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総論 教養と学問の前に
はじめに
講義「教養と学問の前に」について概説する。
目次 |
講義の紹介 講義の対象者 補足・注意点 対象者の詳細 全講義内容の一覧 |
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本講義は、議論を行う上でも学問を行う上でも重要な論理的思考について解説している。さらに、論理的思考を軸にしつつ、教養と学問を俯瞰できるようにしている。
簡単に構成を示すと以下のようになる。
第 I 部 論理的思考では、議論と学問を行うために必要な論理的思考について実例を交えながら詳しく解説している。
第 II 部 論理的な問題解決では、日常の身近な問題を使って論理的思考を実践してみる。
第 III 部 教養と学問・科学では、論理的思考を深めるための知識がどのように形成されるか解説し、教養の重要性を説いている。
基礎の基礎から丁寧に解説している。用語や考え方について、知っていることを前提に話すことは基本的にしていない。なお、基礎ということは、簡単であることを意味しない。
「分かっているつもり」をなくすために、自明と思われることも一から説明して理解するようにする。つまり、何事も所与のものと考えずに、確固とした土台を1つ1つ丁寧に積み重ねるという意味での基礎だ。
講義を受ければ、確かに当たり前のことだが、案外よく解っていなかったことが明らかになり、一般的で応用力の高い基礎的な能力が向上していくのが実感できるはずだ。
そして、最終的に、自己の中に論理的思考が体系的に構築され、教養の意義を理解することになる。この確かな論理的思考力と教養の深さによって、物事を「自由」に考えることができ、様々な問題を解決することができる。この講義は、これを最終目標として、そのための基礎・土台を固めることを目指している。後は、それをどう実践し使うかは自分次第である。
テキストのダウンロード
PDFファイル 印刷はB5サイズ推奨
第 I 部 論理的思考(序章含む) | 通常版 | 既述版 |
第 II 部 論理的な問題解決 | 通常版 | 既述版 |
第 III 部 教養と学問・科学 | 通常版 | 既述版 |
既述版は例題の答えや板書の図が最初から埋まっているテキスト
このテキストは、実際に講義を行ったときに受講生に配布したものである。
最初は、「通常版」のテキストと共に講義を進めて行くことを推奨する。テキストを印刷して紙に書き込みながら学ぶ方が、講義をただ読むよりも効果的である。
「既述版」は、講義を書き起こしたWEBという媒体の性質上、どのようにテキストに書き込み埋めて行けばよいかの判断が難しいかと考えて、参考程度になればと思い置いている。
なお、詳しいテキストについての説明と保管方法は、テキストのダウンロードと管理で説明する。
論理的思考の基礎はできていると自信があり、論理ピラミッドや論理ツリーを使って実践的な問題解決を中心に学びたいと考えている者は、第 II 部 論理的な問題解決から始めても構わない。
論理的思考の基礎ができているかを確認するための基準は、以下に挙げる用語の意味や使い方が理解できており、実際に問題なく使えるのならば、第 II 部から開始しても問題ないだろう。
第 II 部から始められるかの基準
論理 | 推論 | 前提 |
結論 | 全称すべて | 特称ある |
肯定 | 否定 | 選言または |
連言かつ | 逆・裏・対偶 | 真偽 |
条件ならば | 十分条件 | 必要条件 |
三段論法 | 演繹法 | 帰納法 |
相対的 | 絶対的 | 個別的 |
一般的 | 特殊的 | 普遍的 |
具体的 | 抽象的 | 仮説推論 |
仮説形成 | 仮説検証 | 類比推論 |
比喩 | 観念連合 | 観念 |
概念 | 範疇 | 感覚 |
知覚 | 経験 | 表象 |
形象 | 心象 | 弁証法 |
総合 | 分析 | 直観 |
対比 | 因果関係 | 相関関係 |
擬似相関 | 対照実験 | 誤謬 |
詭弁 | 強弁 | 以上53語 |
よく解らない用語がごく僅かならば、不明だった該当箇所だけ読み、第 II 部に進めばよい。
