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第22章 論理ピラミッドの応用
論理ピラミッド(ピラミッドストラクチャー)は、「現象型」の問題を分析する以外にも非常に役立つ道具です。
「現象型」の問題の分析で分かる通り、論理ピラミッドは論理の構造を整理して把握するのに優れています。この性質は、論理的な主張の構築や論理的な文章の読解にも役立ちます。このことについて説明します。
ただし、実例を用いて文章を読解するのを見せることは時間の都合上無理なので、あくまで概略であることに注意してください。
目次 |
1 論理ピラミッドによる文書の分析 2 様々な論理展開 3 口頭発表・提案(プレゼンテーション) 4 まとめ 5 補足 小説・物語文における構造 テキストのダウンロード[詳細] 通常版 既述版 配布資料 |
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1 論理ピラミッドによる文章の分析
この講義では、論理的であることを目指してきました。論理的な主張をするにも、相手の主張の論理を理解するためにも、論理的であることが必要でした。そして、論理的であるためには、論理構造を上手く構築したり、把握することが必要です。この論理構築および論理構造の理解に役立つのが、論理ピラミッドです。
まず、論理ピラミッドの特徴として、最上位階層には、もっとも一般的で抽象的な最上位命題が置かれます。
階層が下がるにつれて、命題は個別的で具体的なものになっていきます。
これは、下位命題が最上位命題を導くために前提部分であることを意味します。
したがって、最上位命題は、前提となる下位命題によって導かれる結論部分になります。
図20.1.論理ピラミッドの概念図 画像クリックで拡大
次に、論理的な主張には、最も言いたいことである結論部分と、それを説得的に支える前提部分に分けられました。
したがって、論理的な主張を構築するとき、前提から結論を導くようにする必要があります。
また、相手の主張にしろ、論理的な文章にしろ、論理構造を理解する上でも、この結論部分と前提部分を区別することが大切になりました。なぜならば、結論が正しいか否かは、結論部分だけでは判断できず、その結論を支えている前提部分から正しく導かれているかで判断するしかないからです。
したがって、論理構造を把握するために、前提と結論の関係がどのようになっているかを理解する必要があります。
(第1章 論理的であるとは参照)
論理的であること =(1)正しい推論+(2)正しい知識 (1)形式面 論理的主張 || 結論 (2)内容面 + ← 関連性 根拠 + 隠れた前提の発見 |
どちらも前提と結論との関係が明確であることが大切だということを踏まえると、論理的な主張を組み立てる場合であろうが、論理的な文章を理解する場合であろうが、論理ピラミッドによる論理構造の整理と分析に落とし込むことができます。論理ピラミッドが論理の構造の見取り図のようになります。
そこで、論理構造をを論理ピラミッドで表せるという点から、論理的な主張と文章を1つにまとめて考えることにします。
まず、論理的な文章における基本的な型を押さえておきます。
論理的な文章は、1つの全体を大きく分けると3つの部分で構成されていることが多いです。
その3つの部分とは、導入―本論―結論です。
導入部分
導入部分では、今から「何について論じるのか」といった主題を提示します。この導入部分で、受け取り手に主題に対する準備をしてもらいます。
例えば、発言者が「〜について論じる」と主題を提示することで、受け取り手は頭をその話題に合わせて「なるほど、この文章は、〜について語るのか」と理解しようとする準備をします。
準備ができた受け取り手は、話題に対する連想をしやすくなり、自分の知っている背景知識を助けとして、後に続く展開を追いやすくなります。
さらに、「〜について述べる」といった主題の提示をしたならば、「何故その主題について述べるのか?」といった疑問を抱かせることになります。
したがって、主題に関連する現状分析や問題点等についても軽く触れておくことが多いです。
表現に差はあれど、「今、…という現状であり、これが問題になっている。したがって、〜について論じる」や、「〜について論じる。なぜならば、現在…という問題があるからだ」といった形式になります。
図22.1.論理ピラミッドと論理的主張 画像クリックで拡大
加えて、もし文字数に余裕があるのならば、主題の提示と現状分析に加えて、ある程度の結論まで示してしまうのもありです。
今の世の中、情報が溢れ返っています。自分の知りたいことを要領よく知りたいと考える人も多いです。こうした大量の情報で溢れ返っている現代社会、最後の結論部分まで読み進めた結果、大したことが書かれていないと暴動ものです。これは未だいいです。読んでもらっているのだから。
最近の情報量の爆発的な増大は、読んでもらうことすら難しくなっています。読む前には、そもそも読みに値する文章なのかどうかは分からないので、読むことを開始してもらうことも難しくなっているのです。
そこで、導入部分で、自分の最も言いたいことである結論をある程度表明することで、読者を惹き付けることを狙います。
ある程度にしろ結論が導入部分にあれば、それが読者に対する信号・看板となって、「ちょっと読んで見る価値はあるのかな」という気持ちにさせられます。
結論先取による前提の整理の指針
また、結論が先に提示されていれば、本論で多少入り組んだ複雑な議論が展開されても、受け取り手は、結論に向かって複雑な前提を論理的に整理していくことができます。例えば、横書きの文章を読むとき、目線は右から左へ、上から下へと流れて行きます。基本的に単線的に読み進めて行きます。
したがって、文章を読んで内容を理解するとき、全体を押えるのではなく、部分を積み重ねて行くことになります。
図22.2.文章を論理ピラミッドに整理
こうして文章を単線的に読むんで行くと、部分と部分の関係性が理解できないことがあります。
そうすると、何が言いたいのかよく分からないまま進めなければならず、結論としてどこに向かっているのかが理解できないことになります。
図22.2.文章を論理ピラミッドに整理
ここで、結論を先に提示しておくと、部分と部分の関係がよく理解できなかったとしても、最終的な結論に落ち着くためには、部分と部分の関係をどう解釈すべきかという指針になります。
図22.2.文章を論理ピラミッドに整理
喩えるなら、複雑な迷路も目的地が予め視野に入っていれば、目的地にたどり着くのが比較的容易だと言えます。
逆に、目的地がまったく見えず、手探りで迷路を歩かないといけないならば、目的地にたどり着くのは、かなり難しいです。
どこに目的地があるのかが分からないので北へ行けばいいのか、南に行けばいいのかすら分かりません。
このように、結論を予め明示しておくことは、それが目的地の目印になります。部分が理解できず、自分が進んでいる現在地がよく分からなくとも、結論に向かうにはどうすればいいのか、という方向性を示す役割を担っています。
以上から、結論が予め分かっていれば、単線的に処理していくにしても、結論が手掛かりとなって前提の部分同士をどのように関係付けていけばいいかが分かります。
本論部分
導入部分で主題を提示できたので、続く本論部分では、「主題について具体的に論じる」ことになります。導入部分では、少なくとも、主題の提示と現状分析および問題点の要約がなされています。
そして、導入部分に書かれているか否かは別として、何かしらの「主題について言いたいこと」である結論もあります。
この結論に向けて、本論部分では、証拠を挙げながら、具体的に詳細に論じることになります。結論が導かれるための理由説明、あるいは、証明とも言えます。
図22.1.論理ピラミッドと論理的主張 画像クリックで拡大
したがって、本論部分が結論を支える前提部分となるため、ここの論拠が弱いと説得的な主張にならなくなります。
結論自体の真偽は結論だけでは分からないので、相手に突っ込まれたりするときは、この本論部分の証明に対してなされることになります。
