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第16章 論理ツリー ― why ツリー―
論理(ロジック)ツリーを用いて、問題の原因を特定するための分析方法を学びます。ここでは主に「発生型」の問題を論理ツリーを用いて分析します。
なぜ問題が起きているのかを考えるための論理ツリーは why ツリーと呼ばれます。基本は前章の what ツリーと変わりませんが、問題の原因を特定するという目的意識の下に why ツリーを組み立てて行くことになります。
目次 |
1 「発生型」の問題と why ツリー 2 why ツリー作成の準備 3 why ツリーの作成 4 why ツリーによる本質的原因の特定 5 問題の課題化 6 論理ツリーの階層の意味 7 論理ツリーの整理 8 まとめ テキストのダウンロード[詳細] 通常版 既述版 配布資料 |
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1 「発生型」の問題と why ツリー
論理ツリーによって、何が問題であるのかを特定する場合があります。こうした問題を明確にし原因を特定する論理ツリーを why ツリーと呼びます。
what ツリーが概念や構造の整理や分類をして対象を理解するのが目的だったのに対して、why ツリーは、原因の特定が目的になります。わざわざ、what ツリーと why ツリーと呼び方を変えているのは、今自分が論理ツリーを使って何がしたいのかという目的意識を明確にするためです。
さて、論理ツリーが問題およびその原因の特定に役に立つ場合とは、問題の型が「発生型」の問題に分類されるものでした。一応復習として確認しておきます。
「発生型」の問題とは、「困ったこと」が単発的に現れるような場合を指しました。
「困ったこと」が単発的に現れるので、何が問題なのかが比較的明確で、原因を特定化しやすかったです。
こうした「発生型」の問題の場合は、論理ツリーを使うのが効果的になります。
「発生型」の問題は「困ったこと」が明確ですから、その「困ったこと」を最上位命題とします。しかし、この最上位命題たる「困ったこと」は、漠然としており、抽象的です。そこで、この抽象的な「困ったこと」を MECE(ダブりなくモレなく)で具体的な原因に分解して行きます。そうすると、その「困ったこと」を引き起こしいる原因が具体的に分かります。
この「発生型」の問題を MECE に分解して、why ツリーを構成して、原因を特定する方法を学びます。
論理ツリーの作り方の基本は what ツリーの場合と同じですが、論理ツリーを作る目的が対象の理解よりも原因の特定を目指している点で異なります。したがって、what ツリーでは「どういうこと?」という問いを中心にして掘り下げていたのに対して、why ツリーでは「なぜ?」という問いを中心にして掘り下げて行くことになります。
なお、今回説明する why ツリーは主に課題形成段階についての話になります。
2 why ツリー作成の準備
それでは実際に、why ツリーを作ってみましょう。(16.1)を見てください。
(16.1)ある試験の問題を間違えてしまった。間違えたのは、不注意によるものではなかった。その誤答した原因となり得る要因を論理ツリーを用いて示せ。 |
なお、(16.1)からは、どのような問題を間違えたのかが読み取れないから分析のしようがない、と考えた人もいるでしょう。確かにそうとも言えますが、今後の受験勉強にしろ資格試験にしろ問題集を解くときにも使えるように、敢えてこのような一般的で抽象的な命題である「問題を間違えた」ということについて考えています。ですから、色々と自分なりに考えてみてください。
さて、(16.1)では、「問題を間違えた」ことの「原因」を考えるために論理ツリーを作るのだから、「問題を間違えたのはなぜか?」と考えることから始まるのは容易に想像がつくかと思います。「何で問題を間違えたのか?」、「どこがダメだったから間違えたのか?」といったことに思いを巡らせたでしょう。
そして、論理ツリーを作るの際には、大切なことは目的意識を明確にして MECE に分解することと、適切な枠組みを設定することでした。
しかし、枠組みを設定しようにも中々難しいかと思います。「問題を間違えた」ことの理由としては、「問題文の意味が分からなかったから」、「知識が不足していたから」といった当たり前のことはすぐに思いつくでしょう。が、しかし、「問題を間違った原因を特定する」という目的達成志向の下でも、枠組みとしてどういったものが良いのかの判断が難しいです。実際に「知識が不足していた」か「知識が不足していなかった」かという枠組みをいきなり当てはめてみても、後が続き難いはずです。
そこで、枠組みを設定する際には、上位階層には適度に一般的で抽象的な枠組みを設定すること、対象の本質を考えながら必然的な枠組みを設定することが大切なのを思い出します。
どの枠組みが適切か分からないので、まず対象の本質とは何かを考えます。
とすると、「問題を間違えた原因」を探るからには、そもそも「問題を間違える」とはどういうことなのかが分かっていないと、適切な枠組みが何なのか判断できないことになります。
対象の本質を考える 問題を間違えた原因は何か? ↓ 問題を間違えるとは何か? |
そして、「問題を間違える」ためには、当たり前ですが、まず「問題を解く」ことが必要です。
つまり、「問題をどのように解いたか」をしっかりと理解しておくことが必要です。
対象の本質を考える 問題を間違えた原因は何か? ↓ 問題を間違えるとは何か? ↓ 問題をどのように解いたか? |
したがって、「問題を間違えた原因」を特定するためには、その前に「問題をどのように解いたか」についてしっかりと押さえる必要に気付きます。
そして、「問題をどのように解いたか」を明らかにすることは、問題を解く過程の解明することです。
では、一般的に問題を解くとき、どのようなことを行っているのでしょうか。
いきなりそんなこと言われてもと思うかもしれませんが、まず自分で具体的に問題を解いているときどのように解いているか分析して見てください。何となく漠然と問題を解いて丸付けをするという日頃の勉強という作業を思い出すのではなく、問題をどう解いているのかという過程を意識して、どのような手順を踏んでいるのかを考えることが大切です。
そこで、(16.1.1)を見てください。中学校以上の人にとって簡単過ぎる問題なので、間違えようがありませんが、だからこそ、どのように問題を解いているのかという過程に意識が向けられるはずです。
(16.1.1)500円の商品を2割引で買うときに支払う金額はいくらか。ただし、支払う金額の値だけではなく、どのように問題を読み、考え、解いたかの手順も明らかにせよ。 |
とりあえず、支払う金額の答えは、400円になります。
さすがに、この講義を受けている中で、これが分からなかった人はいないと思うので、計算方法それ自体の説明は省かせてもらいます。それでは、この400円という値をどのように導き出したでしょうか。
おそらく、「500×0.8=400」と計算した人が多いのではないでしょうか。
(16.1.1)500円の商品を2割引で買うときに支払う金額はいくらか。ただし、支払う金額の値だけではなく、どのように問題を読み、考え、解いたかの手順も明らかにせよ。 ・500×0.8=400 |
こう計算すると早く計算できると知っている人は多いはずです。しかし、元を辿って手順を追えば、「500−500×0.2=500−100=400」というのが小学校の最初に習ったやり方のはずです。
(16.1.1)500円の商品を2割引で買うときに支払う金額はいくらか。ただし、支払う金額の値だけではなく、どのように問題を読み、考え、解いたかの手順も明らかにせよ。 ・500×0.8=400 →500−500×0.2 =500−100 =400 |
支払う金額の値自体は簡単に求められます。では、(16.1.1)の但書「支払う金額の値だけではなく、どのように問題を読み、考え、解いたかの手順も明らかにせよ」に移りたいと思います。
もちろん、単純に計算式を示せば、この問いに答えたことになるわけではありません。この問いに答えたと言えるためには、「問題文を読んだ際に何をしたか」、「それについて考えたことは何か」、そして、「どうやって解いたか」の3点を明らかにしないといけません。
問題の解く過程の解明 ・問題文を読んだ際に何をしたか ・それについて考えたことは何か ・そして、どうやって解いたか |
この問いの優しい所は、「読み、考え、解く」ということを明らかにすれば、問題を解く過程が明らかになることを示唆してくれているところです。つまり、「読み、考え、解く」という各段階で何をしていたのかを分析すれば、問題を解く過程で何をしているのかがハッキリとします。
それでは、具体的に見て行きましょう。
まずは問題を解くには、問題を読まないと始まりません。「読み」の段階です。
(16.1.1)の問題文である「500円の商品を2割引で買うときに支払う金額はいくらか」を読み上げます。このとき、目で文字を見るのは当然です。しかし、字面だけを追っていても問題は解けません。目で文字を見るだけではなく、文の意味を理解しながら読んでいるはずです。
そして、文の意味を理解する上で、大切なのが必要な情報を読み取ることです。つまり、問題を解く上で必要な情報を見つけ出しながら読んでいます。
