」ことが起きているのかが明らかになっています。

つまり、(C)「処理速度に関する課題」の括りの中の(8)「処理速度が遅い」ことが原因となってい、(2)「全問を解く前に時間切れとなる」という結果を引き起こしていることが分かります。

それでは、(2)「全問を解く前に時間切れとなる」ことと、(8)「処理速度が遅い」ことのどちらが問題解決のための本質的な原因だと言えるでしょうか。
これは、(2)「全問を解く前に時間切れとなる」ことが(8)「処理速度が遅い」ことによって生じているため、(8)「処理速度が遅い」ことの方が、より本質的な原因だと考えられます。

あるいは、こうも説明できます。
(2)「全問を解く前に時間切れとなる」ことを本質的な原因だと考えて、これを解決すべき課題だとします。
このとき、(2)「全問を解く前に時間切れとなる」ことを解決しようとすると、結局のところ(8)「処理速度が遅い」ことが原因となっているので、これを解決しないといけなくなります。
したがって、(8)「処理速度が遅い」ことが本質的な原因だと分かりました。

それでは、(8)「処理速度が遅い」ことが解決されたら、問題はどうなるでしょうか。
まず、(8)「処理速度が遅い」ことが解決されると、(C)「処理速度に関する課題」に含まれる「困ったこと」が解決されます。
つまり、(8)「処理速度が遅い」→(7)「1問当たりの解く時間が多くかかる」→(2)「全問解く前に時間切れとなる」という一連の問題が解消されると予想されます。
図19.10.問題の解決過程 画像クリックで拡大 


そうすると、(A)「手を付けたが間違えた問題」、(B)「手を付けずに解かなかった問題」、そして、(D)「心理面の課題」に含まれている「困ったこと」は、(2)「全問解く前に時間切れとなる」ことを起点として生じているので、これも解消されるだろうと予想されます。
その結果、(1)「総合点が低くなる」という本質的な問題も解決されることになるはずです。
図19.10.問題の解決過程 画像クリックで拡大 


このように、「構造型」の問題は、因果関係図によって連続的に現れる「困ったこと」や事象・事実の関係を可視化することで、どれが本質的な原因であり、問題なのかを明らかにすることができます。

そして、特定された本質的な原因を解消すると、因果関係の矢印(→)を経路として、様々な困ったことが解消されていくのが確認できます。 その結果、最終的に、本質的な問題が解決されることになります。

2.複数存在する本質的原因

なお、本質的な原因を特定する際に、気を付けておいて欲しいことがあります。
今、(19.1)では、たまたま「困ったこと」全体の中で一番最初に現れている事象、(8)「処理速度が遅い」ことが本質的な原因だと判断しましたが、必ずしも最初の事象が本質的な原因とは限りません。これは、「構造型」の問題の注意点として述べたことです。

つまり、最初の事象・事実が本質的な原因として、問題を生じさせているとしても、時間が経つ等して、最初の事象から既に発生してる事象が、独立して別の本質的な原因となっており、問題を引き起こしている可能性があります。
すなわち、本来は、2次的な原因でしかないと思われていたものが、本質的な原因となり得るということです。
図19.3.原因が複数存在する可能性 


(19.1)に即して見てみましょう。
ついさっき、様々な「困ったこと」を引き起こしている根本的で最初の事象である(8)「処理速度が遅い」ことが本質的な原因だと考えました。
本来なら、これが解決されれば、それから派生している「困ったこと」も因果関係の矢印を辿って自然と解決されるだろうと予想しました。

しかし、(8)「処理速度が遅い」ことが解決しても、(1)「総合点が低くなる」という本質的な問題が思ったより解決されない場合があります。
結論から言えば、この場合に考えられるのは、(D)「心理面の課題」が2次的な原因となっています。
つまり、(8)「処理速度が遅い」ことを解決すれば、(8)「処理速度が遅い」ことが引き起こしている「困ったこと」は解消されます。しかし、時間の経過とともに、(D)「心理面の課題」が(8)「処理速度が遅い」ことから独立して残ってしまっており、(D)「心理面の課題」が(8)「処理速度が遅い」こととは別の原因として、引き続き「困ったこと」を引き起こしています。

順を追って1つ1つの考えられる可能性を潰していきます。
まず、(8)「処理速度が遅い」ことが解決されれば、少なくとも(C)「処理速度に関する課題」は解決されます。つまり、「1問当たりの解く時間が多くかかる」ことと、(2)「全問解く前に時間切れとなる」ことは解消されます。

これは、(8)「処理速度が遅い」→(7)「1問当たりの解く時間が多くかかる」→(2)「全問解く前に時間切れとなる」という一連の因果関係の繋がりの強さから考えて間違いはなさそうだと判断できます。

さらに、このことから分かることは、特に、(2)「全問解く前に時間切れとなる」ことが解決されているので、「時間内に全問解くことができる」ようになっていることです。
図19.11.問題の解決過程2 画像クリックで拡大 


そうすると、(B)「手を付けずに解かなかった問題」も解消されていることになります。
「時間内に全問解くことができる」のに、(B)「手を付けずに解かなかった問題」が存在するとしたら、それは論理的に矛盾するからです。

したがって、(B)「手を付けずに解かなかった問題」が解消されるので、(5')「時間不足で、正解できたはずの問題に手を付けられない」こと、(5)「時間をかければ解けそうな難し目の問題に手を付けられない」こと、そして、(6)「確実に解ける簡単な問題に手を付けられない」ことは解消されることになります。
図19.11.問題の解決過程2 画像クリックで拡大 


ここで、(2)「全問解く前に時間切れとなる」ことが解決されれば、(A)「手を付けたが間違えた問題」も本来なら解消されると予想されていました。
が、しかし、「時間内に全問解くことができる」ことが、必ずしも(A)「手を付けたが間違えた問題」が正解になるとは論理的には限りません。なぜならば、全問手を付けて解いたからと言って、全問正解できるとは限らないからです。