ですから、本論部分では、できるだけ具体的に書き、曖昧な個所をなくすようにしておきましょう。
段落の構成
また、1段落につき、中心となる論拠は1つが原則です。1段落の中に、1つの適度に抽象度の高い論拠を置きます。
その抽象度の高い論拠を説明するために、同じ段落の残りの部分は具体的な説明に割かれることになります。
字数に余裕があるのならば、段落の最初の文に抽象の高い論拠を示して、次の文から具体的に述べて、段落の最後の文でもう一度抽象度の高い論拠を示すと、分かりやすい文章になります。
字数に余裕がなければ、抽象度の高い論拠は1段落で1回出せば十分でしょう。
図22.3.段落構成
このことから分かるように、抽象度の高い論拠は、その段落のまとめや要約のような内容になっていることが多いです。
論理ピラミッドに即して言えば、抽象度の高い論拠を説明する具体的な事柄が、下位命題として積み重ねられて、上位命題たる抽象度の高い論拠に集約されていきます。
この抽象度の高い論拠を段落の主題文と呼ぶことにします。
主題文がどこに段落のどこに置かれるかは、一概に特定的には言えません。先に説明したように、最初に主題文を示して、具体的に述べて、最後にもう1回主題文を示すという方法が最も分かり易いです。
が、しかし、同じ内容を同じ段落に2回も表すのは、冗長に感じることがあるのも確かです。
そこで、主題文が1段落に1回だけ表す場合も多いです。
そして、主題文が段落のどこに置かれるかについて、ある程度の傾向として2つに分類できます。
1つ目は、結論たる主題文がまず提示されて、それを説明するための具体的な情報や事実といった前提たる事柄を示していくという、演繹法的な構造です。
図22.4.演繹法的な段落構成
結論を先に示すことで、この結論に向かうように、具体的な情報や事実を積み重ねて前提を配置して行けばいいことを示します。
2つ目は、具体的な情報や事実といった前提たる事柄が示されて、最後にその段落の結論たる主題文が示されるという、帰納法的な構造です。
図22.5.帰納法的な段落構成
前提たる事柄である具体的な情報や事実を積み重ねて行き、その結果として結論たる主題文に行く着くようにしています。
この演繹法と帰納法の2つの型が多いです。
ただし、言わずもがなですが、主題文が段落の最初と最後以外の真ん中に配置されていることもあります。
ですから、あくまで主題文が最初か最後に置かれやすいという傾向だということには注意しておいてください。
段落の主題文がどれなのか見つけ難いと感じたら、この傾向を参考にしてみてください。
1段落に1主題文という原則は、1つの段落に1つの内容のまとまりがあることを表しています。
このように、段落を分けることは、書き手が読み手に、段落ごとに内容がまとまっていることを伝えるためであり、これが物書きの原則です。
もちろん、これは原則なので例外はあります。
しかし、基本は1段落に1つの論拠と考えておいてください。また、自分で書くときは、これを守るようにしておくと、読みやすい文章になりやすいです。
結論部分
本論部分で証明が終わったら、結論部分では、「何が言いたいのか」について論じます。結論部分は、導入部分で示した主題について、自分の意見を述べることになります。
つまり、結論部分は、主題について、「何をすべきか」という解決策や改善策といった意見だったり、従来の考え方は誤りで正しい考え方はこちらであるといった「何であるか」という新説の提示であったりします。
そして、これが結論であり、自分が最も言いたいことになります。
このとき字数に余裕があれば、結論部分では、結論だけではなく、導入部分と本論部分を簡潔にまとめたものも再度示すとよいです。
導入部分では、主題と現状分析・問題点を述べているので、これを短く簡潔にまとめ直して、再度示すといいです。
本論部分では、結論を支えるための論拠たる前提を述べているので、これを短く簡潔にまとめ直して、再度示すといいでしょう。
そうすると、結論部分だけを読み直したとき、「何について述べているのか」、「何故そう言えるのか」、「何をすべきなのか」がすべて纏まっていることになります。
つまり、結論部分だけを読み直しただけで、何が言いたいのかや理由付けを簡単に思い出せます。
図22.1.論理ピラミッドと論理的主張 画像クリックで拡大
これが、論理的な文章の基本的な型である導入-本論-結論の3部構成です。
導入部分では、「何について述べるのか」の主題を提示して、その現状分析や問題点を要約し、最終的な結論を示すことで、文章全体を大雑把に押えさせます。
本論部部では、具体的に論拠を挙げながら、説明します。結論が「何故そう言えるのか」という前提の証明になります。
結論部分では、「何をすべきか」を詳しく述べます。これは最終的な結論なので、本論で述べた論拠を簡潔にまとめて示すと、効果的に理解を助けることになります。
論理ピラミッドで表すと、結論部分の中の結論に向けて、論理ピラミッドが構築されるようになっています。
結論部分には、結論以外に、それを支える前提として導入部分と本論部分の要約的なものが置かれます。
そして、結論部分を支えるように、導入部分と本論部分が置かれます。
図22.1.論理ピラミッドと論理的主張 画像クリックで拡大
論理的な文章を論理ピラミッドで表すとこのように分析できます。
実践上の注意点
ただし、この論理的な文章を論理ピラミッドで整理する方法は、あくまで概念的で理念的なものです。これが基本形であり、是非とも習得すべき方式ではありますが、実際に使おうとすると、思ったよりも上手く行かず、面倒臭いことが多いです。書籍を例にとって考えてみましょう。
まず、書籍の構成から始めます。
書籍は、複数の章によって構成されています。
皆さんも、本を読んでいると、1つの内容を学ぶのに、第○章と書かれたものと出会ったことが多くあるでしょう。実際、教科書の多くは第○章といって、内容に応じて章分けされています。
したがって、1章が、1つのまとまった内容になっています。
つまり、章は1つのまとまった内容です。
章:1つの内容のまとまり |
そして、各章は、さらに小さなまとまりとして節に分けられます。
章の中を、第×節と細かく分けて、1章が持つ1つの内容を少しずつ積み上げるように、構成しています。ただし、節は第×節と書かずに、単に太字で見出しをつけたりするだけの場合の方が多いかもしれません。
したがって、節は、1つのまとまった章を細かく分けたものになります。
つまり、節は、1つのまとまった内容を持つ章の中に存在する、小さなまとまりのある内容です。
そして、章は複数の節が集まったものになります。
章:1つの内容のまとまり ↑ 節:小さな内容のまとまり |
節の中を更に細かく分けるものに、項があります。
第○項となります。項までいくと、数字だけではなく、第A項等のようにアルファベットで表すことも増えてきます。あるいは、節と同様に単に見出しをつけるだけの場合もあります。
したがって、項は、小さなまとまりの節をさらに細かく分けたものになります。
つまり、項は、1つのまとまった内容を持つ章の中に存在する、小さなまとまりのある内容である節の中にある、小さなまとまりのある内容です。
そして、節は複数の項が集まったものになります。
章:1つの内容のまとまり ↑ 節:小さな内容のまとまり ↑ 項:さらに小さな内容のまとまり |
項の中は、段落に分けられます。段落は先程教えたので、簡単に触れるだけにしておきます。
段落は、1文字下げたり、改行する等して、内容にまとまりがあることを表します。
段落は、1つの筋の通った意味のまとまりの最小単位と言えます。
そして、項は、複数の段落が集まったものになります。
章:1つの内容のまとまり ↑ 節:小さな内容のまとまり ↑ 項:さらに小さな内容のまとまり ↑ 段落:まとまりの最小単位 |
段落が、意味のまとまりの最小単位と言いましたが、段落は複数の文で構成されています。
1文だけでも意味を持っていますが、1文単独で厳密な意味内容を決定することは滅多にできないので、段落を意味のまとまりの最小単位としました。
また、文は、複数の単語によって構成されています。