(16.1.1)に当てはめて言えば、問題を解くために必要な情報として、「500円」、「2割引」、「支払う金額」を拾っているはずです。
図16.1.問題を解く過程の解明1
それでは、必要な情報を読み取れなったら、どうなるでしょうか。
例えば、「500円」という情報を拾い落としていたら、もう問題に答えることができなくなってしまいます。
したがって、必要な情報を読み取れない場合、問題に答えることができなくなります。
このように、まず問題文を読む際には、必要な情報を見つけ出しながら読んでいることが分かりました。必要な情報に気付けるか気付けないか、これが「読み」の段階で具体的にしていることだと分かりました。
必要な情報を見つけ出せたら、次は何をしているのでしょうか。
もちろん、見つけ出した必要な情報である「500円」、「2割引」、「支払う金額」が何を意味しているのか理解しないといけません。
「500円」が「元の値段が500円」であること、
「2割引」が「元の値段から2割引かれた値」であること、
「支払う金額」が「相手に渡す金額たる代金」であること、
といった意味を理解しないといけません。
図16.1.問題を解く過程の解明1
ここでも、もし情報が何を意味しているかが分からないとしたら、問題が解けなくなってしまいます。
例えば、「2割引」の意味が分からなかったら、「500円」と「支払う金額」が分かっていても、いくら払えばいいか分かりません。
このように、情報が何を意味しているかを理解していることが重要だと分かりました。
そして、この情報の意味を理解する段階は、「読む」段階の後の「考える」段階と言えます。
したがって、「考える」段階では、情報の意味を理解することから開始することが分かりました。
しかし、意味が理解できただけでは問題は解けません。
情報が何を意味しているのかを理解したら、その理解に基づいて、自分の頭から必要な知識を引っ張り出してきて、適切に追加して行く必要があります。
「500円」が「元の値段が500円」であるという意味に理解できたら、ここから、「元の値段は円の価値を数字で表すと500」と考えられる。
「2割引」が「元の値段から2割引かれた値」であるという意味に理解できたら、ここから、「2割」は「百分率で表すと20%」であり「20%を小数で表すと0.2」になり、「割引」だから「元の値段に0.2を掛けるといくら割引されるかの値段が出る」。
図16.1.2問題を解く過程の解明1
もし、情報に対して必要な知識を適切に追加できないと、問題は解けません。
例えば、「2割引」から適切に「元の値段に0.2を掛ける」ことが引っ張り出せないと、計算ができないことになります。
このように、自分の頭から必要な知識を引き出して、適切に見つけ出した情報に加えて行きます。
今、必要な情報を読み取って、「500円」、「2割引」、「支払う代金」という情報を見つけ出したら、その意味を理解して、知識を適切に追加しましたが、少し複雑になっているはずです。
各情報が何を意味しているのか、どういう知識と結びついているのか、といったことは個別に理解はできていも、バラバラになっています。
そこで、バラバラの情報と知識を1つの統一的なモノとして捉えられるように、情報と知識を整理することが大切になります。
もし情報を整理できなければ、結局は自分が何をしているのか、何を求めてようとしていのか、何をすればよいのか、といったことが分かっていないと言えます。
「500円」を「元の値段が500円」であるという意味で理解し、「元の値段は円の価値を数字で表すと500」であるという知識を追加していました。
「2割引」を「元の値段から2割引かれた値である」という意味で理解し、「元の値段に0.2を掛けるといくら割引されるかの値段が出る」という知識を追加していました。
この2つから、「元の値段500に0.2を掛けると値引き額が出る」と整理できます。
これに加えて、さらに「支払う金額」を「相手に渡す金額たる代金」という意味で理解していたので、「相手に渡す金額たる代金は、元の値段500から値引き額500に0.2を掛けた値を引くことで得られる」と整理できます。
図16.1.2問題を解く過程の解明1
仮に上手く整理できずに、「支払う金額たる代金は、値引き額である」としてしまったら、誤った答えを導くことが分かります。
このように、情報と知識を上手く整理することの重要性が分かります。
そして、情報と知識を上手く整理できれば、ほとんど答えが出たようなものです。その整理されたものからどのように処理すれば答えが導けるかが必然的に導けるからです。ここまでが「考える」段階と言えます。
さて、最後の「解く」段階です。
先程の整理された「相手に渡す金額たる代金は、元の値段500から値引き額500に0.2を掛けた値を引くことで得られる」という結論に向けて必要な処理方法は明らかです。
「四則計算」つまり「足す・引く・掛ける・割るのルール」で処理すればよいということが思いつくことができればいいわけです。
なお、情報と知識の整理を終えた段階で円や割引といった単位も丁寧にそろえているので、計算過程では単位を無視できます。
図16.1.2問題を解く過程の解明1
解き方が分かってしまえば、その解き方を粛々と当てはめて処理していけばいいだけです。
「500−500×0.2=500−100=400」と計算でき、後は「400」に単位の「円」を加えて「400円」とします。
これが答えです。
図16.1.2問題を解く過程の解明1
もちろん、解く方法は1つとは限りません。
「500−500×0.2」と処理せずに、「500×0.8」と解く方法もあります。こっちの方が計算が速いでしょうし、多くの人はこちらの計算方法で処理しているのではないかと思います。
いずれにしろ、こうした過程を知っているからこそ、どの方法が一番楽に速く正しい答えを導けるように処理できるかと判断できているはずです。
このように、簡単な問題を例にしましたが、それをどのように解いているのかを分析して見ると、このような過程で問題を解いていることが分かりました。
必要な情報を見つけ出す→情報が何を意味するか理解する→必要な知識を追加する→情報と知識を整理する→処理方法を適用する→処理する、という流れです。
図16.2.問題を解く過程の解明2
ですから、「読む」段階では、「必要な情報を見つけ出す」ことをしています。
「考える」段階では、「情報が何を意味するか理解」した後に、「必要な知識を追加」して、「情報と知識を整理」しまています。
「解く」段階では、「処理方法を適用」して「処理」を実行しています。
図16.2.問題を解く過程の解明2
「問題を解く」ということが具体的に何をしているのかが分かったので、元々の原因を特定したい対象(16.1)たる「問題を間違える」ことの本質も何となくですが見えてきたはずです。
つまり、「問題を解く」過程のどこかでミスが生じることで、「問題を間違えた」という結果が発生するのだという考えに行き着きます。
3 why ツリーの作成
それでは、「問題を間違えた」ことを MECE に分解していくには、どのような枠組みを設定すればいいのか改めて考えてみましょう。
なお、このとき注意が必要なことがあります。
(16.1)を改めて読んでください。(16.1)の問題文には、「間違えたのは、不注意によるものではなかった」という文言があります。
(16.1)ある試験の問題を間違えてしまった。間違えたのは、不注意によるものではなかった。その誤答した原因となり得る要因を論理ツリーを用いて示せ。 |
これから、前提条件として「不注意による誤りではなかった」があることに気を付けなければいけません。
この「不注意による誤りではなかった」という前提条件があるため、不注意に関係する原因は最初から考えなくてもよくなります。
もっと言えば、不注意に関係する原因は除外して考えないといけません。
前提条件は、問題を分析する上で与えられた縛りです。前提条件があるのにそれを無視して問題を分析しても、問題の原因を特定するのに意味がありません。それどころか、かえって、考えなくてもいいことを考えているために時間の無駄になります。
例えば、「夏の晴れた日に、歩いてたらけた理由」を考えるとしましょう。
「直前まで雨が降っていて地面が濡れており地面が完全に乾いていなかった」ことを、原因の候補の1つとして挙げることはよしとしましょう。
しかし、「夏の晴れた日」という文句があるのに、「雪で地面が濡れて滑った」ことをわざわざ原因の候補に挙げるのは、間が抜けています。
このように、明示されているか明示されていないか問わずに、前提条件によって、考える必要がないことと、考えるべきことが設定されていることに気を付けてください。
今回は、「不注意による誤りではない」ということなので、これを前提条件として必ず意識しなければなりません。不注意に関連する間違ったことの原因は考えなくてもいいことになります。
さて、原因の特定のために、枠組みを設定しましょう。
問題を解く過程は、「必要な情報を見つけ出す→情報が何を意味するか理解する→必要な知識を追加する→情報と知識を整理する→処理方法を適用する→処理する」ことの6段階に分けられ、どこかでミスが生じると「問題を間違える」という結果が生じることまでは分かっています。
図16.2.問題を解く過程の解明2