もちろん、(2)「全問解く前に時間切れとなる」ことで生じる「焦り」から問題を間違えるという確率は下がりますが、依然として、解いたはいいが正解を得られずに問題を間違えることが発生する可能性はあります。
このことは、(2)と(A)の間の因果関係が弱いと表現もできますし、論理的に繋がりが弱いとも言えます。
どう表現するかは置いておくとしても、(A)「手を付けたが間違えた問題」は解決されずに残っている可能性があることが分かります。

とは言いながらも、(2)「全問解く前に時間切れとなる」ことは解決されているので、原因の1つがなくなったことになります。
ですから、(2)「全問解く前に時間切れとなる」ことと(A)「手を付けたが間違えた問題」との因果関係は切断されています。
また、最初の原因である(2)「全問解く前に時間切れとなる」ことが解決されているので、(D)「心理面の課題」の中の(2')「試験前から時間不足が予想される」ことへの因果関係も切断されていることになります。
図19.11.問題の解決過程2 画像クリックで拡大 


問題なのは、(2)「全問を解く前に時間切れとなる」という多くの「困ったこと」を引き起こしていた事象が解決されたにもかかわらず、(A)「手を付けたが間違えた問題」が相も変わらず残って(1)「総合点が低くなる」ことを引き起こしているのは何故なのかです。

そこで気付くことがあります。
(2)「全問解く前に時間切れとなる」ことが解決されても、(D)「心理面の課題」が解消されていないのではないかと。

つまり、(8)「処理速度が遅い」ことが解決されて、「時間内に全問解くことができる」ようになったのに、依然として「焦り」が生じているのではないかと考えられます。
その理由は、過去問等を何度も解いて演習を繰り返すことである種の刷り込みが起きたからだと言えます。

そもそも、(1)「総合点が低くなる」ことの原因が、(2)「全問解く前に時間切れとなる」ことを中心として生じる事象や事実のせいだと気付けた理由を考えてみください。何故でしたか。
その理由は、「過去問等を解いて演習を繰り返す」ことによってでした。
演習を通じて何度も「時間切れ」となることを経験することで、一連の問題の構造を特定できたのでした。したがって、「時間切れ」となることを何度も経験したことになります。
そして、何度も経験すると癖になることがあります。
図19.12.問題の残存の仕方 


例えば、スポーツでも、似たようなことがあります。そうですね…
野球で、制球力のない投手を思い浮かべてみてください。いわゆるノーコンピッチャーというやつです。
そのノーコンピッチャーが、投げ方を変えたり練習したりして、制球力を磨いて十分にストライクを取れるようになったとします。しかし、身体面や技術面が改善されて実際に制球力が高くなったのに、いざ実戦になると、磨いたはずの制球力を発揮できないことがあります。

その原因として、制球力が悪かった時の記憶が強く残っており、変に緊張する等して改善したはずの制球力を発揮できないことが挙げられます。悪い時のイメージが強すぎて、無意識に無駄な動きや力が入ってしまうからです。

このように、そもそもの問題の原因が解決されたにもかかわらず、制球力が悪かったという経験が心理面の問題を新たに形成しており、こちらの心理面、精神面、流行りの言葉で言えばメンタル面の問題が技術面の問題から独立して残ってしまい、「制球力が悪い」という全体的な問題が解決されずに引き続き起きていることがあります。

(19.1)の話に戻せば、実際には「処理速度」が十分に速くなったのにもかかわらず、何度も「時間切れ」を経験していたために、また「時間切れ」になるのではと考えてしまい、必要のない「焦り」が生じて、(D)「心理面の課題」がそもそもの原因である(2)「全問解く前に時間切れとなる」から独立して残ってしまっています。

そうすると、(2")「全問解きたい上に、難しい問題に時間をかけたいので、焦る」ことが残っていることになるので、これから生じる(A)「手を付けたが間違えた問題」の様々な「困ったこと」が解消されないことになります。

このようにして、そもそもの原因である(8)「処理速度が遅い」ことが解決されても、(1)「総合点が低い」という問題が思ったよりも解決されないということになります。
今、独立して残ってしまった一連の「困ったこと」だけを抜き出すとこうなります。
図19.13.原因の独立残存 画像クリックで拡大 


そうであるならば、(8)「処理速度が遅い」こととは別に、(2")「全問解きたい上に、難しい問題に時間をかけたいので、焦る」ことを解決する必要があると判断できます。
(3')「全問解こうとするも時間不足で焦り、処理の正確性が落ちる」ことに繋がる、(2")「全問解きたい上に、難しい問題に時間をかけたいので、焦る」ことが原因なので、これを解消してやることになります。

このように、当初、(8)「処理速度が遅い」ことが本質的な原因だと考えて、これを解決したのに問題が解消されなかった場合には、別の本質的な原因を探して特定しないといけません。
今回は、最初の根本的な原因である(8)「処理速度が遅い」ことから、既に起きている「困ったこと」である(2")「全問解きたい上に、難しい問題に時間をかけたいので、焦る」ことが、独立して2次的な原因として残ってしまい、これがもう1つの本質的な原因として問題を引き続き起こしていました。

以上で見た様に、最初の事象・事実が本質的な原因として、問題を生じさせているとしても、時間が経つ等して、最初の事象から既に発生してる事象が、本質的な原因となっており、問題を引き起こしている可能性があります。
つまり、本来は2次的な原因でしかないと思われていたものが、本質的な原因となり得るということです。本質的な原因を特定する際には、このことに気を付けないといけません。

そして、「これが原因である」という考えは、あくまで仮説であるということでもあります。
ある原因を本質的な原因だと考えて解決策を講じてみて、実際に問題が解決されない場合には、本質的な原因だと考えていた事象が、本質的な原因ではなかったり、他の事象が元々の原因から離れて、独自の問題となっているのではないかと考えて、新たに解決策を考える必要が出て来ることにも気を付けないといけません。