単語1つとっても辞書を引けば分かりますが、単語は、複数の意味があります。単語の意味は、文の中で意味が確定して行きます。
さらに、単語は文字によって構成されています。
章:1つの内容のまとまり ↑ 節:小さな内容のまとまり ↑ 項:さらに小さな内容のまとまり ↑ 段落:まとまりの最小単位 ↑ 文←単語←文字 |
なお、章が複数集まって、さらに大きな内容のまとまりがあります。これが部です。
さらに、部が複数集まって、大きな内容のまとまりをさらにまとめた内容が編になります。
部や編は、新書程度の薄い書籍ならないことの方が多いです。
部→編:内容のさらなるまとまり ↑ 章:1つの内容のまとまり ↑ 節:小さな内容のまとまり ↑ 項:さらに小さな内容のまとまり ↑ 段落:まとまりの最小単位 ↑ 文←単語←文字 |
こうした構成になっている書籍などでは、章ごと、節ごと、あるいは、項ごとに論理ピラミッドが構築されていくことになります。
文章の性質や長さにもよりますが、項ごとに1つの論理ピラミッドが作られることが多いですかね。なお、これは感覚的に私が判断しただけなので、絶対のものと受け取らないでください。
したがって、1章が長くなると、結論がいくつも存在してきます。
よって、1つの論理ピラミッドではなく、複数の論理ピラミッドになることも十分に有り得ます。
複数の論理ピラミッドが作られるとなると、議論が複雑になって来るので、理解するのに骨が折れます。それでも、1つ1つ丁寧に処理して行けば、いくつもの論理ピラミッドに整理はできます。
また、結論部分では、結論しか書かれないこともあります。
今まで議論してきたことをもう一度書くのは、分かりやすい反面、同じ内容のために紙面を割くことになります。
同一内容の繰り返し自体は、内容をおさらいして理解を助けてくれるので、まったくの無駄だとまでは言いません。が、文章ですから、必要なら読み直すことも容易にできます。ですから、わざわざ繰り返し書く必要もないとも言えます。
こういう理由で、結論部分には、結論のみしか書かれないこともあります。または、導入や本論がまとめられていても、本当に少しだけ触れられている程度といったこともあります。
さらに、読み手の能力に応じても、論理ピラミッドの構成が変わってきます。
入門書などの初心者・初学者用のものなら、大雑把な大枠が理解できる程度に前提を積み重ねているので、戸惑うことも少ないですが、あまり多くのことは学べません。分かった気になるのですが、細かく考えて行くと、論理が甘いと思うようになるはずです。
そこで、より深く学ぶために専門書に移ります。
読み手にある程度の知識があることを前提とした専門書や論文などでは、議論の中で必要となる知識などは定義されたりして与えられますが、専門的知識があれば理解できる程度の簡潔なものになっていることが多いです。そうすると、簡潔さゆえに隠れた前提となっている事柄をどんどん自分で補わないと、論理が飛躍しているように感じたり、意味不明な個所が多く出てきます。
逆に、曖昧さを徹底的に排除するために、結論を支える前提をどんどん深堀りしていく場合もあります。
日常的な感覚では、些末な事柄でこんな細かいこと気にしてどうするのかと思えるような事柄も多く出てきます。前提となる事柄が大量に出て来るので、論理ピラミッドが大きく成って行きます。したがって、最下位命題から最上位命題までの距離が開いていき、繋がりが分かり難くなったりします。専門書を読む前に、個々の知識が体系的に整理されていないと、議論についていけなくなります。
このように、論理ピラミッドの基本形を理解して、実践しようとすると、案外上手く行かない経験をすることになります。
必ずしも論理ピラミッドの基本形通りに論理的な文章が作られているわけではありません。
いずれにしろ、論理ピラミッドが基本形を、ないがしろにし過ぎるのもダメですが、基本形に何が何でも当てはめようと拘り過ぎないようにしないといけません。何度も使っていく内に、徐々に慣れて行くものだと思っておいてください。
要約の作成
論理ピラミッドによって、論理的な文章がどのように構成されているのかが分かったので、これを利用して、文章を要約する場合はどうすればいいか、についても触れておきたいと思います。これは、現代文の問題にも役に立ちます。文章を論理ピラミッドの理想的な形式で整理できれば、だいたいは、結論部分が導入部分と本論部分を簡潔にまとめて結論を論じたものになっているはずです。
その導入と本論部分のまとめを前提として、結論が書かれていれば、そのままそれが要約になります。
図22.6.論理ピラミッドによる要約の作成法 画像クリックで拡大
しかし、実際には、そういうことは少ないでしょう。結論部分に結論しか書かれていないことは、よくあります。
そこで、要約するときは、一番短く簡潔に内容をまとめるなら、主題と結論を書けばいいことになります。
主題が「何について述べているか」であり、結論が「主題について、何であるか」を表しているので、「《主題》は、[結論]である」という要約の仕方が、最も短く内容を押えたものになります。
現代文で1文で要約させるような問題は、主題と結論を書けば正解になることがほとんどです。
しかし、これでは、文章をあまりにも短くまとめ過ぎており、結論の論拠が分かりません。
いくら要約が文章を簡潔にまとめたものとはいえ、理由説明がなさ過ぎて、「何でだよ?」と突っ込まれてしまいやすいです。結論だけ言いっ放しでは、要約と呼ぶにはあまりに雑すぎます。
そこで、要約に使える文字数にもよりますが、本論部分の中の各論拠を簡潔に追加してやるといいです。
図22.6.論理ピラミッドによる要約の作成法 画像クリックで拡大
「《主題》は、[結論]である。なぜならば、<論拠1>…だから」といった形になります。
一番言いたいことが結論なので、これを最後に持ってきたいのならば、「《主題》は、<論拠1>…であり、ゆえに[結論]だ」という形になることもあります。
以上をまとめると、要約には、主題と結論を必ず入れることを中心として、字数制限に応じて、適宜論拠を簡潔に追加していくことになります。
要約 主題+結論(+論拠) |
さらに、要約するのに文字数に余裕があるのならば、導入部分の現状分析・問題点も簡潔に加えてもいいです。
小論文・自由英作文
ちなみに、試験で課されることの多い、日本語で1000字程度の小論文や、英語の350語程度のエッセーなら、だいたい5段落位で構成するとちょうどよくなることが多いです。そもそも、大学入試等で課される小論文や自由英作文は、意見論述といっても、論文を書くときのように時間をいっぱい取って参考資料を自分で選んで事細かく書けるわけではありません。どうしても大雑把な議論になります。
ですから、予め形式としての型を用意しておいて、それに内容を当てはめていくようにしておけば、最低限の体裁が整ったものができあがります。
字数を気にしながら書くよりも、予め「何文字程度で1段落を書く」ということを決めておけば、ダラダラと書くことも防げて、必要な内容に絞る意識も強く働きます。逆に、あまりに短い段落になりそうなら、言葉足らずになっている確率が高いので内容を追加した方がいいのではないか、ということにも気付きます。
所詮、時間制限あり、課題文以外の参考資料なしの論述などは常識を疑うような事実誤認は別としても細かい内容の可否までは見られません。そのような制限された五十歩百歩の内容を論理的で分かりやすい構成に整理して、大筋として説得的であれば、その答案は合格です。
ですから、導入部分で1段落、本論部分で3段落、結論部分で1段落の5段落構成で書くことを基本としておけば、合格答案から大きくは外さなくなります。
導入部分では、主題を提示して、現状分析と問題点を行います。あまり詳細に書くと字数が埋まってしまいますので、簡潔にすませるように心掛けます。
本論部分では、結論を支える前提たる論拠を3つほど用意して、1段落1論拠で、3段落に分けて書きます。論拠が1つだけでは少なすぎますし、逆に何個も論拠を列挙しているとキリがなくなります。ですから、3論拠くらいにで手打ちとします。