では、「問題を解く」ことに関係する6つの重要な段階の中で、最初の切り口として、どの枠組みを設定するべきでしょうか。
「必要な情報を見つけ出す」ことによる枠組みでしょうか。
「情報が何を意味するか理解する」ことによる枠組みでしょうか。
「必要な知識を追加する」ことによる枠組みでしょうか。
「情報と知識を整理する」ことによる枠組みでしょうか。
「処理方法を適用する」ことによる枠組みでしょうか。
「処理する」ことによる枠組みでしょうか。
「問題を間違えた」ことを考えるためには、どの枠組みがいいのでしょうか。どの枠組みでも、「問題を間違える」ことについて本質的で必然的なものと言えそうな気がします。
そこで、上位階層には適度に高い一般的・抽象的な枠組みを設定するという原則を思い出します。一般的・抽象的な枠組みほど上位階層に適応すべきだとという原則です。
しかし、一般性で言っても、抽象度で言っても、どの枠組み対等のように気もします。どの枠組みも「問題を解く」中で必要で重要なな手順であり、一般性や抽象度に違いがあるような考え方ではないです。ですから、今回は、一般性や抽象度で判断できません。
仕方がないので、手順を手順として手順の順番に従って「問題を間違える」ことを分析していくことにします。つまり、
必要な情報を見つけ出す→情報が何を意味するか理解する→必要な知識を追加する→情報と知識を整理する→処理方法を適用する→処理する
の流れのままに枠組みを使って、「問題を間違える」原因を特定していきます。
ですから、流れとしては、手順の最初の最初、一手目である「必要な情報を見つけ出す」ことによる枠組みから始めます。
ここで補足ですが、敢えて下から上へと攻める方法も考えられます。
つまり、「処理する」ことによる枠組みから「問題を間違える」原因を特定していく方法です。
「必要な情報を見つけ出す」ことによる枠組みが上流から下流への流れだとしたら、「処理する」ことによる枠組みは下流から上流への流れとなります。別に下流から上流へという分析でも構いませんが、今回は、「問題を解く」ときに順番に踏んでいく手順として自然な方から分析することにします。
それでは、「必要な情報を見つけ出す」ことによる枠組みを適用するために、「そのもの」か「それ以外」かの枠組みを利用して変形します。
なお、「必要な情報を見つけ出す」のは問題文を「読む」段階であったことを忘れてはいけません。ですから、誤解が生じないように正しく表すと、「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出す」となります。
したがって、枠組みとして、「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せた」か「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」かが作れます。
これを原因を知りたい対象である最上位命題の「問題を間違える」ことに適用します。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
これで、「問題を間違えた」という抽象的な命題が、一段具体的になりました。
仮に「必要な情報を見つけ出す」ことができずに「問題を間違えた」のであれば、「『問題を間違えた』のは何故?」と問われたとき、「それは『問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった』せいだよ」と答えることができます。この意味で、「問題を間違えた」原因が特定できたことになります。
また、もし、「問題を間違えた」原因が「必要な情報を見つけ出せなかった」ことに該当しないなら、「必要な情報を見つけ出せた」の範疇(カテゴリー)の方で原因を探っていくことになります。
そして、「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せた」か「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」かの枠組みは、MECE に分解できていることを確認してください。
この枠組みが適用されて分解せれた第2階層では、「問題を間違えた」原因が必ずどちらかに属しています。つまり、モレがありません。
なおかつ、「問題を間違えた」原因が、どちらともに同時に属すことがないです。つまり、ダブりがありません。
確かに MECE に分解できています。
さて、「必要な情報を見つけ出せなかった」からと言っても、これだけでは、まだ具体的によく分かりません。
そこで、「必要な情報を見つけ出せなった」のは「なぜ?」と更に問い考えます。さぁ、なぜ「必要な情報を見つけ出せなかった」のでしょうか。
理由としては、「情報に気付かなった」ことが考えられます。
問題文を読んでいるときに、字面を追うことはできても、それが必要な情報だと「気付けない」ということがあります。これは国語力がかなり低いと起きえます。
他にも、眠いときに勉強していると、字は確かに読めているのに、目が文字を上滑りするだけで肝心の内容が頭に入って来ない経験は誰にでもあるかと思います。これは通常の状態で最低限の国語力があればまず起こり得ないかもしれませんが、今は「問題を間違えた」原因の候補を網羅するのが目的なので、勝手に切り捨てないでください。どれが実際の原因であるかを特定するのは、原因の全候補を挙げ終えてから考える事柄です。考えられていない候補がないこと、つまり、すべての場合を考えていることを確かめるためにも、有り得ることは書き出しておきましょう。
したがって、「情報に気付けなかった」か「情報に気付けた」かという枠組みを、「問題文を読むとき必要な情報に見つけ出せなかった」に適用します。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
これで、「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」のは何故かというと、「情報に気付けなかった」からか、「情報に気付けた」からだと分かります。
しかし、「情報に気付けた」のに、「必要な情報を見つけ出せなかった」ことになるのは奇妙です。
そこで、「情報に気付けた」のに、「必要な情報を見つけ出せなかった」のは何故かと考える必要があります。
上位階層「必要な情報を見つけ出せなった」が、下位階層「情報に気付けた」をどのように掘り下げるかを縛り、絞りをかけていることに気を付けてください。
さて、「情報に気付けた」のに、「必要な情報を見つけ出せなかった」のは何故でしょうか。
「情報」自体には気付いていたので、「500円」「2割引」「支払う代金」という要素には気づいています。
しかし、「必要な情報」だと認識できなかったので、例えば、「500円」という情報を拾わなかったと言えます。
これは、「必要な情報」と認識できずに、拾うべき情報として考えずに、無視してしまったということです。
したがって、「必要な情報として認識できなかった」からだと言えます。
そうすると、「情報に気付けた」のに「必要な情報を見つけ出せなかった」のは、「必要な情報だと認識できなかった」からだと分かります。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
なお、「必要な情報だと認識できなかった」は、「情報に気付けた」を MECE に分解しているのではなく、その上位階層「情報に気付けた」を具体化しているだけです。
上位階層と下位階層が1対1で対応しているので、「情報に気付けた」のに「必要な情報を見つけ出せなかった」というのは、要は、「必要な情報と認識できなかった」からでしょ、ということを示しています。
これは、「なぜ?」と「どういうこと?」が渾然一体に使われている例です。
だいぶ具体的になってきったので、「必要な情報を見つけ出せなかった」場合の「問題を間違えた」原因の掘り下げはこの辺でいいでしょう。
どこまで具体的に掘り下げるかは、問題の性質や探究目的によります。学問ならトコトン突き止めて行くべきでしょう。商業なら、自分がある程度納得できたり、問題解決に十分そうになった段階で終えても問題ありません。
続いて、「必要な情報を見つけ出せた」場合の「問題を間違えた」原因を考えて行きます。
「必要な情報を見つけ出せた」のに、「問題を間違えた」のは何故でしょうか。
これは、先程の「問題を解く」過程の中の手順で言えば、「情報が何を意味するか理解する」に当たることだと分かります。
ですから、「情報が何を意味するかを理解できた」か「情報が何を意味するか理解できなかった」かという枠組みを適用しましょう。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
「情報が何を意味するか理解できなかった」場合とは、「500円」が何を意味しているのかが分からない場合が当てはまります。
では、なぜ「情報が何を意味するか理解できなかった」のでしょうか。
これは結構簡単に思いつきます。「理解するための知識が不足していた」からです。
やはり何事も知らないものは理解できません。なお、この下位階層は、上位階層を MECE に分解したのではなく具体化したものです。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