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6 循環する「構造型」の問題

「構造型」の問題の最後に、問題が循環する場合もあることに少し触れておきます。
(19.1)で見たのは、問題が循環することなく、最初の原因から始まって、何かしらの結果たる「困ったこと」に行き着く場合でした。

しかし、「構造型」の問題は、様々な事象が相互に関係し合いながら「困ったこと」を形成しているものですが、必ずしも、最初の原因事象から、最後の結果に至るとは限りません。
「構造型」の問題には、どの事象が最初の原因だと特定することができずに、どの事象が最終的な結果であるのかも特定できずに、ある原因が結果となり、結果がまた別の原因となり、グルグルと回り続ける場合もあります。
各事象が原因と結果となり、終わることなく循環する構造を持った「構造型」の問題です。
この循環する「構造型」の問題について少し見ておきます。

その例が、デフレーション、あるいは、デフレ・スパイラルです。
皆さんも「失われた20年」や「失われた10年」といった言葉を聞いたことがあるかと思います。これは、1991年のバブル崩壊以後、日本経済がデフレーションに陥って経済成長をほとんどしなくなり、長期の経済低迷、不況を指した言葉です。この「失われた20年」の原因分析は学者の中でも色々と議論されていて意見も様々なので、ここでは深入りしません。が、その中の1つの大きな問題であるデフレーションについて、どのようにして起きるかの構造を見てみます。

今から話すことは、高校の教科で言えば、主に政治・経済で学ぶようなことです。なお、大学で修めるマクロ経済学で使われる様な数式や厳密な用語の定義はここでは使いません。どういった構造によってデフレーションが起きるかを大枠で確認するに留めておきます。興味があるのなら自分で書籍等にあたってください。

デフレの話に入る前に、経済の大原則である需要と供給について説明します。
経済の多くの分野で、モノの価値は需要と供給によって決定されていると言っても過言ではありません。

需要とは、あるモノが欲しいという願望のことです。
私達は生きていく上で、世にある商品や材料、労働力、あるいは、お金など、手に入れたいモノが多くあります。

供給とは、あるモノをつくりたいという願望のことです。
世にある商品や材料、労働力、あるいは、お金などは自然と湧いて出て来たわけではありません。誰かがつくらないと存在しないことになります。

そして、現代、個人個人が単独で何かを生産して消費して終わる世界ではなく、欲しいという願望と作りたいという願望によって、日本中・世界中からモノが集まって、取引されています。この取引の場を市場と言います。
つまり、市場を通じて、需要と供給が調整されることになります。

経済の原則:モノの価値は需要と供給で決定される
需要:あるモノが欲しいという願望
供給:あるモノをつくりたいという願望
市場:モノの取引の場
→ 市場を通じて需要と供給を調整

市場を通じて需要と供給が調整されて、両者が均衡するとモノの価値が決まります。モノの価値の決まり方を見ましょう。

需要が供給を上回ると、モノの価値は上がります。
需要が供給を上回るとは、欲しいと思う人の数が、作りたいと思う人の数よりも多いことを意味します。と言うことは、モノが足りていないことになります。そうすると、欲しいと思う人は、他の欲しいと思う人よりも高い値段を払っても、モノを買おうとするはずです。作りたいと思う人は、より高く買ってもらった方が得なので、高い値段を払う人に売ろうとします。したがって、モノの価値は上がることになります。

以上より、需要が供給よりも大きいなら、モノの価値は上がります。

モノの価値の決定方法
需要 > 供給 ⇒ 価値上昇

逆に、需要が供給を下回ると、モノの価値は下がります。
需要が供給を下回るとは、欲しいと思う人の数が、作りたいと思う人の数よりも少ないことを意味します。と言うことは、モノが溢れていることになります。そうすると、欲しいと思う人は、高ければ買おうとしません。作りたいと思う人は、まったく売れないよりは少しでも売れた方がマシなので、安く売ろうとします。したがって、モノの価値は下がることになります。

以上より、需要が供給よりも小さいなら、モノの価値は下がります。

モノの価値の決定方法
需要 > 供給 ⇒ 価値上昇
需要 < 供給 ⇒ 価値下落

こうして、モノの価値が上がったり下がったりしながら、いずれは、どこかで安定するはずです。これを均衡と言います。したがって、均衡は、需要と供給が一致しており、価値が決まることだと分かります。
ですから、需要と供給が一致するなら、モノの価値が安定します。

モノの価値の決定方法
需要 > 供給 ⇒ 価値上昇
需要 < 供給 ⇒ 価値下落
需要 = 供給 ⇒ 価値安定(均衡)

もしモノが商品であるとしたら、価値は価格として表されます。
これは分かりやすかと思います。皆さんも何か商品を買おうとすると、価格を見て決めているはずです。需要者は顧客で、供給者は企業というのが代表的です。企業が商品を市場で売って、顧客はその商品を市場で買います。

様々なモノの価値
価格:商品の価値

なお、商品は、鉛筆や書籍といった物だけではなく、接客等のサービスも含まれます。こうした商品たる物やサービスの価格を総合して、物価と言います。

様々なモノの価値
価格:商品の価値
 物価:物・サービスの価格

もしモノが労働力であるとしたら、価値は賃金として表されます。
バイトでも何でもいいですが、働いてみないとピンと来ないかもしれませんが、企業が需要者で、労働者が供給者です。企業は賃金を表示して、労働力を売ってくれる人を探します。労働者は自分でどれだけの賃金ならそこで働いても良いかを考えます。

様々なモノの価値
価格:商品の価値
 物価:物・サービスの価格
賃金:労働の価値

このように、モノの価値は、需要と供給で決まるのが大原則です。もちろん、世の中は複雑で、様々な慣習や法律や契約や規則で規制がかけられたりしており、完全にこの原則のみに則って動いているわけではありませんが、基本的に経済はこの需要と供給によって動きます。

今から説明するデフレーションについても、この需要と供給の原則をしっかりと意識して聴いてください。

デフレーションとは、物価下落です。物価とは、物やサービスの価格でしたね。
つまり、デフレーションとは、物やサービスの価格が下がることです。デフレーションは、略してデフレと言われたりすることが多いです。英語の deflation をカタカナにしただけです。
図19.14.デフレの構造 画像クリックで拡大 