結論部分では、結論を述べます。この際に、導入部分と本論部分を合せておけば綺麗にまとめられます。
こうすれば、指定の文字数になり、段落構成も綺麗に整います。もちろん、これは大体の目安ですから、きっちりこの通りの段落数になったり、1段落内でこの字数に収まらないといけないわけでもありません。あくまで典型例として参考にしてみてください。
図22.7.小論文・自由英作文の段落構成
段落数 | 日本語 | 英語 | |
導入 部分 | 1 | 100 | 50 |
本論 部分 | 3 | 750 (250×3) | 240 (80×3) |
結論 部分 | 1 | 150 | 60 |
合計 | 5 | 1000 (字) | 350 (words) |
こうやって型を教えると、何だか個性を潰されているように感じ、反発する人がたまにいます。
そうした人は、無理にこの型を守る必要はありません。型を守らずとも、分かりやすく論理的に文章にできて、周りが認めればそれはそれでありです。
あるいは、あなたが、どんなに分かり難い文章を書いても、皆に絶対に読みたいと思わせるような高名な物書きであったり、読まないと相手の立場を危うくできるほどの権力者なら、こんなルールに従う必要はありません。
論理的な文章の目的は、自分の意見を誤りなく相手に分かりやすく伝えることです。
ですから、この目的を達成しようと考えた場合、形式における独創性や個性はあまり必要ありません。伝えたい内容が伝わることが重要になります。形式の独創性で相手を混乱させて、自分の言いたいことが伝わらないとしたら、それは無意味で無価値です。論理的な文章は別に、あなたの個性や人間性の発露であったり、その結晶を示すことが目的ではありません。
ですから、型に嵌められることを毛嫌いしないようしてください。
それに言ってしまえば、そう反発して試行錯誤したとしても、結局、この基本的な型に行き着くことになるはずです。伊達にこの基本的な型も時間をかけて色々な人に修正されてきたわけではありません。
また、大学で論文を書くことになったら、専門によって多少の違いはありますが、この基本的な型を教授から叩き込まれることになります。型から逸脱することは許されません。では、そうした専門家や教授の書く論文などは、独創性や個性がないのでしょうか。そんなことはありません。内容は独創的で、先進的な分野を切り開くようなものになっています。形式に則って書くことで、相手には内容に集中してもらえるようにしているのです。
今回は長いものには巻かれてしまって、型を習得するようにしてください。
2 様々な論理展開
論理的な文章の基本形が理解できたところで、少し具体的に典型的な論理展開について類型を学びたいと思います。
導入部分―本論部分―結論部分という3部構成を、少し変形することで、あるいは、具体化することで、様々な論理的な文章の類型を見つけることができます。
ここでは、時間の都合で実例を用いることはできませんが、4つの典型的な論理展開の類型を論理ピラミッドで整理すると、どうなるかを示しておきたいと思います。
4つの類型は、「記述の集合」「因果関係」「対比」「問題/解決」です。
どの類型であるかは、本論部分の論拠に何が置かれるか、論拠となっている内容次第で大筋決まってきます。各類型を1つずつ見て行きます。1.記述の集合
「記述の集合」は、必ずしも関係があるとは言えない1つ1つの記述が集まって、1つの出来事を説明している文章です。
つまり、ある事柄について、出来事の推移や経過を述べたり、手順や手続きを説明するために用いられます。
図22.8.記述の集合 画像クリックで拡大
ピラミッドの構成から分かる通り、本論部分は複数の出来事によって構成されます。
「出来事1が起きる。次に、出来事2が起きる。…」といった具合に1つ1つの記述を集めて、総体として1つの内容を描くことになります。
出来事1や出来事2の下位命題は、より具体的な出来事や事実が置かれることになります。
したがって、歴史書や、商品の説明書などで、この「記述の集合」の論理展開を多く見つけることができます。
歴史書ならば、歴史的事件がどのように起きたのかといった説明になります。説明書なら、手順を実行すればどうなるのかといった説明になります。2.因果関係
「因果関係」は、原因と結果の関係を説明している文章です。
つまり、因果関係がある事柄について、その原因と結果を説明するために用いられます。
図22.9.因果関係 画像クリックで拡大
ピラミッドの構成から分かる通り、本論部分は原因と結果によって構成されます。
「〜が原因となって、…という結果になる」といった具合に、因果関係が描かれることになります。
原因の下位命題は、原因となる事柄の具体的な性質や特徴などが置かれることになります。
結果の下位命題は、結果がどのようなものであるか、原因が結果を導く過程などが置かれることになります。
したがって、科学論文などで、この「因果関係」の論理展開を多く見つけることができます。
科学論文というと、理科系が中心に思われますが、文科系に分類されるものでも社会科学などでは、この因果関係について述べているものがあります。
なお、本論部分に、論理ピラミッドの代わりに因果関係図を置いても構いません。3.対比
「対比」は、異なる主張を比較し、説明している文章です。
つまり、意見が対立する事柄について、異なる意見同士を比較して説明するために用いられます。多くの場合、その異なる意見や主張のうちどちらが優れているか、あるいは、妥当であるかということまで述べます。
図22.10.対比 画像クリックで拡大
ピラミッドの構成から分かる通り、本論部分は、各主張によって構成されます。
「主張1は、〜と述べている。しかし、主張2は、…と述べている。よって、主張1は、―だ」といった具合に、異なる主張がどのように対立し、どちらが妥当かを描くことになります。
各主張の下位命題は、各主張の結論を支える前提が置かれることになります。
したがって、評論文などで、この「対比」の論理展開を多く見つけることができます。
現代文で嫌と言うほど読まされるパターンの文章かと思うので、多くは語らなくても大丈夫でしょう。4.問題/解決
「問題/解決」は、ある問題について、その解決策を説明している文章です。
つまり、問題となっている事柄について、その解決策を説明するために用いられます。
図22.11.問題/解決 画像クリックで拡大
ピラミッドの構成から分かる通り、本論部分は問題と解決によって構成されます。
「〜が問題となっている。これは…によって解決できる」といった具合に、問題とその解決が描かれることになります。
問題と解決の下位命題に何が置かれるかは、復習になります。
図14.7.問題と解決策の論理の明確化
現状分析など一部が導入部分と本論部分で被ることがありますが、あまり気にしなくてもいいです。
被っている箇所を削るなら、導入部分で削るようにしてください。
なお、この「問題/解決」の論理展開は、政策提言や企画書などで、多く見つけることができます。
これは、第II部 論理的な問題解決を通じて、ずっと学んで来たことなので、かなり具体的にイメージできるかと思います。
さて、論理的な文章には4つの類型があることを説明しました。ここで、気を付けてもらいたいことがあります。
それは、1つの文章に必ず1つの類型のみが使われているわけではない、ということです。
あくまで文章の典型的な類型を抽象化すると、おおまかに4つに整理できるだけです。1つの文章にいくつもの類型が現れることは普通にあります。
例えば、1つの文章の中に、ある部分では「因果関係」について説明しており、異なる部分では「記述の集合」が使われているということがあります。
何かしらの法則を説明しようとするとき、「因果関係」について述べるのが普通ですが、その法則を見つけ出すまでの歴史的過程を説明しようとする部分では、「記述の集合」になります。
さらに、歴史的過程の説明中に、どのような考えが対立し論争したかを説明しようとすると、「対比」が使われることになります。
また、その論争に終止符を打った実験や事実の発見について説明しようとすると、「問題/解決」が使われることにもなります。