では次に、「情報が何を意味するか理解できた」のに「問題を間違えた」原因は何でしょうか。
これは「問題を解く」手順の「必要な知識を追加する」ことについて考えていることになります。ですから、「必要な知識を追加できた」か「必要な知識を追加できなかった」かという枠組みを、「情報が何を意味するのか理解できた」に適用します。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
「必要な知識を追加できなかった」のは何故でしょうか。
考えられるのは、そもそも「必要な知識を知らなかった」からというのが挙げられます。
しかし、解答や解説を読むと、「それ知っていたのに!」という経験をしたことも多いはずです。
ですから、「必要な知識を知らなかった」という原因以外にもありそうです。
とりあえず、一度に色々考えると混乱するので、「必要な知識を知らなかった」か「必要な知識を知っていた」かという枠組みで一旦分解します。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
さて、今考えたいのは、「必要な知識を知っていた」のに、「必要な知識を追加できなかった」原因でした。
問題文から「必要な情報を見つけ出し」て、その「情報が何を意味するかを理解」するのは、問題文に書かれたことをそのまま使えますが、「必要な知識を追加する」ことは、自分の頭の中にある知識を思い出して引っ張り出して来ることが必要です。
そうすると、「思い出せた」か「思い出せなかった」かという枠組みで分解できるのが分かります。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
「必要な知識」を「思い出せなかった」場合は、「思い出す能力が足りなかった」ということで済ませられますが、「必要な知識を知っていた」上に「思い出せた」はずなのに、「必要な知識を追加できなかった」原因は何故でしょうか。
原因の1つに「思い出した知識が正しくなかった」ことが挙げられます。したがって、「思い出した知識が正しかった」か「思い出した知識が正しくなかった」かという枠組みで分解します。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
「思い出した知識が正しくなかった」場合は、「記憶が不正確だった」からだというのは容易に思い当たるでしょう。
誤った知識を思い出して適用してしまえば、問題を間違うのは避けられません。皆さんも、問題集や試験問題を解いているとき、解いた瞬間は正解を確信していたが、答えを見ると、記憶違いだったために間違ったという経験はいくらでもしたことがあるでしょう。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
では、「思い出した知識が正しかった」のに、「必要な知識を追加できなかった」のは何故でしょうか。
これは、情報に知識を追加できる程には理解していなかったからと考えられます。
つまり、「知識の関係性が理解できなかった」からです。
例えば、「2割引」のうち、「2割」を「20%」、そして「0.2」と読み換えられるという知識を思い出すことができたとしても、これは今は必要ないとして切り捨ててしまうと、問題が解けなくなります。
したがって、「思い出した知識が正しかった」のに「必要な知識を追加できなかった」原因は、「知識の関係性が理解できなかった」からだと分かります。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
「必要な知識を使いできなかった」場合に「問題を間違えた」原因が分かったので、「必要な知識を追加できた」場合に「問題を間違えた」原因について考えて行きます。
「必要な知識を追加できた」のに「問題を間違えた」のは何故でしょうか。
これは、「問題を解く」過程の中の手順で言えば、「情報と知識を整理する」に当てはまります。
ですから、「情報と知識を整理できた」か「情報と知識を整理できなかった」かという枠組みを、「必要な知識を追加できた」に適用します。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
「情報と知識を整理できなかった」のは何故でしょうか。
注意すべきは、階層を掘り下げて行くと、つい忘れがちになる上位階層からの縛りです。
「必要な情報を見つけ出せ」ていること、「情報が何を意味するか理解でき」ていること、「必要な知識を追加でき」ていること、これらができていのに、「情報と知識を整理できなかった」のは何故か、と考えないといけません。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
それなのに、もし「情報と知識を整理できなかった」のは「必要な情報を見つけ出せなかった」からだと考えてしまうと、MECE に分解することに反することになります。
「必要な情報を見つけ出せなかった」ことが原因となって「問題を間違えた」という結果になるのは、既に上位階層で検討しています。考えないでいいことを考えており、おまけに二重に考えてしまっていることになります。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
さて、話を「情報と知識を整理できなかった」原因について考えることに戻します。
すべての必要な情報と知識がそろっており理解できているのにもかからわず、「情報と知識を整理できなかった」としたら、バラバラの情報と知識を筋の通った意味に整理する能力が不足しているからと言えます。
つまり、「整理する能力が足りない」せいだと分かります。
「500円」「2割引」「支払う金額」という情報とそれに伴う知識だけなら大して複雑ではないので、整理する能力についての重要性に気が向かないかもしれませんが、問題が複雑になったり情報量が増えると、整理する能力の不足によって「問題を間違える」ことがしばしば生じます。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
続いて、「情報と知識を整理できた」場合に「問題を間違えた」のは何故でしょうか。
これは、「問題を解く」過程の中の手順で言えば、「処理方法を適用する」に当てはまります。
ですから、「処理方法を適用できた」か「処理方法を適用できなかった」かという枠組みを、「情報と知識を整理できた」に適用します。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
それでは、「処理方法を適用できなかった」のは何故でしょうか。
大抵の場合、必要な「情報と知識を整理でき」ていれば、それから答えを導くための処理方法もほぼ自動的に導けます。しかし、それができないと「処理方法を適用できなかった」という事態に陥ります。
ここでも、処理方法を知っているか知らないかということが重要になるのが分かります。
ですから、「処理方法を適用できなかった」原因は、「処理方法を知っていた」か「処理方法を知らなかった」かという枠組みで分解できます。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
「処理方法を知らなかった」場合は、知識不足だと言えるのでいいですが、
「処理方法を知っていた」のに「処理方法を適用できなかった」のは何故でしょうか。
これは、「必要な知識を追加できた」のところでも考えたように、「思い出せた」か「思い出せなかった」かという枠組みが適用できます。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
「思い出せなかった」場合は、思い出す能力が足りなかったからと言えるのでいいですが、
「処理方法を知っていた」上に「思い出せた」のに「処理方法を適用できなかった」原因は何故でしょうか。
これは、「必要な知識を追加できた」のところでも考えたように、「思い出した知識が正しかった」か「思い出した知識が正しくなかった」かという枠組みを流用できます。そして、今、「処理方法」について考えているので、「思い出した処理方法が正しくなかった」か「思い出した処理方法は正しかった」かという枠組みで、対象を分解します。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
「思い出した処理方法が正しくなかった」場合は、記憶違い、「記憶が不正確だった」と言えます。
「思い出した処理方法が正しかった」場合とは、処理方法自体は知っており思い出すことができていたのに、適用できなかったわけですから、「処理方法の適用場面を知らなかった」から「問題を間違えた」ということが分かります。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
では、「処理方法を適用できた」のに「問題を間違えた」のは何故でしょうか。
これは「問題を解く」過程の中の手順で言えば、「処理する」に当てはまります。
ですから、「処理できた」か「処理できなかった」かという枠組みを、「処理方法を適用できた」に適用します。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
「処理できなかった」のは、単純に「処理方法に不慣れ」だから、「処理する能力がない」から、といったことが挙げられます。