物価のことを物やサービスの価格と言いましたが、正確には消費者物価指数の数字で価格の変動を見ます。
詳しいことは省略しますが、企業が生産のために要する価格とかではなく、一般人が生活するための物価について考えてください。普通デフレと言うとき、この消費者物価指数が下がることを指します。
ちなみに、日本政府の見解では、2年以上の継続した物価水準の下落をデフレとしています。

さて、デフレが物価が下がることだと分かりました。では、物価が下がると何が起きるのでしょうか。その影響を見てみます。

まず、物やサービスの価格が下がるということは、お金の価値が上がることになります。
例えば、10年前に200円で買えていた物が、今100円で買えるようになっとします。物の価格が200円から100円に下がっています。

ある物の価格
 昔 200円 → 今 100円

そうすると、昔の200円の価値は、現在の100円の価値だということになります。
逆から言えば、現在の100円の価値は、昔の200円に相当することになります。
昔だったら200円出さないと買えない物が、今なら100円で買えるのだから、現在の1円当たりの価値と過去の1円当たりの価値はどれくらい違いがあるのでしょうか。
これは、過去のお金の価値と現在のお金の価値の比で分かります。

ある物の価格
 昔 200円 → 今 100円
現在と過去のお金の価値の違い
 現在:過去=100:200
 過去/現在=200/100=2(倍)

200÷100=2より、現在の100円は、昔の100円の2倍の価値があることになります。
たまに、昔と今の値段の数字を比べると、今の方が数字が小さいので、つい今の方が価値が低いと考えてしまう人がいます。しかし、比をとれば明らかなように、価値が上がっていることに気を付けてください。少ないお金で、多くの物を買えるのだから、お金の価値は上がっていることになります。
なお、お金のことを経済学では、貨幣と呼ぶことが多いです。
図19.14.デフレの構造 画像クリックで拡大 


このように、デフレ、すなわち、物価の下落は、貨幣の価値の上昇を引き起こしていることが分かります。
物価の下落から貨幣の価値の上昇が起きることが分かりました。

それでは、貨幣の価値が上がるとどのような影響があるのでしょうか。

貨幣の価値が上がるいうことは、借金の実質的な価値が上がることになります。
通常、借金は借りた時のお金の数字をそのまま返すことになります。返す時にお金の価値が上がっていようが、下がっていようが関係なく、借りた時の額を返すのが普通です。こうした額面上の数字を名目と言います。
例えば、300万円を10年前に借りて10年後に返すとします。

名目
10年前に借りた額 300万
10年後に返す額 300万

借りる時の額も返す時の額も300万円のままです。名目上は300万円で変わりません。
ここで、さっき使った物価の下落と貨幣価値の上昇の数字を流用しましょう。

今10年前に比べてデフレになっており、お金の価値が2倍になっているとします。
そうすると、借金の300万円は、数字はそのままで、返す額も300万円のままです。
が、しかし、現在のお金の価値が、過去に比べて2倍に上がっています。
したがって、10年前に借りた額は300万円で、実際に使える金額も300万円なのに、それから10年後の現在では、10年前の貨幣価値で、600万円返さないといけないことを意味します。

名目実質
10年前に借りた額 300万600万
10年後に返す額 300万

これは言ってみれば、借りる金額が300万円で、返す金額が600万円という借り方をしていることになります。
つまり、借金をすれば、将来、借金の額以上に返さないといけないことになります。

なお、借金のことを経済学では債務と言います。また、名目上の価値ではなく、実際の価値のことを実質と言います。
図19.14.デフレの構造 画像クリックで拡大 


このように、貨幣の価値の上昇は、債務の実質的な価値の上昇を引き起こしているのが分かります。

さらに、お金を借りると利子がつくのが普通です。いわゆる金利です。
何で金利なんかつけるんだと思うかもしれませんが、簡単に言えばこんな感じです。
まず、お金を貸す方からしたら、貸している間は貸したお金は使えず、それ故に、そのお金でできたはずのことができません。その貸したお金を他のことに使えば、別の儲ける機会があったわけです。それにもかかわらず、お金を貸しているのだから、金利をつけて返してもらわないと貸していられないとやっていられません。
さらに、貸す方からしたら、借りた人が返してくれる保証もありません。ですから、貸す方からしたら、返ってくるか分からないリスクをとることに対する保証的な意味もあります。
また、デフレの反対のインフレの場合、年月が経つにつれて、お金の価値が下がりますがから、下がった貨幣価値の分を金利で補う意味もあります。

さて、債務の場合と同様に、貨幣の価値が上がると、金利も実質的に上がることになります。
例えば、100円を借りて、返す時に105円返さないといけないとします。金利は(100-105)÷100×100=5%になります。
またしても、デフレで貨幣価値が下がっており、返す時にお金の価値が2倍になっていたら、金利は実質的に5×2=10円分になっていることになります。

100円借りて105円返す場合
金利 5%
(100-105)÷100×100=5
→名目金利 5円
→実質金利 5×2=10(円)
現在と過去のお金の価値の違い
 現在:過去=100:200
 過去/現在=200/100=2(倍) 

100円を借りた時、名目上の金利は5円でしたが、返す時には実質的に10円返さないといけません。<BR>デフレによって貨幣価値が上がっていると、金利の実質的な価値も上がってしまっています。
図19.14.デフレの構造 画像クリックで拡大 


このように、貨幣の価値の上昇は、金利の実質的な価値の上昇を引き起こします。

貨幣の価値の上昇が、債務と金利の実質的な価値が上昇することが分かりました。
これって要するに、借金をする時の名目上の額に対して、将来返さないといけない実質的金額が勝手に膨れ上がることを意味しています。