このように、1つの文章の中に、様々な類型が現れることが多くあります。文章が長くなれば、その傾向は一層強くなります。
あくまで、これは理念的であり、無理矢理1つの型にはめ込んで理解しようとしないでください。誤った型には当てはめれば、当然に文章を誤読することになります。
確かに、類型は、文章を理解するときに助けとなるので、非常に参考になります。しかし、型はあくまで型です。必ずしも綺麗にこの類型のどれか1つに落とし込むことができるとは限りません。あくまで、文章の読解を論理ピラミッドで丁寧に分析したものが、文章の内容だということを心に留めておいてください。分析の結果として、文章の類型が見えて来るのであって、最初から類型に当てはめて、それから逸脱することは有り得ないとは考えないようにしてください。
3 口頭発表・提案(プレゼンテーション)
論理ピラミッドの使い道は、「現象型」の問題を分析したり、論理的文章を理解したり書いたりするだけではありません。
そもそも、論理的文章を書く目的は、自分の考えを論理的に分かり易く表すためでした。このとき、その論理を整理し構築するのに役立つのが論理ピラミッドでした。
そして、口頭で発表したり提案をする際にも、行為として書くことと話すことの違いはありますが、目的は自分の考えを論理的に分かり易く伝えるためと共通しています。
したがって、口頭発表でも論理ピラミッドが使えることが理解できます。
そこで、口頭発表・提案で論理ピラミッドをどのように活用するかについて少し説明しておきたいと思います。
最近はカタカナを使いたがる傾向が強くなっているので、プレゼンテーションとか、その略称のプレゼンと言った方がイメージできるかもしれませんね。
ただし、今から説明することの中心は、論理ピラミッドを用いることについてであり、プレゼンの方法論や動作や姿勢といったことについてではありません。そうしたことは、別の機会に誰かから、あるいは、書籍かから学んでください。
さて、口頭発表と一口に言っても、色々な状況が考えられます。
例えば、パワーポインタを使ってプロジェクタでスクリーンに映すことができるのか。できるのなら、細かい数字がハッキリと読めるくらいの大きさを確保できるスクリーンなのか、といったことも気になってきます。
他の場合として、そういったものが使えず、資料として紙を配布するだけであるとか、使えても黒板やホワイトボード程度のものである、といった状況もありえます。
どういった状況を想定するかで、用意する資料も変わってきます。
ここでは、パワーポインタを使ってスクリーンに映すような場合を想定することにします。ただし、スクリーンを使わずに、資料の配布のみをする場合でも、大筋は変わりません。
スクリーンに映し出す1枚のスライドにゴチャゴチャと色々書き込んでも聞き手は困ります。
なぜならば、スクリーンに多くの文章を書き込んでしまうと、それを読みながら発表者の話も聴くことになります。読むことと聴くことの両方を同時に行うと、集中力が散漫になり、読む方も聴く方も中途半端になってしまいます。わざわざ口頭で発表をするのですから、文章で読んでもらうのではなく、聴いてもらうことが大切になります。
したがって、話を聴くことに集中してもらうためにも、1枚のスライドには、すぐに読める程度に簡潔で整理されたものにしておかないといけません。
それでは、話に集中してもらうために、簡潔で整理されたスライドを準備する際に、意識すべき2つの最重要事項があります。
1つ目は、スライドは話を適切に理解するための補助であること、
2つ目は、スライドを見れば話の内容を再現できること、
この2つが、スライドに求められる簡潔さの特徴です。これを踏まえると、1枚のスライドの内容について、次の2つの大原則が導かれます。
スライドの内容に関する2原則 1枚のスライドの上部に、聞き手に最も伝いえたい明確なメッセージを1つ置く 残りの空間に最も伝えたいメッセージを論理的に説明する前提となる事柄を置く |
まず、1枚のスライドの上部に、聞き手に最も伝えたい明確なメッセージを1つ置くことに関しての注意点です。
読むことよりも聴くことに集中してもらいたいので、明確なメッセージは長くならないようにしないといけません。
したがって、長くても100字程度のつもりでメッセージを書くようにしておくべきです。
図22.12.プレゼンテーション・シート 画像リックで拡大
さらに、ここの最も伝えたい明確なメッセージは、最も言いたいことなので、前提と結論の関係に照らすと、結論の部分に相当します。
図22.12.プレゼンテーション・シート 画像リックで拡大
結論は長くても100字程度が望ましいことからも分かるように、根拠となる前提まで含んだ内容にするのは、文字数の関係から非常に厳しいです。前提部分は残りの空間に配置するので、余程重要ではない限り、結論のみを書くようにした方がいいです。論理ピラミッドの構造に照らして言えば、第1階層つまり最上命題を書くことになります。
次に、残りの空間に、最も伝えたいメッセージを論理的に説明する前提となる事柄を配置することに関しての注意点です。
結論はスライドの上部に書かれていますが、結論だけでは論理的な主張になりませんでした。
論理的な主張となるには、結論を支える前提が必要です。
この結論を支える前提を最も伝えたいメッセージの残りの空間に配置することになります。
図22.12.プレゼンテーション・シート 画像リックで拡大
と言っても、前提部分をすべて文で表すと、聴くことではなく、読むことに集中してしまうことになります。
ですから、論理ピラミッドの構造に照らして言えば、結論のすぐ下の第2階層の前提を配置することになります。
図22.12.プレゼンテーション・シート 画像リックで拡大
話す内容とスライドの文はほぼ一致する場合もありますが、命題の内容が長くなり過ぎるようなら、スライド上では小見出しのように簡潔にまとめて、口頭で詳しく述べることも必要になります。
さらに、結論を支える前提を、さらに支える前提を箇条書き程度にスライド上に書きます。
論理ピラミッドに照らして言えば、第2階層の下の第3階層に当たります。
図22.12.プレゼンテーション・シート 画像リックで拡大
このように、第3階層であり具体的な内容が置かれることになるので、これを文で書くと、スライドが文章のようになってしまいます。
ですから、具体例として、名詞を挙げたり、一言添えておく程度が妥当なことが多いです。思い切って省略してしまうのも手です。
ここは口頭で伝えることが主になります。多くの場合、スライドに書かれていない内容を説明することになります。
気を付けておきたいのは、第3階層には客観的な事実を置くようにすることです。
この理由は、基本的に第3階層が最下位階層になるためです。
最下位階層ということは、ここから論理が出発することになります。もし、この最下位階層に誰もが認める客観的な事実を置いていないとしたら、仮定や想像から論理が出発していることになります。これでは、予めその仮定や想像を認めている人以外には、客観性や妥当性がある話には聞こえなくなります。その仮定や想像が、意見が割れているうちの一方の意見であったり、特定の価値観に基づいてのみ通用するものであったりすると、そうではない人にとっては、ますます説得力が落ちることになります。
ですから、最下位階層たる具体例等は、客観的な事実を置くようにしましょう。
なお、話が進んでスライドを積み重ねた後で、前のスライドで既に説明したことを最下位階層に置く場合は、別にこの限りではありません。
そして、仮にスライドに書かれていないことを説明したら、それは聞き手にとって隠れた前提となります。
第3階層の具体的な内容について説明しているときは、隠れた前提が出てきやすいです。
また、スライドの内容を読むだけでは導き難い推論があるとき、口頭でどう考えるかを説明することになりますが、これも隠れた前提となります。
このように、隠れた前提は、スライドを読むだけでは再現できず、聞き手に口頭発表の内容を理解してもらう必要があります。したがって、隠れた前提を話したときに、聞き手の顔に「?」が浮かんでいる印象を受けたら、少し丁寧に説明した方がよいでしょう。