では、「処理できた」のに「問題を間違えた」のは何故でしょうか。
「処理方法を適用でき」、「処理できた」のなら間違えようがありません。ということで、これは考えないでもいい事柄だと分かります。
ですから、この「処理できた」という範疇(カテゴリー)の箱は、消してしまいましょう。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
これで、「問題を間違えた」原因の候補を網羅した why ツリーが出来上がりました。
論理ツリーが大きくなってしまいましたが、なぜ「問題を間違えた」のかの考えられる原因が網羅されました。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
枝分かれした最下位階層の12個が「問題を間違えた」具体的な原因を表しています。
なお、why ツリーを作っておいて言うの何ですが、(16.1)に与えられた条件からでは、今回どの原因によって「問題を間違えた」のかは特定できません。
しかし、「問題を間違えた」と一言で言っても、これだけの異なる原因が存在し得ることが理解できました。ですから、この「問題を間違えた」原因を分析した why ツリー全体を枠組みとして知っておけば、自分で問題演習をするとき間違えても、具体的に何が原因で間違えたのか、誤りを修正するためにどのように勉強をすればいいのかが明確に特定できるはずです。
4 why ツリーによる本質的原因の特定
why ツリーによって、問題の原因候補を網羅できたので、課題解決のために本質的な原因を特定する段階に入ります。
why ツリーの最下位階層が原因となる候補です。
そして、why ツリーの各命題は、現に生じている事柄を説明したものになります。
各命題に書かれている事態が生じていると、それが原因で問題が生じていることを意味します。
説明の便宜上、原因を示す命題を黄色で示しておきます。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
したがって、黄色の枠で囲われた最下位階層に置かれている命題、つまり、最下位命題が、問題を引き起こしている原因となるので、問題の本質的な原因を特定する際には、これらに注目することになるのが原則です。
それでは、実際に、原因をどのように特定するのか学びます。
原因を特定する際には、いくつかの道筋があります。
もっとも基本的なのは、原因候補である最下位階層のすぐ上の階層の事態が生じているかを確認します。
例えば、「処理方法の適用場面を理解できなかった」ことが原因ではないか、という風に直観的に予想できたとします。
このとき、「処理方法の適用場面を理解できなかった」という最下位階層の命題のすぐ上の階層の命題を確認します。そこには、「思い出した処理方法が正しかった」という命題があります。これが確認されれば、「思い出した処理方法が正しかった」はずなのに、「問題を間違えた」と考えることができます。
そうすると、「思い出した処理方法が正しかった」ことのその原因は「処理方法の適用場面を理解できなかった」ことだと分かります。
ただし、他の原因候補も確認して、他の原因候補が原因ではないことも確認しておかないといけません。
図16.4.原因の特定方法1 画像クリックで拡大
他には、発生している事態を手掛かりとして階層を下り、原因を特定します。
例えば、「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」という事態が発生しているとします。
このとき、「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」という範疇(カテゴリー)に「問題を間違えた」ことの原因が存在していると予想できます。ですから、「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」という命題よりも、下の階層にある命題から原因を考えることになります。
もし「情報に気付けなかった」という事態が存在しているのなら、その下の階層の最下位命題にある「問題を間違えた」が原因だと考えられます。
もし「情報には気付けなかった」という事態が発生していないのなら、「情報に気付けた」ことになります。したがって、「情報に気付けた」ことの下の階層にある最下位命題である「必要な情報と認識できなかった」から「問題を間違えた」と分かります。
図16.5.原因の特定方法2 画像クリックで拡大
いずれにしろ、「問題を間違えた」という問題、「困ったこと」に関係して生じている事態をよく観察して、それに当てはまる範疇(カテゴリー)を特定して、階層を下へ下へと辿って行くことで原因を特定します。
また、必ず why ツリーを使って上位階層から順に検討していかなければならない、ということもありません。
なぜ「問題を間違えた」のか上位階層から順番に検討していくのでも当然構いません。
が、しかし、だいたいは、なぜ「問題を間違えた」のかに関する手掛かりとなる情報が少しはあるはずです。
例えば、「問題文は正確に読み取れて整理できていた」ということが確実だと分かっていれば、わざわざ「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せた」かどうか等は検討せずに、いきなり「処理方法」のどこに問題があったのかを検討しても問題ありません。
原因を特定するのだけが why ツリーの力ではありません。同時に、why ツリーは、収集すべき情報が何かという指針にもなります。
まず絶対に分かっていることは、「問題を間違えた」という困った事態が生じていることです。
何も指針がないと何で間違えたのかと漠然と考えがちです。
そこで、why ツリーを参考にすれば、何だかよく分からないながらも、とりあえず、「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」ことに関する情報を集めればいいことが分かります。
そして、「必要な情報を見つけ出せなかった」という事実・情報が確認できれば、「問題を間違えた」原因は、「必要な情報を見つけ出せなかった」ことを引き起こしている更なる原因を探って情報を集めて行けばいいことが明らかになります。
逆に、「必要な情報を見つけ出せなかった」という事実・情報を集めようにも集められなかったとします。そうすると、どうやら「必要な情報を見つけ出せなかった」という事態は起きていないと判断でき、「必要な情報は見つけ出せた」という事実・情報が得られたことになります。それならば、「必要な情報を見つけ出せた」のに「問題を間違えた」ことを引き起こした原因を特定するために、その範疇(カテゴリー)の更なる下位階層の情報を収集して行けばいいと分かります。
このように、why ツリーは収集すべき情報の指針を示しくれます。
ただ、こう説明すると、why ツリーを一旦全部作ってから考えることに縛られる人がいますが、課題形成段階は発散と収束を繰り返しながら進んで行くことを忘れないでください(第14章 問題と解決 3 課題形成)。
why ツリーを一旦全部作ってから、情報収集を開始するということは滅多にありません。
現在把握している情報から why ツリーを作り、その why ツリーが参考になって、収集すべき情報が明らかになるものです。
その情報を集めてみると、why ツリーが修正されて、また新たな収集すべき情報が明らかになったり、把握している情報で今回の問題では使えないものが出て来ることになります。
最初から、why ツリーを全部構成できるほどに情報が集まっており、必要な情報が何かが分かっていることは滅多にありません。why ツリーを作りながら、情報を収集しながら、発散と収束を繰り返しながら、why ツリーができあがることに注意してください。
このようにして、問題の本質的な原因を特定します。
この問題の本質的な原因を特定する際に、気を付けなければならないのは、この本質的な原因を特定する段階で、勇み足の課題化をしないことです。
どういうことかと言えば、本質的な原因を特定することが、ここでの目標であり、解決すべき課題であることを明確する課題化は、次の課題化段階の目標である、ということを明確に意識しておかないといけません。
例えば、色々な情報を集めて、why ツリーを通じて分析した結果、本質的な原因が、「必要な情報と認識できなかった」ことだと分かったとします。
このとき、本質的な原因は「必要な情報と認識できなかった」ことです。
そして、「必要な情報と認識する力が必要だ」といった解決策を述べるような表現にならないように気を付けてください。
あくまで本質的な原因とは事実を表したもので、いわゆる事態です。「〜すべき」や「〜が必要だ」といった分析する人の解釈が大きく入り込んだような表現にはなりようがありません。
本質的な原因を特定するときに、解決策を述べるような表現にしてはならない理由は、簡単です。
本質的な原因を特定する段階は、本質的な原因を特定するためにあるからです。なんだかトートロジー、同語反復みたいですが、要は、本質的な原因を考えているときに解決策まで見通して考えていると、その解決策への意識に引きずられて、本質的な原因の分析自体を歪めるおそれがあるからです。