これでは、大規模な借金をしようと思い難くなります。
特に、経済の中で、大規模な借金をするのは、企業です。工場を建てるにしても、新店舗を出すにしても、巨額の初期費用が必要です。
こうした資金を投下する企業の活動を投資と言います。

このように、企業は、お金を借りて投資をします。しかし、デフレの下で、貨幣の価値が上がり続けていると、債務と金利の実質的な価値が上がって行き、借金が勝手に膨れ上がって行きます。

何もしていないのに、勝手に借金の実質的な価値が上がって行っては、余程のことがない限り、新たに借金をしてまで投資をしようと思わなくなります。

ですから、債務と金利の実質的な価値の上昇は、投資の落ち込みを引き起こします。
図19.14.デフレの構造 画像クリックで拡大 


さらに、債務の実質的な価値が上がると、倒産が増えます。
デフレの下では、何もしていなくても借金の実質的な価値が膨れ上がるので、本当にギリギリの経営をしている企業は簡単に潰れます。そのような企業ではなく、まともな企業だとしても、債務の実質的な価値が膨れ上がって行くのは、経営するには厳しい状況です。いずれは潰れるかもしれません。
図19.14.デフレの構造 画像クリックで拡大 


このように、債務の実質的な価値の上昇は、倒産の増加を引き起こします。

さて、投資の落ち込みはどのような影響を与えるのでしょうか。考えてみましょう。

投資の落ち込みは、GDPを下落させます。
GDPとは、Gross Domestic Prodcut の略称です。国内総生産と日本語に訳されます。Gross が「全体の、総計の」という意味の形容詞で、Domestic が「国内の、国産の」という意味の形容詞で、Product が「生産物」という意味の名詞です。
つまり、GDP・国内総生産とは、一定期間に国内で生み出された付加価値の総額が下がります。普通、一定期間は1年に設定されています。GDPを簡単に言えば、1年間の日本国内で生み出される価値の総額のことです。
人口規模や国土の大きさや資源などの要因から、GDPが大きいほど国民全体が豊かであるとは言えませんが、GDPが大きければ大きいほど生み出される価値が大きいことを意味するので、GDPは、一国の経済規模を表しているとも言えます。

投資が落ち込むということは、工場や店舗の拡大といったことは控えるので、新たに価値が生み出さなくなります。
と言うことは、新たに生み出される価値の総額は小さくなることになります。
図19.14.デフレの構造 画像クリックで拡大 


したがって、投資の落ち込みは、GDPの下落を引き起こします。

その逆に、GDPが下がれば、投資も落ち込むことになります。
企業は、投資をするとき、日本全体の経済の流れを見ながら投資します。GDPが大きく増えていれば、物やサービスが活発にやりとりしているのが分かります。と言うことは、需要が大きく存在しているのが予想されますから、積極的に投資をして供給を増やそうとします。逆に、GDPが増えなかったり、下がったりすれば、物やサービスのやりとりが少ないことが分かります。
と言うことは、GDPの落ち込みからは、需要があまり存在していないことが予想されますから、投資を控えようとします。
図19.14.デフレの構造 画像クリックで拡大 


したがって、GDPの下落は、投資の落ち込みを引き起こします。

GDPの下落と投資の落ち込みの関係を見ると、相互に悪い方に作用しているのが分かります。
これだけでも何だかマズい気がしてきます。

さらに、GDPが下がれば、解雇と倒産が増えます。
GDPが下がるということは、生産される価値の総額が縮小するのですから、少なくなった総額を皆で分け合うことになります。分け前が少なくなると潰れる企業も出てきます。
つまり、倒産する企業が増えます。
また、倒産までしなくとも、企業の規模を縮小して乗り切ろうとするものも増えます。GDPが増えていれば必要だったはずの人員は、GDPが下がれば不要で、赤字の原因となることになります。
ですから、解雇される労働者が増えます。
図19.14.デフレの構造 画像クリックで拡大


したがって、GDPの下落は、解雇の増大と倒産の増大を引き起こします。

これだけではなく、GDPの下落は、消費を下げることにもなります。
GDPが下がると、人は景気が悪いと感じるようになります。そうすると、給料が下がるでしょうし、首を切られるかもしれないし、勤めている会社が潰れるかもしれないので、万が一に備えて物を買うのを控えて貯蓄をしようとします。
消費者が無駄遣いはせずにお金を貯めておこうとすれば、消費は下がります。
図19.14.デフレの構造 画像クリックで拡大 


したがって、GDPの下落は、消費の低迷を引き起こします。

その逆に、消費が低迷すると、GDPが下がります。
消費が低迷するということは、皆が物やサービスを購入しようとしなくなることを意味します。要は、需要が減ることになります。欲しいと思う人が減るので、生み出される価値の総額も減ることになります。
図19.14.デフレの構造 画像クリックで拡大 


したがって、消費の低迷は、GDPの下落を引き起こします。

さらに、消費の低迷は、投資の落ち込みを誘発します。
消費の低迷、つまりは、物が売れなくなるので、企業は、既に作って倉庫に堪った物も売りさばかないといけませんし、新たに物を作るのを控えるようになります。
今あるもので間に合わせられるので、企業は新たに投資をすることを控えます。
図19.14.デフレの構造 画像クリックで拡大 


したがって、消費の低迷は、投資の落ち込みを引き起こします。

解雇と倒産が増えると何が起きるでしょうか。

それは失業者の増加です。

解雇と倒産が増えるということは、労働者から見たら職を失うことです。
企業自体が潰れなくとも、経営が厳しくなると人員整理(リストラ)で首を切られる人が出てきます。解雇です。
「人員整理反対!、労働者の権利を守れ!」と叫んでも、企業が潰れてしまえば、首を切る切らないではなく、皆が無職になります。
したがって、解雇だろうが倒産だろうが、どちらにしても、失業者を増やします。失業者が増えれば、失業率が上がります。
図19.14.デフレの構造 画像クリックで拡大 


