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第23章 論理的な問題解決のまとめ
論理的思考に基づいて、「困ったこと」である問題をどのように捉えて、解決すればいいのかを学んできました。
問題を「発生型」「構造型」「現象型」「設定型」「創造型」の5つに分類して、問題の特徴に応じて、論理ツリー、因果関係図、論理ピラミッドの3つの道具を使いながら考えました。
そこで、今まで学んできたことを一度まとめ直して整理します。
目次 |
1 講義の総括 2 講義の整理 3 補足 テキストのダウンロード[詳細] 通常版 既述版 |
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1 講義の総括
今まで論理的思考に基づいて問題を解決することがどういったものかを学んできました。
第12章では、目的達成志向で物事を考えて、目的と手段の関係を捉えることの大切さ、それに基づく問題解決のための論理的な主張の枠組みを説明しました。
第13章では、第 I 部 論理的思考で学んだ演繹法と帰納法 を実践的に利用する際に、拘り過ぎないことへの注意を喚起しました。
第14章では、問題の捉え方と解決をどう考えるかについて説明しました。問題を理想と現実の乖離と捉えて、その乖離を埋めることを解決としました。それを具体的に実践するために、課題形成段階、解決策立案段階、実行段階の3段階に分けて考えました。
第15章では、論理(ロジック)ツリーの3つの使い方の内の1つである what ツリーを用いて、概念や構造の整理の仕方を学びました。このとき、枠組み(フレームワーク)を使うと、対象を理解しやすくなりました。また、ダブりなくモレなく、つまり、MECE に物事を整理することが重要でした。そして、積み上げ方式(ボトムアップ方式)で整理する方法もありますが、論理ツリーは逆算方式(トップダウン方式)との相性が良かったです。
第16章では、論理ツリーの3つの使い方の内の1つである why ツリーを用いて、「発生型」の問題の本質的な原因の特定の仕方を学びました。上位階層と下位階層が論理的に正しいかを考える際には、why so?(何故そうなのか?)と so what?(だから何?)と問うことが役に立ちました。
第17章では、論理ツリーの3つの使い方の内の1つである how ツリーを用いて、課題解決策の作り方を学びました。仮説思考に基づいて、最適な解決策を選択するために、実効性と実現可能性を考えたり、決定マトリックスを使ったり、数値化すると便利なことを学びました。
第18章では、「設定型」の問題と「創造型」の問題について学びました。特に「創造型」の問題を考える際には、創造的思考 creative thinking によって既存の考え方に縛られないことが大切になりました。
第19章では、因果関係図を用いて、「構造型」の問題の本質的な原因の特定の仕方を学びました。
第20章では、論理ピラミッド(ピラミッドストラクチャー)の使い方の基本を学びました。逆算方式(トップダウン方式)で整理する方法もありますが、論理ピラミッドは積み上げ方式(ボトムアップ方式)との相性が良かったです。
第21章では、論理ピラミッドを用いて、「現象型」の問題の本質的な原因の特定の仕方を学びしました。そのついでに、「現象」と「解釈」の理解も深めました。
第22章では、論理ピラミッドを応用して、論理的な文章の理解や構成法を学びました。論理的な文章は、導入―本論―結論の3部構成を基本としつつ、その型に応じて、「記述の集合」「因果関係」「対比」「問題/解決」に分けられました。さらに、分かり易い口頭発表に利用する方法についても説明しました。また、論理的な文章と小説等の物語文との違いについても触れました。
2 講義の整理
図14.10.問題解決の過程と方法 画像クリックで拡大
問題解決の過程のおさらいをします。
まず、何か「困ったこと」があると感じて、問題意識を持ちます。そこで、問題が何かを明らかにするために、情報を収集します。そして、現実の状態と理想の状態を明らかにし、その乖離が問題だと認識します。
なお、完全な形で問題が認識できてから次の段階に移るのではなく、原因の特定の段階でも断続的に情報収集することになります。問題の認識は、発散と収束を繰り返しながら達成されるので、完璧にできたら次に移るのではなく、これが問題だと思っていても、分析して行ったら何か違うとなって修正をするように、行ったり来たりすることになります。
図14.4.問題の認識 画像クリックで拡大
問題が認識できれば、問題を解消するためにも、問題を引き起こしている原因を特定します。または、原因のない問題なら、自ら課題を設定します。
問題の型は5類型あり、原因のある問題は「発生型」「構造型」「現象型」、原因のない問題は「設定型」「創造型」があります。
図14.3.問題の類型 画像クリックで拡大
問題の型に応じて、分析の道具を選び、問題を整理して、原因を特定します。
「発生型」では、論理ツリーの why ツリーを使います。
「構造型」では、因果関係図を使います。
「現象型」では、論理ピラミッドを使います。
図15.1.論理ツリーの概念図 画像クリックで拡大
図19.3.因果関係図
図20.1.論理ピラミッドの概念図 画像クリックで拡大
原因のない問題である「設定型」「創造型」ならば、論理ツリーのhowツリーを使います。
「創造型」の問題は、創造的思考 creative thinking が大切になります。
図18.2.設定型の問題の解決の過程
しかし、問題の型がどれか特定できないのなら、暫定的に「現象型」の問題と仮定して、分析を開始します。分析の途中で、問題の型が判明したら、適した道具に変更して分析をし直せばいいです。
そして、問題を分析する際には、トップダウン(逆算)方式とボトムアップ(積み上げ)方式の2通りがありました。
トップダウン(逆算)方式では、ある程度の結論に目途が立っているのならば、結論から必要な前提を考えて行きます。
ボトムアップ(積み上げ)方式では、自分が持っている個々の情報や事実を前提として、それらから結論として何が言えるのかを考えて行きます。
図15.22.トップダウンとボトムアップ
そして、問題を分析していく際に、各命題の関係性の捉え方が論理的かを確認する際に、why so? と so what? と問い考えることが役に立ちました。
why so? では、上位階層に「何故そうなのか?」と尋ねて、下位階層が答えとして正しく繋がるかを確認します。
so what? では、下位階層に「だから何?」と尋ねて、上位階層が答えとして正しく繋がるかを確認します。
図16.6.why so?