今回は解決策を述べるような表現になっても大した問題は起きないかもしれませんが、もっと複雑な問題の本質的な原因を特定しているときに、思考を歪めてしまうと、誤った方向に原因を認識して、トンデモナイ解決策に向けて進んで行く危険性があります。
さらにもっと詳しく説明すると、論理的ではなくなってしまうからです。
そもそも、この講義の目的は、論理的に問題を考えることで、論理的に問題を解決することです。ですから、論理的な飛躍は可能な限り避けなければなりません。why ツリーも論理ツリーであり、もちろん論理を利用して原因を分析をしています。
そして、本質的な原因を分析しようとしているときは、困った事態を分析しています。「何故それが起きたのか?」と問いながら事態を分析していくのだから、分解された個別の命題も、総合された包括的な命題も、「困った事態がなぜ起きたのか」という原因を表したものになるはずです。
ここで、もし解決策を述べるような表現で返答したらどうでしょうか。
「なぜ問題を間違えたのか?」と訊かれたとき、「必要な情報と認識する力が必要だから」と返したらオカシイことが分かるはずです。論理的ではありません。
「必要な情報と認識する力が必要だ」という返事は、「どうすれば問題を間違えずにすむか?」という問いに対しては正しい答えですが、「なぜ問題を間違えたのか?」という問いに対しては誤った答えとなるのが分かります。
このように、本質的な原因を特定する段階は、「なぜ起きたのか?」を問うているのであって、「どうやって解決するのか?」を問うているのではないことを明確に意識しておく必要があります。
思考する場面や段階の違いの認識を誤ると、偶々上手くいく場合があっても、誤った方向に行く危険の方が高いです。
問題を解決するために、効率よく確実性の高いものを考えたいからこそ論理的に考えているのに、これでは、その意味が無くなっているのが分かります。特段考えずに、手当たり次第試してみるのと変わらなくなっています。
ですから、本質的な原因を特定する際には、本質的な原因を特定することに精神を集中させるようにしてください。
5 問題の課題化
本質的な原因を特定できたということは、困った事態がなぜ起きているか、ということが明確になったことになります。次は解決策を考えるための最後の橋渡しの段階である課題化です。
課題化は比較的簡単です。本質的な原因の命題を裏返せばいいだけです。
本質的問題:A が B である ↓裏返す 課題化:A が B ではない状態にする |
それでは、実際に課題化をしてみましょう。(16.2)を見てください。
(16.2)「問題を間違える」という問題に対する本質的な原因が「必要な情報と認識できなかった」であるとする。このとき、解決すべき課題が何かを課題化せよ。 |
本質的な原因が、「必要な情報と認識できなかった」なので、これを裏返します。
|
「必要な情報と認識できなかった」ことを裏返せば、「必要な情報と認識できなかった、ことがない状態にする」となります。
これは、「ではない、ということはない」という形式になっています。これは、二重否定になっており、分かり難い表現です。二重否定は肯定と読み換えることができるので、そのように整理します。
したがって、「必要な情報と認識できる状態にする」と改めます。
|
これで課題化は終了です。
もちろん、これとまったく同じ表現になっていなくても構いません。例えば、「必要な情報と認識できる状態にする」という表現を「必要な情報と認識する力が必要だ」といったものになっても可です。とりあえず、同じ内容が表現できていれば大丈夫です。
課題化されることで、本質的な原因を解消し、問題を解決するために必要な課題が明確になります。そして、この課題化によって、課題解決の基本的な方向性が明確になります。
今回の場合に当てはめて言えば、
ある試験の「問題を間違えた」という困った事態を解決するためには、本質的な原因である「必要な情報と認識できなかった」ことであり、
「問題を間違えた」結果を解消するためには、課題として「必要な情報と認識できる状態にする」必要があると分かる。
したがって、課題解決のためにの基本的な方向性は、「『必要な情報と認識できる状態にする』ためにはどうすればよいか?」を考えればよい。
ということが明確になりました。
なお先程、本質的な原因を特定する段階では、課題化してはならないと注意をしましたが、課題化段階では、言うまでもなく、課題化しないといけません。
若干の繰り返しになりますが、本質的な原因を特定する段階の問いは、原因を特定することが目的でした。
ですから、「何故それが起きたのか?」という本質的な原因を問うことにになります。したがって、「なぜ問題を間違えたのか?」という問いに対しては、「必要な情報と認識できなかったから」と返すのが正しかったのでした。「必要な情報と認識できる状態にするから」と課題を返すのは誤りでした。
しかし、課題化段階では、次の解決策立案段階に繋げるために、課題化して、解決策の基本的な方向性を明確にするのが目的です。
ですから、「どうやってそれを解決するのか?」という課題が何なのかを問うことになります。したがって、「どうやって問題を間違えた状態を解決するのか?」という問いに対しては、「必要な情報と認識できる状態にする」と返すのが正しいのです。「必要な情報と認識できなかったから」と原因を返すのは誤りです。
これで課題形成段階は終わりになります。後は、解決策立案段階に移ります。
解決策立案段階に移っても、課題解決の基本的方向は課題形成段階で課題化された本質的な原因であることを忘れてはなりません。目的達成志向に照らして言えば、「課題化された本質的な原因を解決する」という目的の下に、解決策を考えて行くことになります。詳しくは、how ツリーの作成方法と共に、次の章で解説します。
逆に言えば、この課題形成段階で、上手く本質的な原因を特定し課題化できていないと、問題に対して効果的な解決策が立てられないことになります。ですから、原因分析および課題化は骨が折れてもしっかりと行っておく必要があります。
6 論理ツリーの階層の意味
さて、折角 why ツリーの作り方と使い方を学んだので、why ツリーを使って応用的に分析したり、why ツリーを整えたりすることを説明しておきたいと思います。1.why so? と so what?の基本
まず確認ですが、上位階層は下位階層を縛っています。
これは論理関係で言えば、上位階層と下位階層の論理的関係に整合性があるかを確認する際には、why so? と so what? を使うと便利です。
トップダウン方式(逆算方式)で考えている場合には、「上位階層から見て下位階層は論理的に整合的か」と考えていることになるので、why so? が便利です。
why so? とは、日本語で言うところの「何故そうなのか?」です。抽象から具体へ、あるいは、結論から前提へという流れになります。
上位階層と下位階層を比べたとき、一般性や抽象度が高いのは上位階層の方です。
抽象的な命題や概念は色々な事柄を含むことができる反面、具体性が希薄になりがちです(第4章 演繹法 2 一般・普遍・抽象と個別・特殊・具体)。
そして、上位階層の命題や概念に対して、「それって、何故そうなのか?」と尋ねれたとき、その原因や理由を答えたり、具体的な事例を挙げたりして答えることになります。
接続的な表現で言えば、「なぜならば」や「その理由は」、「例えば」や「具体的には」といった表現で上位階層と下位階層がうまく繋がるかを確認することになります。
図16.6.why so?
例えば、「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」という上位階層と「情報に気付けなかった」という下位階層を見てください。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
上位階層に対して、why so? と問うと、下位階層がその答えになっています。
「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」って「何故そうなのか?」と問えば、「なぜならば、情報に気付けなかったから」と答えることができます。
図16.7.why so? の例
後で自分で他の階層で成立することを調べて確かめておいてください。
トップダウン方式(逆算方式)の逆のボトムアップ方式(積み上げ方式)で考えている場合には、「下位階層から見て上位階層は論理的に整合的か」と考えていることになります。このときは、so what? が便利です。
so what? とは、日本語で言うところの「だから何?」です。具体から抽象へ、あるいは、前提から結論へという流れになります。
上位階層と下位階層を比較して一般性や抽象度が高いのは上位階層なのは変わりません。
下位階層は具体的な命題や概念であり、そこから上位階層に抽象的な命題や概念を導きます。具体的な事実や事例を示すだけでは、根拠を示せても、何が言いたいのかや何を主張したいのかがよく分かりません。そこで、下位階層の命題や概念に対して「だから何?」と尋ねられたとき、導ける結論やより高次の命題や概念を挙げて答えることになります。
接続的な表現で言えば、「したがって」や「それゆえに」、「まとめると」や「要するに」といった表現で下位階層と上位階層がうまく繋がるかを確認することになります。
図16.8.so what?