後は、論理ピラミッドの各命題に話す順番に小さく数字でも振っておけば、実際に口頭発表するときに、話す順番に迷わず、論理的に話すことができます。
時間に余裕があれば、()に括られた命題を繰り返すことで、より印象付けることができます。
逆に、時間に余裕がなければ、()に括られた命題は繰り返さないといった具合に調整します。
図22.12.プレゼンテーション・シート 画像リックで拡大
以上が、スライドに前提を記すときに、文章を中心とする場合です。
しかし、せっかくスクリーンを使えるのなら、文字だけではなく、図や表を使う方が効果的と言えます。
図や表があれば、聞き手に対して、一目でどうなっているかを理解させたり、イメージを湧かせたりできます。
ですから、折れ線グラフや円グラフといった図や数値の表はもちろん、因果関係の図やイメージ図といったものを使うといいでしょう。
図22.13.プレゼンテーション・シート図表版 画像リックで拡大
図や表から直接読み取れることが、第3階層の具体的な前提命題になり、それをどう解釈するかが、第2階層の前提命題になることが多いです。
以上のように、1枚のスライドと論理ピラミッドが対応した形に整理できます。
そして、1枚のスライドの内容の情報量は、論理ピラミッドで言えば、結論を最上位階層の第1階層として第3階層程度に収まるようにしておくのがいいです。
文章を読む場合は、自分のペースで進められます。読み手が分からないと感じれば、止まって考えたり、前に戻ったりできます。
しかし、口頭発表では、時間の関係もあり、話し手が主導的に進めて行くことになります。これは、聞き手が待って欲しいと思っても思い通りにならないことを意味します。そうすると、聞き手は、複雑で長い論理展開を処理しきれなくなる危険があります。
つまり、話し手が伝えたいことが、聞き手には伝わらないことになります。これは、口頭発表の失敗を意味します。
ですから、1枚のスライドにつき3階層程度の論理ピラミッドで話を進めるようにした方がいいです。
そうした小さな論理ピラミッドを何枚かのスライドとともに積み重ねることで、口頭発表全体を理解してもらうようにします。
このことから察せられるように、1枚のスライドの情報量を絞り、複数のスライドを用いることで、ある効果が期待できます。
複数のスライドを使うことで、1枚のスライドが、文章でいうところの1つの段落の役割を担います。
図22.14.スライドと論理ピラミッド全体の関係 画像クリックで拡大
スライドが切り替わる毎に、「新しい内容に移ったのかな」、「内容が発展するのかな」といった意識が聞き手に働き、聴く準備を促してくれます。
もし、1枚のスライドに、あれもこれも詰め込んで話していると、聞き手にとってかなり負担になります。文章でも1段落がやたらと長いと困惑してくるのと似ています。
したがって、スライドを映す順番も、必然的に文章の構成と似たようになります。つまり、導入―本論―結論という3部構成です。
まず、文章の導入部分からスライドが始まります。
今回の口頭発表では、何を主題として話すのかを述べます。そして、何故その主題を話すのかといった現状分析や問題点も話します。
この導入部分で予め結論まで触れておくかどうかは、口頭発表の環境次第です。
一緒に考えて行くことが大切だと思えば、結論に触れずに話を展開していくのもありです。
逆に、一緒に考えて行くのが理想的だが、話が込み入って複雑になるのなら、簡単に結論に触れておく方がいいでしょう。どこに向かって話が進んでいるのか分からないと、複雑な議論に付いて来られなくなる聞き手が出てくるかもしれないからです。
また、お偉いさんの前で企画の説明をするなら、結論については触れておいた方が無難でしょう。結論が見えないまま話を進めていると、途中で痺れを切らしたお偉いさんに「君は何が言いたいの?」と言われてしまうかもしれません。そうなると、立場上、口頭発表が終わってしまいますので。
導入部分が終わったら、本論部分に移ります。
ここが口頭発表の主要な部分になります。したがって、スライドの枚数も多くなります。
結論を支える論拠を1枚のスライドにつき1論拠ずつ説明していくのが基本となります。
全体の中で見ると、各スライドは結論を支える前提になりますが、1枚のスライドの中では、この1つの論拠が結論となり、論理ピラミッドを構成することになります。
1スライドが1段落に相当するので、段落構成で言えば、1枚のスライドの中の結論が、主題文であり、それ以外が、主題文を支える論拠となります。
こうして、必要なだけ論拠となる前提を説明します。
本論部分が終わったら、結論部分です。
今まで説明して来た論拠たる前提をおさらいして、自分の一番言いたいことである結論を述べて終わります。
全体のおさらいとして、1枚のスライドに1論拠を原則として説明して来たので、各スライドで述べてきた個別の結論が、全体の中では、論拠となる前提となって結論を支えていることを説明します。
このとき、最初の方のスライドを思い出してもらうためにも、各スライドの結論をおさらいするように確認して、最終的な結論を示すようにします。
文章と違って、発表中に、聞き手は読み返すことができないので、今回の口頭発表で述べた結論を支える前提に触れておかないと、理解が中途半端になる確率が高いからです。
口頭発表の時間の内訳は次のように大枠を決められます。
導入部分で、主題と現状分析・問題点を説明するのに、スライド2枚、
本論部分で3つの論拠を説明するのに、スライド3枚、
結論部分で話を総括して結論を説明するのに、スライド1枚、
合計で6枚のスライドを使うとすると、1枚につき2〜4分程度かかるとすると、15〜20分程度の口頭発表となります。
もちろん、発表内容によってはもっと長くなったり短くなったりすることもありますが、これで発表の流れが大方掴めたかと思います。
こうして1つの口頭発表が終わります。後は質疑応答があれば、聞き手の質問に答えて行くことになります。
この質疑応答でも論理ピラミッドが役に立ちます。論理ピラミッドで論理構成が視覚的に分かりやすくなっているので、質問に的確に答えやすくなるからです。
つまり、論理ピラミッドを見ることで、質問の内容が、論理構造のどこに位置し関係しているかが一目で分かるため、質問に的確かつ円滑に答えられます。
図22.15.質疑応答への利用 画像クリックで拡大
聞き手の質問から、質問内容が、論理ピラミッドで表される論理構造のどこにあるかを特定します。
例えば、あるスライドの第2階層の1つの前提から結論が導かれる理由がよく分からないという質問だと判断できたとします。
それならば、話し手側は論理ピラミッドを見て、他の第2階層にある前提と合わせて、どのように解釈すればいいのかを説明すればいいと、すぐに把握できます。
そして、それについて詳しく説明すれば、質問に対してズレることなく答えることができます。
あるいは、質問者が第2階層の1つの前提自体が良く理解できないとします。
それならば、その第2階層の前提の下位命題をもう一度丁寧に説明し直せばいいと判断できます。それでも足りなければ、違う具体例を考えて話すなどすればいいことになります。
このように、論理ピラミッドで発表内容を構造化しておくと、自分が全体の中のどこを話しているのか、全体の中で他の部分とどのように関係しているのか、といったことを瞬時に把握できます。
仮に、発表内容をすべて文字に起こして原稿を読み上げていたら、こうした論理の構造を瞬時に把握することが難しくなります。
文章ではどうしても単線的に理解していくことになるので、瞬時に他の部分との関係や位置付けが掴み難いからです。しかも、そもそも原稿の中から、瞬時に質問内容の該当箇所を見つけることも難しかったりします。
以上で、論理ピラミッドを用いた口頭発表についての解説を終わります。具体例なしに方法論についてしか触れていませんが、何か口頭で発表や提案をしないといけないとき、このことについて気を付けながら、資料や構成を考えてみると、上手くいくはずです。
4 まとめ
以上で、論理ピラミッドの応用について終わります。