しかし、解らない用語が10個や20個もあるようならば、理解していると考えている他の用語についても、分かったつもりになっているだけの可能性がある。つまり、論理的思考の基礎が不十分である確率が高いので、第 II 部の実践の前に、第 I 部で基礎を固めてからの方がよい。
講義の対象者
講義が想定する中心的な学力・知能は、高校生程度である。つまり、基本的には中学校卒業程度の知識と思考力はそなわっているものと想定している。実際、受講者は、高校生・浪人生が中心であった。また、一部中学生と大学生、あるいは受験終了直後の高校生・浪人生も受講生にいた。
しかし、向学心の強い中学生なら、何とかついて来れる程度の難易度である。特に中学校3年生にもなると、公立学校ですら2学期を過ぎたくらいには、中学校で学ぶべき内容を一通り履修し終えるはずだ。そして、授業でも高校入試対策の色合いが強くなってくる。つまり、その当たりの時期になると、一応は、高校1年生になるのと同じ程度の知識量を持っていることを意味する。受験対策は、その知識を固めているに過ぎない。こうした事実と基礎から解説するという講義の特徴を考慮して、向学心の強い中学生ならば、この講義にもついて来れると考えている。
大学生や社会人でも、論理的思考力や問題解決能力の基礎が弱いと感じている者には、この講義は効果的である。講義は、基礎から丁寧に積み重ねているが、到達点はかなり高い。
周りが「論理的思考が重要だ」とか「ロジカルシンキングでイシューをソリューション」とか言っているのに、自分はそれが一体何なのかが、漠然と感じることしかできず、置いて行かれていると感じる者は、是非とも読んでもらいたい。高校生を対象とした講義と見くびるなかれ。曖昧だった感覚は、必ず明快な理解となるはずだ。
想定される具体的な能力の詳細は、長くなるので、後述する。
補足・注意
時間がなく、論理的思考の養成と問題解決能力の向上のみが目的であれば、第 I 部 論理的思考と第 II 部 論理的な問題解決の2部を使うだけでも構わない。
しかし、第 III 部 教養と学問・科学は、その論理的思考で使う「正しい知識」が何故「正しい」のかについて学ぶので、即効性はないが深い理解が得られるという効果がある。
特に時間がないのは社会人や大学生に多いだろうが、第 III 部自体は、問題演習も少なく、講義を聴いて整理することが中心となり、「本物の大卒者」ならば知っていて当然のことを解説しているので、そこまで時間は必要としないはずだ。暇を見つけては、少しずつ読み進めてもらいたい。
本文の記述は、筆者が春休みに新高校1・2・3年生に加えて浪人生と大学入学予定者に向けて行った講義を書き起こしたものである。
講義という性質上、口語のまま記されており、板書も適宜なされている。文章として読むには、いささか冗長な解説に感じるかもしれないが、あえてそのままにしておいた。表現の柔らかさが、内容の堅さを補うことで、分かりやすいものになると考えたからだ。文章として書き直すのが、面倒だからだという理由ではない。そこは大人の都合として、察して受け入れほしい。
対象者の詳細
講義の対象者に戻る
高校生を対象にしたと述べたが、高校生と一口に言っても、学力格差があることを私も自覚している。
学力格差には、高校間格差が激しいこと、さらに同じ学校にある高校内格差も著しいことという、二重の格差がある。なお、この註における学力とは、主に本講義内容を読み理解する能力と考えている。
そこで、統一的な判断基準として、公立高校入試の得点率を使用する。
国語・数学・英語・理科・社会の各教科の得点率が最低限80%以上あれば、本講義の内容を理解する基礎学力があると判断することとする。
無論、80%以下でも理解できる者もいるが、個人的な経験から 80%程度が基礎学力として最低限の水準であると判断した。
なお、地方によって異なる入試問題を判断基準とした理由は、公立高校入試ならば、地域ごとに問題内容の違いはあっても、その難易度の差はそこまでないという考えに基づたからだ。
ただし、注意してもらいたいことは、この80%の得点率という判断基準に、統計的な根拠が無く、至極個人的な経験に依っていることだ。