ですから、解雇の増大と倒産の増大は、失業率の上昇を引き起こします。

失業率が上昇するれば、消費が低迷します。
無職の人は、再就職できるまで、貯蓄や失業保険で何とか乗り切ろうとします。安定して給料が貰えていた時とは異なり、いつ再就職できるかも分かず貯蓄がつきるのも恐ろしく、保険からの収入も大して多くありません。物を買うことを控えて、最低限の生活をして乗り切ろうとします。
失業率が上がるということは、こうした苦しい状況に置かれる人が増えるので、消費の全体量も下がって行きます。
図19.14.デフレの構造 画像クリックで拡大 


したがって、失業率の上昇は、消費の低迷を引き起こします。

「困ったこと」が「困ったこと」を引き起こし、延々と「困ったこと」をグルグル回る構造が次第に見えてきました。続けましょう。

失業率が上がると、就職したい人が増えます。
失業率が上がれば、無職の人が増えます。無職の人は、大抵、再就職をしようとして職を探します。すなわち、求職者です。
図19.14.デフレの構造 画像クリックで拡大 


したがって、失業率の上昇は、求職者の増加を引き起こします。

求職者が増えると、賃金が下がります。
求職者とは就職したい人達です。つまり、労働力を提供したい側です。いわば、供給の役割を担います。
求人を出す企業は、労働力が欲しがる側です。いわば、需要の役割を担います。
求職者が増えれば、需要よりも供給が増えるので、労働力の価値である賃金は下がります。これは需要と供給の原則によります。
要は、求職者が多く存在するので、企業は安く人を雇えるようになるということです。

需要<供給価値下落
求人数<求職者賃金低下

まるで、ありふれた物が非常に安い値段でしか買われないのと同じことです。
図19.14.デフレの構造 画像クリックで拡大 


したがって、求職者の増加は、賃金の低下を引き起こします。

賃金が低下すると、物価が下がります。
賃金が減るというのは、給料が減ること、収入が減ることと同じ意味です。
給料が減れば、物を買えなくなるので、需要が減ります。
そうすると、需要が供給を下回ることになるので、物の価格は下がります。需要と供給の原則です。

需要<供給価値下落
購買量<生産量物価下落

図19.14.デフレの構造 画像クリックで拡大 


したがって、賃金の低下は、物価の下落を引き起こします。

こうして、物価の下落、すなわち、デフレーションから出発した問題が、グルっと一周回って、またデフレに戻ってきました。

この因果関係図からは、不況がグルグルと循環しながらいつまでたっても終わらず、デフレがそれを一層推し進めて、さらに、不況がデフレを一層進めるという構造が見て取れます。
このデフレが継続して起き続ける悪循環をデフレ・スパイラルと呼びます。

この不況とデフレの問題のように、「構造型」の問題は、問題を引き起こすそもそもの原因が何であっても、一旦問題が顕在化すると、一連の「困ったこと」をグルグルと循環してしまうものがあることに気を付けてください。
こうした複雑な因果関係図ができあがると、1つの本質的な原因を解消するだけでは問題が解決されない場合が多々あります。

▼雑談を飛ばす
難しい話をちょっと長くやってしまいました。今から話すことは余談なので、肩の力を抜いて軽く聞いてください。
この因果関係図が示すデフレの怖さ以外に、もう1つデフレには怖い所があります。
それは、物価が下がると聞くと、何だか良いことのように感じる人が少なからずいることです。

でも、実際には、破滅に向かっているだけです。それは不況とデフレの構造を見た今ならハッキリと理解できるはずです。
デフレの最初の内は、給料は上がらないけど、商品の値段が下がったし、「まっ、いっか」と思っていることができます。
特に、不景気だろうが景気が良かろうがほとんど関係なく一定の金額が入ってくる人はそう思うでしょう。高校生くらいだとお小遣い制の人も多いでしょうから、一定の金額のお小遣いの中でやりくりすることが多いはずです。物の値段が下がれば買える物も多くなりますから、悪いことだとは思わないでしょう。

このように、これ以上収入が上がらず横ばいが続くなら、デフレーションは良いことのように思えます。
「不景気だ、不景気だ」と騒げば、マズイなと感じる人がほとんどなのですが、デフレになると、大した問題ではないように錯覚する人が少なからず出て来ることが多いです。
これは実際に日本で見られた現象です。

しかし、因果関係図からも分かるように、デフレや不況を長く続けていると、倒産する企業が増え、失業者が増えて行きます。
そうすると、自分で生活できない人が増えて行く上に、企業数も企業の規模も縮小するので再就職も、ままなりません。最後の最後の命綱として政府に頼ろうにも、政府の税収はGDPと共に減って行くので、助けてあげられなくなります。生活ができなくなる人が徐々に徐々に増えて行くことになります。
これは今の日本でも感じている人は多くいるでしょう。

こういったジリ貧の状況になるから、デフレーションやデフレ・スパイラルに陥ってはならないし、仮にデフレになったら即座に脱出しなければならないという認識がなされます。ですから、政府はインフレにしようと努めます。

インフレとは、デフレーションの対義語が、インフレーションの略語です。英語の inflation です。デフレの逆なので、インフレの定義は、物価が上昇することだとすぐ分かるはずです。物価が上がるので、お金の価値は下がります。

もちろん、インフレが良いと言っても、ハイパーインフレという過度なインフレは、それはそれで困りものです。給料が上がる速度よりもはるかに速い物価の上昇が起きると、あっという間に生活ができなくなってしまいます。
ですから、政府は、マイルドなインフレと言って政府は、2〜3%を目安にインフレを目指しています。

なお、今回はデフレの構造を説明するために物価の下落から説明を始めましたが、いきなりデフレのような物価の下落から始まることは普通ありません。
実際にデフレが生じる問題の始まり方は様々です。
ひどい悪天候や天変地異などの自然災害がきっかけになることもあれば、大企業が経営を失敗してしまったり、倒産してしまったり、金融危機が起きたり、あるいは海外で戦争・騒乱が起きて貿易に支障が出たりする、などなどです。