図16.8.so what?
このとき、気を付けることは、上位階層が下位階層を縛っていることです。上位階層が下位階層を縛るので、下位階層を考えるとき、常に上位階層の枠の中に制限されていることを忘れてはいけませんでした。
図16.14.上位階層による下位階層への縛り
問題の本質的な原因が特定できたら、課題化します。課題化は本質的な問題を、裏返した形で表現すればいいことが多いです。
本質的問題:A が B である ↓裏返す 課題化:A が B ではない状態にする |
これで課題形成段階が終わります。
次に、解決策立案段階です。
明らかになった課題に対して、解決の方向に応じて、枠組み(フレームワーク)を考えながら、解決策の構想を出します。このときも創造的思考が大切になります。
図14.5.解決策立案 画像クリックで拡大
有り得る解決策が出せたら、仮説思考で、どの解決策が問題を解決できるかを考えます。
効果を測定するなどして、解決策の仮説を検証して、実行すべき解決策を決定します。
実行すべき解決策を決定したら、実行計画を立てます。実行計画は全体から部分へ、部分から全体へという2通りの視点から検討します。
図14.6.計画の立て方
これで、解決策立案段階が終わります。
最後に実行段階です。
まず、今まで分析してきた問題の原因と、その解決策を、重要人物を中心に関係者に論理的に説明し説得します。このとき、論理ピラミッドで整理するとよかったです。
図14.7.問題と解決策の論理の明確化
こうして、関係者の説得に成功して、必要な物を用意して、すべての準備が整ったら、計画を実行します。
適宜、点検をして見直しと修正をしながら、実行していきます。
図14.8.点検・見直し・修正
以上が、論理的に問題を解決するための一連の流れでした。
3 補足
ここまで主に、論理ツリー、因果関係図、論理ピラミッドの3つの道具の使い方を説明してきました。各道具を使うときには、常に1つの道具のみを使う例ばかりでした。慣れるまでは、複数の道具を同時に使うと混乱したりするかもしれないので、最初は1個ずつ使うのが無難です。
しかし、分析の対象が複雑になってくると、3つの道具を同時に使う場合も当然に出てきます。敢えて、ここでは例を示しませんが、1つの道具でのみ分析することに拘らないでください。
ある部分では論理ツリーを使うが、別の部分では因果関係図が使われたり、論理ピラミッドが使われる、ということが起きえます。
1つの道具ですべて完璧に分析できるのだと思い込まず、柔軟に対応するようにしてください。道具は使うために存在するのであって、道具に使われては本末転倒です。使っている分析の道具に縛られて、対象の捉え方を勝手に狭めないよう気を付けてください。
終わりに
第 I 部では論理的思考の基礎を学びました。そして、第II部では、論理的に問題を解決する方法を学びました。これで、基本的な論理的思考と問題解決の方法論は習得できたことになります。
この方法論は、多くのことに通じており、そういう意味では、一般的であり、普遍的な思考法や分析法です。つまり、応用的であり、かつ、実践的な方法でもあります。
受験勉強にしろ、大学での学問にしろ、企業での労働にしろ、やっていることは似ているなということが分かって来るはずです。
しかし、こうした方法論を単に暗記物のように捉えることはやめてください。暗記した物をそのまま吐き出すというのは、今まで一緒に勉強して来たことの否定です。常に分析をし、考え、総合して、自分で理解するようにしてください。
また、常にこの方法論が万能だと考えるのも誤りです。道具は使える場面というのが限られています。単に応用範囲の広い道具でしかありません。そして、そもそも私達人間はそこまで優秀ではありません。
もちろん、この講義だけで十分に論理的な思考をしながら、問題を解決できるようになることもありません。
この講義は、方法論を学び自分で実践するための第一歩です。普段から論理的に物事を考える努力は必要です。こうして、学問だけではなく社会問題など、様々なことについて、「自分の頭で」考えることができるようになるはずです。ここで学んだことを、自分で使いながら、日々の報道にしろ何しろ、「自分の頭で」考えるようにしてください。
そうすれば、色々なことが分かって来ますし、分かれば楽しくなります。そして、分からないことがあれば、それを知りたくなります。こうなれば、もう考えること自体が楽しくなります。そして、単に人から与えられたこと、言われたことを無批判に受け入れて自分の意見だと考えてしまうのとは違った見え方ができるはずです。
馬鹿のひとつ覚えのように、覚えたことや、たまたま知っていたこと、受けた印象と自分の感情に大きく頼った判断ではなく、正しく「自分の頭で」考えて判断できるようになることを願っております。それでは以上です。ありがとうございました。
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