論理ピラミッドが、「現象型」の問題を分析する以外にも、論理を整理したり構築するのに役立つことが理解できたかと思います。
論理的な文章を読むにしろ、自分で書くにしろ、結論と前提を明確に整理することが大切であり、論理ピラミッドはそれに適した道具です。
さらに、論理ピラミッドで論理を整理することで、全体と部分の関係と位置づけが把握しやすくなります。
そして、論理ピラミッドで論理展開を整理するときには、導入―本論―結論という3部構成を基本としつつ、「記述の集合」「因果関係」「対比」「問題/解決」という4つの基本的な類型を参考にすると良かったです。
しかし、1つの文章に1つの類型だけが用いられるとは限りません。
1つの文章の中で、大枠として「対比」の文章と言えるが、部分的に「因果関係」が用いられる、といったことがあります。そして、当たり前ですが、必ずしも典型的な類型のように綺麗に整理して割り切れるとも限りません。
こうしたことを踏まえて、論理ピラミッドで整理することが万能だと過信したり盲信したりすることなく、類型を参考に利用するようにします。そうすれば、類型は、論理ピラミッドで整理する指針となり役に立ちます。
なお、受験の現代文や英語の長文でも、この論理ピラミッドによる読解は役に立つので、是非活用して欲しいのですが、その際に注意すべき点を1つ付け加えておきます。このことは、大学受験に限らず、資格試験などでも同じことが言えます。
受験の現代文や英語の長文では、論理的な文章が問題文として多く採用されています。ですから、基本的には、論理ピラミッドが効果的に使えます。しかし、これには問題点があって、大半の問題文は1本の論文や1冊の本から一部分だけ切り抜かれているということです。
問題文が切り取られているということは、導入―本論―結論の3部がすべてそろっているとは限らないことになります。
したがって、導入部分がほとんどなく、いきなり本論から入る可能性もあります。または、結論部分が少しだけしかなかったりする、ということが起こり得ます。
そうすると、問題文を読むだけでは、どうしても何だか言葉足らずに感じられる場合が出てきます。
ですから、論理ピラミッドが綺麗に構成できないかもしれないことに気を付けておかないといけません。不完全な論理ピラミッドになっても、読解がある程度丁寧にできているのならば、気にしないようにしてください。それでも一部の悪問・奇問を除けば、正答が出せるようになっているので安心してください。
補足
現代文や英語の小説の問題文をどう分析したらいいのかといったことに興味のない人は、以下の内容を読まずに次の第23章 論理的な問題解決のまとめに進んでも構わない。
高校生に対して、論理的な文章ではない小説や物語文といったもの構造を説明しているものである。今まで説明して来た論理的な文章の読み方を小説等に適用しないようにしてもらうために、説明している。
現代文という話題が出たついでに、小説・物語文についての典型的な文章の構造を簡単に説明しておきたいと思います。
小説や物語文は、論理的な文章と違って、必ずしも一貫して分かり易く書かれているとは限りません。
わざと曖昧にぼかした表現を使うことがあります。また、論理的な文章なら話を積み重ねて来て、本来なら主題文として小結論が置かれる部分に特に何も書かずに、結論をさらに後ろに引っ張ったりすることもあります。無駄に修飾語を使ったり、比喩表現を多用したりもします。論理的な文章の処理の仕方では、明らかに禁じ手な方法が使われることが多々あります。
ですから、物語文の処理方法も少し変えないといけません。
まず、物語文がどのように構成されているかを理解しましょう。
物語文の構造図が図22.16になります。論理ツリーで表しています。
図22.16.小説・物語文の構造 画像クリックで拡大
「設定」を構成する要素には、「登場人物」と「場所」と「時間」があります。
特に説明しなくても、名前で分かるかと思いますが、一応簡単に説明しておきます。
図22.16.小説・物語文の構造
「登場人物」は、物語に登場する人物です。
今風に言えば、キャラクターと言えます。人間が主になりますが、動物や機械も「登場人物」に入りま得ます。
「登場人物」を中心に物語は展開していくので、必ず誰がどのような性格であるのか、年齢、地位や立場なのか、といったことを押えておかないといけません。
「場所」は、物語が展開される舞台と言えます。
物語が展開される場所は、日本だったり、外国だったりします。あるいは、もっと狭い範囲で、とある県だったり、街だったりもします。現実的な世界とは違って、異世界であったり、宇宙だったりもします。
物語が展開れされる場所が変われば、背景や常識が変わります。日本と海外では常識や文化が違うので、必然的に登場人物の考え方や動き方も変わります。そんなに大きな違いを見出そうとせず、日本だけで考えても、田舎と都会でも、十分に変わってきます。これが舞台が異世界や宇宙になると、もはや現代人の常識とかけ離れたことが展開されても、驚きに値しないと言えます。
「時間」は、物語が展開される時代と言えます。
日本で言えば、戦前と戦後ではかなり常識が違います。戦後でも、戦後すぐはかなり特殊になります。高度経済成長からバブル前くらいまでと、バブル、そして、バブル以後でもかなり変わってきます。戦前でも、日中戦争に突入するあたりと、その前の大正デモクラシーとではかなり変わってきます。さらにその前の明治時代でも変わります。江戸時代になると、今の常識では有り得ないことがかなり多くなります。
「場所」と「時間」は物語が展開する上で、「登場人物」の行動を無条件に制限することになるので、しっかりと押えておいてください。
また、「場所」と「時間」の背景を無視した読み方をしては、物語が理解できないことになるので、気を付けてください。
現代の自分の居る場所の常識から、物語をぶった切るような真似は推奨されません。
「設定」で、物語が何時、何処で、誰が、動かすのかが決められています。When、Where、Who となります。
次に、「主題」について見ます。
「主題」を構成する要素は、「出来事」と「目標」です。
図22.16.小説・物語文の構造
「出来事」は、事件だったり、事故だったり、色々です。
何かが起きて物語が始まります。そして、それが発展・展開していくことで、物語が動いていきます。今までずっと話して来た問題解決に照らせば、「困ったこと」である問題が発生していることが多いです。
ただし、これと言って何かが起きることもなく、物語が始まることもあるので、「主題」に関係する「出来事」が書かれていないこともあります。「出来事」が省略され得ることを表すために、図では点線で囲っています。
「目標」は、物語が最終的にどこに向かうかを表しています。
出来事として「困ったこと」である問題が発生していれば、それが解決されたり、何かしらの答えが出せることが「目標」となります。
この「目標」が、物語の展開の軸となります。
とは言っても、明確に分かり易く「目標」が予め書かれているとは限りません。読み進めていく内に、段々分かって来るようになっていたり、あるいは最後まで仄めかすだけで、自分で物語全体から読み取らないといけないこともあります。ここが、論理的な文章とは違うところです。
このように、物語の「主題」を読み取る必要があります。物語が何のために起きているのかを示しているので、Why となります。
続いて、「筋書き」に移ります。
「筋書き」は、物語の具体的な内容です。
そして、「筋書き」は、具体的には「挿話」によって構成されます。物語が1冊の小説のように長くなれば「挿話」は複数になります。
「筋書き」が具体化された「挿話」を構成する要素は、「下位目標」、「試み」、「結果」です。
図22.16.小説・物語文の構造 画像クリックで拡大
「下位目標」は、主題の「目標」にも関係しますが、物語が展開して行く中で、出て来る小さな目標になります。
物語が進む中で、様々な事が起きます。そういった様々な問題を解決したり、目標を達成したりしようとすることで、話が進みます。
したがって、「試み」は、下位目標に対する行動と言えます。
そして、「試み」を構成する要素として、「出来事」と「挿話」になります。