例えば、「情報に気付けなかった」という下位階層と「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」という上位階層を見てください。
下位階層に対して、so what? と問うと、上位階層がその答えになっています。
「情報に気付けなかった」って「だから何?」と問えば、「したがって、問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」と答えることができます。
図16.9.so what? の例
このよに基本的には、why so? あるいは so what? と問うことで、各階層の論理的な整合性が確認できます。2.why so? と so what?の発展
もちろん、why so? や so what? が常に万能であるはずもなく、単純に上位階層と下位階層の1組だけに注意を向けるだけでは、論理的な整合性が確認できないこともあります。
世の中の接続表現には、「順接」や「理由」や「説明」以外にも、「逆接」や「対比」といったものがあります。
例えば、トップダウン方式で考えて、上位階層「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」と下位階層「情報に気付けた」を見てください。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
上位階層に why so? と訊いて下位階層で答えたら変なのは明らかです。
「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」って「何故そうなのか?」と問われているのに、「なぜならば、情報に気付けたから」と答えては論理的な整合性がとれません。
図16.10.why so? の不適な例
そこで、下位階層の「情報に気付けた」のさらに下に「必要な情報と認識できなかった」という最下位階層がありました。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
これに注目すれば、上位階層と最下位階層には、why so? で論理的整合性が確認できます。
「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」って「何故そうなのか?」と問われて、「なぜならば、必要な情報と認識できなかったから」と答えるなら、確かに論理的整合性がとれています。
そうすると、上位階層と下位階層を2つで1つの命題と捉えて、最下位階層との論理関係を問えば良いことが分かります。
図16.11.why so? に適切に答える 画像クリックで拡大
ですから、まず上位階層「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」と下位階層「情報をに気付けた」の論理関係を整理しましょう。
これは「情報を見つけ出せなかった」ことと「情報に気付けた」ことが反対の内容になっているので、逆接表現で繋いでやると論理的に意味が通るようになります。
つまり、「問題文を読むとき必要な情報に気付けたが見つけ出せなかった」と整理できます。
図16.12.why so? のための上下階層の結合
したがって、上位階層と下位階層を併せた「問題文を読むとき必要な情報に気付けたのに見つけ出せなかった」って「何故そうなのか?」と問われて、「なぜならば、必要な情報と認識できなかったから」と答えることになります。これで、論理的な整合性がとれました。
図16.12.why so? のための上下階層の結合 画像クリックで拡大
ボトムアップ方式の場合の so what? も同じことが言えます。
下位階層「情報に気付けた」と上位階層「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」を見てください。
下位階層に so what? と訊いて上位階層で答えたとしたら、トップダウン方式(逆算方式)の場合と同様に、明らかに論理的に繋がらなくなります。
「情報に気付けた」って「だから何?」と問われているのに、「したがって、問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」と答えると、論理的な整合性がとれません。
そこで、ここでも下位階層のさらに下の階層「必要な情報と認識できなかった」という最下位階層に注目します。下位階層と最下位階層の2つの命題を1つの命題と捉えて、上位階層との論理関係を問うことになります。
ます、下位階層「情報に気付けた」と最下位階層「必要な情報と認識できなかった」の論理関係を整理します。
「情報に気付けた」ことと「必要な情報と認識できなかった」ことが反対の内容になっているので、逆接表現で繋いでやると論理的に意味が通るようになります。
つまり、「情報に気付けたが必要な情報と認識できなかった」と整理できます。
したがって、下位階層と最下位階層を併せた「情報に気付けたが必要な情報と認識できなかった」って「だから何?」と問われて、「したがって、問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」と答えることになります。これで、論理的な整合性がとれました。
図16.13.so what? のための上下階層の結合 画像クリックで拡大
このよに、why so? あるいは so what? と問うことで、1つの上位階層と下位階層の組だけで、論理的関係性が上手く繋がらなかったり、矛盾が生じるときは、視野を広げて考えることが大切になります。
このとき、上位階層と下位階層を2つで1つの命題と捉えて、更なる下位階層や上位階層との論理関係を問えば良いことが分かります。
「順接」や「理由」や「説明」以外にも、「逆接」や「対比」といった接続的表現を使って、上位階層と下位階層を繋いで、さらに違う階層との論理関係を使って解釈します。3.複数の階層同士の関係
そして、論理的整合性がとれていない場合には2つの可能性があります。
1つ目の可能性は、階層の範囲を広げて併せて考えることで、論理的整合性がとれる場合です。
このとき、異なる階層を1つのまとまりとして捉えて、適切な接続表現で結び合わせてやる必要があります。
これは、今2.why so? と so what? の応用で学んだことです。
2つ目の可能性は、階層の範囲を広げて併せて考えても、論理的整合性がとれない場合です。
このとき、論理ツリーの分解の仕方が正しくない確率が高いので、再び適切な分解方法を考えないといけません。
この2つ目の可能性について少し説明をしておきたいと思います。
階層の範囲を広げて論理的整合性を考える必要があるのは、論理ツリーの性質と作成過程で枠組みを使うことに起因します。
まず、論理ツリーの性質から見て、その性質が枠組みを適用する際にどのように作用するかを確認します。
論理ツリーを作るとき、各階層の命題に枠組みを適用して下位階層に分解しています。
したがって、分解先の下位階層は、否が応でも上位階層の範囲の中で分解されています。
これが上位階層が下位階層を縛っているということでした。
言い換えるなら、下位階層は上位階層という条件の下に制限されているということです。
図16.14.上位階層による下位階層への縛り
第2階層は第1階層の縛りを受けています。
第3階層は第2階層の縛りを受けていますが、それは第1階層の縛りを受けた第2階層の縛りの中でさらに縛りを受けていることを意味します。
つまり、第3階層は、直接には第2階層の縛りを受け、さらに第2階層を通じて第1階層の縛りも間接的に受けているということです。
図16.14.上位階層による下位階層への縛り
そうすると、各階層の論理的関係も、直接隣り合う階層だけでなく、直接隣り合わない階層も含んだもので考える必要が必然的に生じます。
そして、この上位階層が下位階層を縛り、その縛りの中で更なる下位階層が縛られるという性質のために、枠組み適用するとき、一見すると矛盾のある分解が生じることがあります。直接隣り合う階層だけに注目すると、不適切な枠組みに見えてしまうことがあるのです。
そこで、直接隣り合う階層だけではなく、視野を広げて階層を見渡すと、その階層の縛りの受け方が違って見えてきます。
ですから、直接隣り合う階層の一部に矛盾が生じても、その矛盾と上位階層の縛りを踏まえて、「何故なのか?」と深く分析して行くことが大切になります。
実際、第2階層「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」と、第3階層「情報に気付けた」は、一見すると矛盾します。
この第3階層で分析を終えたとしたら、「情報に気付けた」という命題は不要あるいは不適切なものになってしまいます。
図16.15.階層の関係を広く見渡す 画像クリックで拡大
しかし、そもそも、この why ツリーは最上位命題(第1階層)「問題を間違えた」から出発しており、第2階層「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」という条件にも縛られています。
したがって、第3階層「情報に気付けた」としても、第1階層「問題を間違えた」ことには変わりありません。
そこで、この一見すると矛盾する、第2階層「必要な情報を見つけ出せなかった」こと、と第3階層「情報に気付けた」ことを踏まえて、第1階層「問題を間違えた」のは「何故か?」と分析しないといけません。
そして、その結果、第4階層「必要な情報と認識できなかった」ことが導かれていました。
図16.15.階層の関係を広く見渡す 画像クリックで拡大
このように、論理ツリーの作成で適用する枠組みは、直接隣り合う階層だけに注目すると不適切に思えるものも、目的意識と論理ツリー全体の階層の縛りを踏まえると、矛盾なく解釈できます。
また、直接隣り合わない上位階層の縛りを考慮しても矛盾している場合でも、さらに下位階層へ掘り下げることで、矛盾を解消できることがあります。
したがって、階層関係の矛盾は、更なる「なぜ?」で掘り下げることができることを知らせてくれている信号だと考えることができます。