こうして、GDPが下落して不景気・不況に突入するのが第一段階です。
放っておいても勝手に回復できるような軽い不景気なら、本格的にデフレに陥る前に正常化できます。
が、そうではない場合、放っておくと因果関係図のような経路を辿ってデフレに入って行きます。そうすると、GDPの下落をデフレが一層推し進めて行くことなります。

デフレの始まり方が何にせよ、一度本格的にデフレに陥ってしまうと、問題の解決が非常に困難になります。
因果関係の矢印が色々な所に繋がって相互に影響しながら循環しているので、解決策の効果が上手く出ないと、1つの「困ったこと」を解決しても、既に生じている他の「困ったこと」を経由して延々と問題を再生産し続けるからです。

ちなみに、この解決策としては、財政政策と金融政策の2つが主に考えられます。

財政政策は、政府が支出をすることで、主に投資の落ち込みを直接的に刺激することで不況を解消しデフレを解決しようとします。
不景気になると、GDPが下落して、消費者も企業も活動を控えようとする心理が働きます。つまり、消費者は消費しない、企業は投資しないという状況は、身銭を切って景気を良くするほどのお金を使う人が誰もいないということです。

そこで、政府が公共事業などで巨額のお金を使って投資をします。
そうすると、そこで仕事が生まれます。政府から得られる仕事につられて、企業は投資を増やそうとします。したがって、投資の落ち込みが解消され、GDPも増え、解雇や倒産が減少し、失業率が下がり、消費も増えるという循環が生まれます。さらには、失業率が改善されるので、デフレも改善されインフレに向かうと考えられます。

しかし、財政赤字が積みあがって行くのが問題です。
また、政府が財政出動すると、それに頼った企業が出て来るので、財政出動が終わったときに、経済が歪な状態になっているかもしれません。
財政政策は短期的には効果があっても、上手く効果が現れず長期的になると、財政赤字が生まれるだけになってしまう危険もあります。

金融政策は、主に金利や物価と貨幣価値を調整することで解決しようとします。
金利を調整する場合、日本銀行が金利を下げます。金利を下げれば、お金を借りやすくなるからです。
しかし、日本の場合、ゼロ金利政策と言って、ほぼ0%の金利にしたにもかかわらず、お金を借りて投資をしようとする企業が増えませんでした。

もう1つ、物価と貨幣価値を調整する場合は、量的緩和というお金を大量に刷ってお金を大量に市場に流す方法があります。
デフレで貨幣価値が上がるのならば、貨幣価値が下がるようにお金を刷りまくればいいのだという考えです。したがって、貨幣価値が下がるので、物価が上がります。つまり、インフレになります。インフレになると、貯金していても仕方なく、どうせ将来には借金の実質的な価値も下がることになるので、投資をしておいた方が得だということになります。
そうすると、投資が拡大して、景気が良くなるということになります。
図19.15.量的緩和によるインフレ誘導 画像クリックで拡大


デフレが進む速度よりも速くお金を刷って、そのお金を市場に供給してやります。黄色の因果関係図の矢印()が太いのは、デフレの構造以上にインフレを進めることで、デフレを打ち消そうとしていることを表しています。

しかし、量的緩和は、物価を無理矢理上げるのですが、投資や消費が上手く拡大しないと、給料はろくに上がらないのに、物価だけどんどん上がって行くということにもなり得ます。つまり、不景気で経済が萎んでいくのに、物価だけが上がって行くという最悪の状況になります。いわゆるスタグフレーションというやつです。
デフレの構造は複雑なので、この因果関係の中のどの部分で、インフレ政策による好循環を断ち切る要因が生じるか分かりません。そうすると、たださえ、デフレで苦しんでいるのに、インフレに無理矢理しようとお金を刷っていれば、景気拡大に繋がらず、ひたすら物価の上昇だけを招いてしまう危険があるのも理解できるはずです。
例えば、デフレ脱却のためのインフレ政策中にもかかわらず、好循環が発生しかけているときに消費税等の増税を行えば、インフレを打消してしまい、何がしたいのかよく分からないことになります。

また、インフレとは本来、景気が良くなり、失業率が下がることから始まり、失業率が下がったために賃金が上がり、そして、賃金が上がったために物価も上がるというのが通常の経路だと考える立場からすれば、物価を無理矢理上げても失業率の改善にはつながらないし、賃金の上昇にも結びつかないと批判されます。「真の逆は必ずしも真ならず」です。

財政政策も金融政策も、どちらも一長一短ですし、どちらか一方だけやっても仕方ないので、普通は財政政策と金融政策の2つを組み合わせながら実行するのが普通です。
とは言っても、今の日本は、1000兆を超える財政赤字に、少子高齢化、人口減、労働人口の減少、東京一極集中といった具合に様々な問題が絡み合って中々難しい状況にあります。
さてさて、これをどう解決するのかは、一筋縄ではいきません。若い人は頑張ってください。

循環する「構造型」の問題の例として、不況とデフレの構造について説明しました。もっと詳しく正確に知りたければ、「時事が分かる!」や「5分で分かる」とかいったような安い売り文句の学者でもない有名人が書いた本を読むよりは、マクロ経済学の教科書を読んだ方がいいかと思います。

背伸びした高校生でも読めそうなものとしては、伊藤元重氏の『マクロ経済学』があります。
数式がそこそこ出て来てもかまわず普通にマクロ経済学を知りたいのなら、吉川洋氏の『マクロ経済学(現代経済学入門)』などがお薦めです。
後は、外国人経済学者のものとして、マンキュー氏の『マンキュー入門経済学』『マンキュー経済学Iミクロ編』『マンキュー経済学IIマクロ編』やスティグリッツ氏の『スティグリッツ入門経済学』『スティグリッツミクロ経済学』『スティグリッツマクロ経済学』等が有名です。詳しくかなり幅広い分野を網羅していますが、その分、分厚いです。
高校生や教養程度の知識を仕入れたい人には、伊藤氏の『マクロ経済学』くらいがちょうどいいのではないでしょうか。それ以外は、経済学部の学生が読むようなものです。
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7 まとめ