何か事件や事故といった「出来事」が起こり、それに対して「下位目標」に向けて何かしら行動を起こしていくことになります。
図22.16.小説・物語文の構造 画像クリックで拡大
そして、「下位目標」に対して、何かしらの試みが行われれば、何かしらの「結果」が得られることになります。
「結果」を構成する要素には、「出来事」と「状態」があります。
「試み」の「結果」として、「下位目標」に対して何かしらの「出来事」が起きます。「下位目標」が上手く達成されることもあれば、失敗することもあります。
そして、「出来事」が起きた「結果」として、何かしらの「状態」に落ち着きます。
ここで、「挿話」の下位階層にある「試み」の更に下位階層に、「挿話」がもう一回現れていることから分かるように、最初の「試み」の「出来事」に対して、「下位目標」がさらに生じて、それに応じて更に「試み」が生まれ、「結果」が発生します。
図22.16.小説・物語文の構造 画像クリックで拡大
このように、「挿話」が何層にも重なって物語が展開されて行きます。
また、短い説話と違って、1篇の長い小説になると、「挿話」の中に「挿話」が入るだけではなく、「挿話」が複数並立していく場合もあります。
以上のように、物語の展開が具体的に描かれる「筋書き」は、どうやって話が進むのかというこを示すので、How となります。
そして、「挿話」が積み重なって「筋書き」ができあがり、物語が進んで行き、最後に結末として「解決」が表されます。
この「解決」が、主題に対する結論になります。
「解決」を構成する要素に、「出来事」と「状態」があります。
図22.16.小説・物語文の構造
物語の最後に、「出来事」が起きます。
これで「主題の目標」が達成されたのか、あるいは、目標達成ならずなのかが決まります。
そして、その「出来事」の結果として、ある「状態」に至ります。
これが結末の中の最後の場面といったところです。
「解決」は物語の結末ですから、物語が最終的にどうなったのかということを示すので、What となります。
なお、目標が達成されることもあれば、達成されないこともあることに気を付けおいてください。
物語が常に皆が皆幸せになるような大団円、ハッピーエンドを迎えるとは限りません。何事も上手く行かず破滅的・破壊的な破局、バッドエンドを迎えることもあります。あるいは、大団円とも破局とも言えない、中途半端な場合もあります。ある意味では、幸せな終わりではあるけど、違う風に捉えれば、不幸な終わりに思えるなどなど。これが物語の面白い所でもあります。
改めて、大きく物語の構造を捉えます。
「設定」が現実の状態となります。物語が開始した時の状況となります。ここから色々と出来事が起きて、変わって行きます。
そして、「主題の目標」と「筋書き・挿話の下位目標」を合せて理想の状態と考えることができます。
図22.17.小説・物語文の構造 画像クリックで拡大
したがって、「出来事」が起きて、それに対して「試み」を重ねて行くと現実の状態が理想の状態に近づいたり離れたりしていきます。
そして、結末の「解決」で、現実の状態が理想の状態となれば大団円、それに失敗すれば破局となると考えることができます。
こうやって、物語の構造を説明してきたわけですが、このような構造に上手く分類できない場合もよくあります。
ですから、物語の構造を掴むのに参考になる、という程度と思っておいてください。型に嵌まった物語では展開が簡単に読めてしまいますし、作者はあの手この手で意外性を出そうとして来るものなので、余計に型に嵌まり難いです。
こうして見ると、論理的な文章と物語文はかなり異なる構造になっていることが分かります。ですから、物語文を読む際には、どういった「設定」で、何のためなのかという「主題」を押えて、「筋書き」でどのように展開していくかを見て、結末たる「解決」を読み取らないといけません。
そして、物語文を要約するとき、5W1H でまとめるといいです。しかし、これらを細かく網羅するとキリがないので、結構思い切って内容をまとめることになります。
「設定」の「登場人物」・「場所」・「時間」は、Who、Where、When でした。
Who である「登場人物」は、何度も何度も登場して話の大筋に絡む主要な人物のみに絞ります。
Where である「場所」は、会社や学校が舞台で物語がそこで展開するが主なら、会社や学校とまとめることができます。しかし、舞台が「出来事」と共にコロコロと変わるのなら、日本とか東京とか、大まかにまとめるので十分です。
When である「時間」は、舞台が主に展開される時代をまとめるだけで、具体的な季節や年代まで含めなくてもいいことが多いです。部長時代だったり、学生時代だったりするのなら、それだけで十分です。
「主題」の「出来事」・「目標」は、Why でした。
Why つまり理想の状態であり目標です。つまり、これが話が進む理由であり目的になるので、大きく捉えます。「挿話」の「下位目標」もすべてまとめていたら要約にならないので、「主題の目標」のみが基本となります。
「出来事」は物語の始まりなので、軽く触れる程度でいいです。
「筋書き」とそれを具体化した「挿話」、さらにその下にある「下位目標」・「試み」・「結果」などは、How でした。
これは思いっきりバッサリ切っても構わないことが多いです。話の核心に触れたり、最重要な「出来事」以外はそぎ落として構いません。
「解決」の「出来事」・「状態」は、What でした。
What は結末なので、物語の結末がどうなったのかをまとめることになります。
このようにして、5W1H で物語をまとめると、上手く要約できます。
なお、What つまり「解決」まで含めてしまうと、完全なネタバレになります。
もし相手に「この作品を読んでもらいたい」と思って物語文を要約するのなら、上手い具合に What を要約から外して、「続きは作品で!」といった方向にしておくのが無難です。そうしないと、ネタバレされた相手から文句を言われることになりますから。
物語文の構造が分かったところで、西洋式だけではなく、東洋の伝統的な形式についても少し触れておきます。
漢文、特に漢詩の流れを継ぐ、有名な文章の構成法に、起承転結というのがあります。
これは、文章を起承転結の4つの部分で構成すると良い、という考え方です。
これを先程の物語の構造に当てはめると、起が「設定」、承が「主題」、転が「筋書き」、結が「解決」になります。
まず、「設定」の起で、物語の登場人物、彼らが置かれている状況等を説明します。
次に、「主題」の承で、その登場人物に何かしらの出来事が起き、目標が明らかにされます。
そして、「筋書き」の転で、主題とは関係がなく思える意外な出来事が起きて、話を変化させます。
最後に、「解決」の結で、起承転の話を結びつけるようにまとめて、結末を示します。
転の部分が、起承と関係性がないように感じられれば感じられるほど、意外性が増すので物語として面白く感じられます。ただし、結の部分で全体を上手くまとめられないと、まったく関係のないことになってしまい、物語が支離滅裂になり、駄作となります。
最近は、起承転結を論理的な文章で用いるように指導することは減っているのですが、一昔前は、論理的な文章を書く際にも、起承転結を金科玉条の如く教え込んでいた教師が多くいました。
論理的な文章では、一貫性が大切になります。そすると、起承転結の転の部分が不要になります。もちろん、論理的な文書でも、今までの通説を覆すような斬新な考えを説明するときに、否が応でも転のような働きをする部分が出て来ることもあります。しかし、大抵は導入―本論―結論のように、起承結の構造になり、転の部分がないことの方が多いです。そして、転がない方が論理的な文章になりやすいのです。
このことを踏まえると、物語を書く際に起承転結を意識するのは構わないが、論理的な文章を書く際には、起承転結は基本的に使えないことが分かるかと思います。論理的な文章と物語は根本的に違うのだということをしっかりと意識しておいてください。
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