一応、もっともらしい説明をつけておくと、中学の学習内容は全国共通であり、高校と異なり文理選択もなく教科の偏りもない。そして、学習内容は、中学生にとっては難しいことかもしれないが、本当に基礎中の基礎で抽象的なものも少ない。こうした事実を考慮して、その内容の80%程度の理解もできないようでは、もっとかみ砕いた説明が必要になると思われる。講義の水準をそこまで下げると、説明はさらに回りくどくなり、抽象的な言葉も使えなくなってしまい、80%以上の者にとって講義の意義が失われてしまうことになる。
したがって、80%という基準を設定することにした。
80%以下の者で本講義の内容を理解できないならば、私の説明の拙さを責める前に、中学レベルの基礎学力を養成することをすすめる。そして、高校生以上で80%以下の者は、文章で読んだり、一斉授業の形をとるよりも、家庭教師をつけて個人の状況に合わせて学ぶ方が効果的である。本や参考書で勉強しようにも、内容が中々理解できないことが多いはずだ。そうした者は、血のにじむような努力をしても構わないが、大人や友人に訊いてしまった方が早い。幸い中学レベルの内容なら、教えることができないという人は少ないので、中学校程度の知識も知らないと思われるかもしれないが、恥を忍んで色々と訊きながら、遅れを取り戻してしまう方がよいだろう。
また、仮に教科に傾斜をかけるなら、国語と数学の得点が、90%以上あれば、他の得点が低くても何とかなるかもしれない。
この公立高校入試80%という判断基準の下に、次に、高校間格差と高校内格差について述べる。
自己の入試結果や今の自分の学力を鑑みて、確実に80%の得点率を越えていると自信がある者は、以下の内容は、別に読まなくとも構わない。なぜ80%の得点率なのかを少し説明しているだけだからだ。ただし、自己認識が甘いだけの者は、気をつけて貰いたい。特に進学校と呼ばれる高校に通っている者は、過信するきらいがあるので、気をつけてほしい。
高校の間の学力格差が激しいという高校間格差には、まず進学校と非進学校の総合校・商工業工等の区別がある。
非進学校の者でも、公立入試全教科の得点が最低80%以上あれば、本講義の内容は理解できるはずだ。
また、進学校同士でも、全国的に有名な進学校と、その地方では進学校だが全国的に見ると大したことない進学校がある。前者は特に問題ないが、後者が問題である。進学校なのに学力が実は高くないという生徒が多分に含まれるからだ。
これは高校内格差、つまり、同じ高校にもかかわらず上位生徒と下位生徒の学力差が著しいという問題に繋がる。
高校内格差と言っても、都会の高校ならば、まだ高校進学者の数が一定量を保てているので、高校内格差は比較的小さくすむ。もちろん東大に毎年100人近く出すような高校でも、最上位層と下位層の格差は相当あるが、最低限度の学力を持っているという点では下限の底抜けは防げる。勉強を怠けたために成績が下がっていたとしても、基礎学力はある程度保障されているので、本講義を理解できる確率が高いということだ。
したがって、高校内格差で問題になるのは、下限が底抜けしており、その地域では進学校と言われている学校にもかかわらず、学力が伴っていない生徒である。
特に顕著であり、典型的な例として挙げられるのが、政令都市もないような少子化が圧倒的に進んでしまった県の進学校である。さらなる具体的な高校内格差の例としては、上は東大京大に合格する者がごく僅かにはいるが、下は高卒就職する者も一定程度いるという高校内格差がある場合だ。
これでは、進学校に通っていることで、学力が担保されているかは判断できない。現に、その地域の進学校の下の成績の者よりも、商業高校などのトップの方が頭が良かったりすることは珍しくない。進学校に通っているが、成績が大したことない者は、自分の学力を過信せずに、論理的思考について考える前に、中学校程度の学力があるかを確認してもらいたい。こうした高校間格差と高校内格差が絡み合っているため、「進学校ならば」といった基準を設けずに、得点率80%という基準を設けたのである。
この説明を通して自分の学力に不安を覚えたならば、公立高校入試の過去問を何年分か解いて 80% 以上の得点率をとれるか試してみるとよいだろう。
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