今まで説明して来た「構造型」の問題と因果関係図をまとめておきます。
まず「構造型」の問題は、複数の事象がそれぞれ何かしらの機能を果たしつつ、相互に関係して複数の「困ったこと」が連続的に現れる問題でした。
ですから、ある一連の事柄に関連して、ある時点における観察または推定される事実としての原因と結果の関係を矢印で結合して図示する因果関係図が分析のために役に立ちました。

因果関係図の作成は、情報収集をした後に、次の手順を踏むのが原則でした。

因果関係図の作り方
(1)各事象は、主語と述語を用いて明確に記述する
(2)各事象の因果関係に従って、原因である事象から結果である事象に矢印(→)を繋ぐ
(3)個々の事象同士の関係性を全体に渡り過不足なく捉える

論理ツリーとは異なり、ダブりなくモレなく(MECE)事象を捉えることについては、あまりこだわる必要はありませんでした。
図19.3.因果関係図  


因果関係図が完成したら、本質的な問題と本質的な原因を特定します。
本質的な問題は、「困ったこと」全体や複数の「困ったこと」である場合もありますし、代表として1つの「困ったこと」に集約されることもあります。
本質的な原因は、一連の「困ったこと」の中で、解決すれば問題の全体が解消される事象です。
なお、本質的な原因は1つとは限りません。問題が複雑に大きくなれば、解決すべき本質的な原因は複数になることもあります。
また、本質的な原因だと予測したものを解決しても、問題が解決されないこともあります。時間の経過などによって、そもそもの原因から離れて2次、3次の原因である事象が、本質的な原因となって問題を引き起こしている場合などです。その場合は、最初の予測したもの以外から本質的な原因を改めて見つける必要があります。
本質的な原因の特定は、あくまで仮説思考です。「問題を引き起こしている本質的な原因はこれだ」と仮定すると、問題がなぜ起きているのかが説明できるというものです。実際に解決策を実行しても問題が解決されない場合は、仮説が正しくなかったことの証明になります。そのときは、その仮説を破棄して、新たな仮説を立てる必要があるということです。

本質的な原因が特定されたら、後は裏返しにして課題化して、論理ツリーの how ツリーを用いて解決策を考えて行けばいいだけです。

以上で、「構造型」の問題と因果関係図の解説を終わります。


前頁:第18章 設定型の問題と創造型の問題
ページトップへ:第19章 因果関係図
次頁:第20章 論理ピラミッドの基本
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 参考文献
◎野矢茂樹 『論理学』 東京大学出版会
○野矢茂樹 『新版 論理トレーニング』 産業図書
○照屋 華子、岡田 恵子 『ロジカル・シンキング』 東洋経済新報社
・照屋 華子 『ロジカル・ライティング』 東洋経済新報社
・アンドリュー・J・サター著/中村起子訳 『図解主義!』 インデックス・コミュニケーション
講義で適宜使った専門知識に関する文献
・吉川洋 『マクロ経済学(現代経済学入門)』 岩波書店
・伊藤元重氏 『マクロ経済学』 日本評論社
・マンキュー 『マンキュー入門経済学』『マンキュー経済学Iミクロ編』『マンキュー経済学IIマクロ編』東洋経済新報社
・スティグリッツ 『スティグリッツ入門経済学』『スティグリッツミクロ経済学』『スティグリッツマクロ経済学』東洋経済新報社
・キング(Gary King)、コヘイン(Robert O. Keohane)、ヴァーバ(Sidney Verba) 『社会科学のリサーチ・デザイン』 勁草書房
・江藤裕之 「healthの語源とその同族語との意味的連鎖−意味的連鎖という視点からの語源研究の有効性−」『長野県看護大学紀要』2002, no4, p.95-99
・Richard P. Feynman, The Feynman Lectures on Physics, Addison–Wesley
日本語:ファインマン『ファインマン物理学〈1〉力学』『ファインマン物理学〈2〉光・熱・波動』『ファインマン物理学〈3〉電磁気学』『ファインマン物理学〈4〉電磁波と物性』『ファインマン物理学〈5〉量子力学』 岩波書店
◎Charles Eames Jr 映画の書籍化powers of ten
・文部科学省「平成17年度学校基本調査 学部系統分類表」 web
・厚生労働省 健康日本21(総論) 第6章 人生の各段階の課題 web
・東京大学 web
・ポパー 『果てしなき探求〈上〉―知的自伝』『果てしなき探求〈下〉―知的自伝』 岩波現代選書
・廣松渉 編 『岩波哲学・思想事典』 岩波書店
・思想の科学研究会 編 『哲学・論理用語辞典』 弘文堂


総論 教養と学問の前に

はじめに(テキストダウンロード)
序章 学問と議論のために

 第 I 部 論理的思考
第1章 論理的であるとは
第2章 推論方法の基礎
第3章 三段論法
第4章 演繹法
第5章 帰納法
第6章 仮説推論
第7章 類比推論
第8章 観念連合
第9章 弁証法
第10章 論理的思考のまとめ
第11章 論理と誤謬
第11章(補講) 論理と誤謬

 第 II 部 論理的な問題解決 
第12章 目的と手段
第13章 演繹法と帰納法の絡み
第14章 問題と解決
第15章 論理ツリー ― what ツリー―
第16章 論理ツリー ― why ツリー―
第17章 論理ツリー ― how ツリー―
第18章 設定型の問題と創造型の問題
第19章 因果関係図
第20章 論理ピラミッドの基本
第21章 論理ピラミッド ―現象型の問題―
第22章 論理ピラミッドの応用
第23章 論理的な問題解決のまとめ

 第 III 部 教養と学問・科学
第24章 学問と科学の定義と目的
第25章 科学の方法
第26章 定性的研究と定量的研究
第27章 実証主義と反証主義
第28章 還元主義・総合・全体論
第29章 学問と専門・教養
第30章 学問の専門分化
第31章 教養と学問

引用・参考文献
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