そして、どうしても、この縛りを踏まえて矛盾を解消できる命題や概念を導けないとしたら、それは枠組みが誤りであるとして、新しい枠組みを適切に練り直す必要が生じます。
あるいは、もう十分に具体的に分析ができているため、矛盾が生じる場合もあります。
十分に具体的に分解できていると、もうこれ以上具体的に掘り下げても、意味のある分解ができない、ということになります。そするうと、矛盾する範疇(カテゴリー)も出て来ることもあります。その場合は、矛盾する範疇(カテゴリー)は、問題の原因ではないと言えるので、削除してやればいいです。
第6階層「処理方法を適用できた」の後に、「処理できなかった」か「処理できた」かの枠組みを当てはめた後に、「処理できた」の範疇(カテゴリー)を削除したのが、これに当たります。
このようにして、直接隣り合う階層だけに注目すると論理的に整合的でもない場合に、どうすればいいのかの説明でした。視野を広げて階層を考えれば、論理的に整合するような分解が可能になります。
以上のことを踏まえると、論理ツリーによって分析されたものが論理的かを確認する方法は、最上位階層とそれに続く各下位階層を繋げて読んでみて、最下位階層まで論理的に破綻せずに繋がるかを確認すればいいことが分かります。
例えば、一番深い階層である第10階層の原因が「記憶が不正確だった」というのが論理的に導けるか確認してみましょう。
(16.3)次の10個の命題を命題の順番通り、適切な接続的表現を用いて矛盾なく繋げ。ただし、「問題を間違えた原因は」から開始して、「記憶が不正確だったから」で終わる文にすること。 問題を間違えた―問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せた―情報が何を意味するか理解できた―必要な知識を追加できた―情報と知識を整理できた―処理方法を適用できなかった―処理方法を知っていた―思い出せた―思い出した処理方法が正しくなかった―記憶が不正確だった |
これを繋げて読むと、長いですが、こうなります。
[解答] 問題を間違えた原因は、問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せて、情報が何を意味するか理解できて、情報が何を意味するか理解できて、必要な知識を追加できて、情報と知識を整理できたが、処理方法を適用できなかったが、処理方法を知っていて、思い出せたが、思い出した処理方法が正しくなかったからで、つまり、記憶が不正確だったから。 |
一文だと、どうにも長くなり過ぎて、混乱します。そこでこれを2文に割ります。
注目点は、「処理方法は適用できなかった」です。この命題まで、すべて「〜できた」となっていますが、「処理方法は適用できなかった」と否定形が出てきます。現に、「情報と知識を整理できた」までは順接表現「て」で繋げられていますが、「処理方法は適用できなった」に移る際には逆接表現「が」で繋げられています。
[解答] 問題を間違えた原因は、問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せて、情報が何を意味するか理解できて、情報が何を意味するか理解できて、必要な知識を追加できて、情報と知識を整理できたが、処理方法を適用できなかったが、処理方法を知っていて、思い出せたが、思い出した処理方法が正しくなかったからで、つまり、記憶が不正確だったから。 |
さらに、「処理方法は適用できなかった」の後を見ると、「処理方法を知っていた」と繋げるために、逆接表現「が」使われています。
[解答] 問題を間違えた原因は、問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せて、情報が何を意味するか理解できて、情報が何を意味するか理解できて、必要な知識を追加できて、情報と知識を整理できたが、処理方法を適用できなかったが、処理方法を知っていて、思い出せたが、思い出した処理方法が正しくなかったからで、つまり、記憶が不正確だったから。 |
逆接表現「が」で2回連続続くので、「処理方法を適用できなかった」の命題で1回文を切ってしまいます。そして、「処理方法を適用できなかった原因は」と改めて始めることにします。
[解答2] 問題を間違えた原因は、問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せて、情報が何を意味するか理解できて、情報が何を意味するか理解できて、必要な知識を追加できて、情報と知識を整理できたが、処理方法を適用できなかったから。 さらに、処理方法を適用できなかった原因は、処理方法を知っていて、思い出せたが、思い出した処理方法が正しくなかったからで、つまり、記憶が不正確だったから。 |
慣れないうちは、部分部分に分けて、ちょっとずつ追って行って、矛盾なく論理が繋がっていることを確認すればいいです。
今回は、確かに、論理的に破綻せずに繋がりを持ちながら、「問題を間違えた」ことの本質的な原因である「記憶が不正確だった」まで行き着けることが明らかにできました。
7 論理ツリーの整理
各階層と枠組みのことを説明したついでに、続いて、論理ツリーを整形してみます。
今回の why ツリーは、主に「そのもの」か「それ以外」かを変形しながら作って行きました。
この枠組みは、「そのもの」自体を考えれば、「そのもの」に含まれない事柄が自動的に「それ以外」に分類されるので、考える事柄が実質1つであり、誤りなく MECE に分解することが容易いです。特に、自分で1から枠組みを作る際には重宝します。
しかし、実際に why ツリーを作ってみて分かったかと思いますが、階層が深くなりやすく、論理ツリーが大きくなりやすいです。また、あまり重要ではない範疇(カテゴリー)が出て来るのも事実です。
このとき、異なる階層をまとめて圧縮あるいは簡略化して論理ツリーを整理すれば、枠組みとして洗練できます。
では、実際に整理してみましょう。
まず、第2階層の「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」を見てください。
さらに、その下の第3階層の「情報に気付けなかった」か「情報に気付けた」かの枠組みと、その下の第4階層の「必要な情報と認識できなかった」に注目してください。
図16.3.問題の原因特定 画像クリックで拡大
これから分かることは何でしょうか。
それは、「問題を間違えた」原因が「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せなかった」である場合に、本質的な原因が、2つの最下位階層の
「情報に気付けなかった」ことか、
「必要な情報と認識できなかった」ことか、
どちらかだということです。
そして、ここで気付いてほしいことは、本質的な原因がこの2つ最下位階層であるから、第3階層の「情報に気付いた」は無くても、大差がないことです。
「情報に気付けた」だけならば、「問題を間違えた」という事態は発生しません。「情報に気付けた」場合に「問題を間違えた」という事態は、その最下位階層の「必要な情報と認識できなかった」場合だけです。
図16.16.階層の圧縮 画像クリックで拡大
そこで、この「情報に気付いた」を圧縮あるいは省略して、その下の「必要な情報と認識できなかった」を繰り上げてやります。
図16.16.階層の圧縮 画像クリックで拡大
論理ツリーの階層が1つ減りスッキリします。
なお、繰り上げた「必要な情報と認識できなかった」は、省略した上位階層の内容を含めて、「情報に気付けたが、必要な情報と認識できなかった」としても構いません。
こうして改めて見ると、「問題を間違えた」原因が「問題文を読むとき必要な情報を見つけ出せんかった」場合、その本質的な原因は、
「情報に気付けなかった」か、
「必要な情報と認識できなかった」か、
どちらかなのだと、見やすくなりました。
ただし、これは論理ツリーを一回作り終わった後に、整形していることに注意してください。
整形する前の論理ツリーを作っている段階では、いきなり「情報に気付けなかった」か、「必要な情報と認識できなかった」か、という枠組みを適用して分解するのは、かなりの注意を要します。いや、むしろ、慣れない内は避けるべきでしょう。
なぜならば、本当にその枠組みが MECE になっているか分かり難いからです。もしかしたら、ダブっていたり、モレがあったりする分解になっているかもしれません。
独自の枠組みを使う場合には、「そのもの」か「それ以外」かといった基礎的な枠組み以上に、MECE であるかどうかを注意深く検討しないといけません。
したがって、特に、論理ツリーに慣れていない間や、不得意分野の分析については、いきなり独自の枠組みを作るよりも、最初は基礎的な枠組みを使って論理ツリーを一旦作り上げて、後でそれを整形する方が無難です。
他にも、1つしか下位階層にない、具体化されただけの範疇(カテゴリー)なら、上位階層と併せて1つにしてしまってもいいです。
このように、論理ツリーを作成する際に余分な命題が生じ階層が深くなった場合、その命題を削ったり、内容をまとめて、下位階層の次元を1つ上げることで整理できます。
色々とまとめる方法がありますが、最下位階層を可能な限り圧縮・簡略した1つのまとめ方としてが次のようになります。
最下位階層にあった原因が全体的に上の階層に移動しています。
後で自分でどうやったらこうなるか試してみてください。
図16.16.階層の圧縮 画像クリックで拡大
さらに、この why ツリーを整理しましょう。
今回、この why ツリーを作るとき、最初に「問題を解く」過程で何をしていたかを考えて、それを参考に枠組みを考えながら作って行きました。
図16.2.問題を解く過程の解明2
この「問題を解く」過程がすべて誤りなく実行できれば、「問題を間違える」ことは起きません。
とりあえず、この「問題を解く」過程の各手順を赤色で囲ってみます。
ただし、「処理する」という手順は、本来「処理できた」という範疇(カテゴリー)があるはずですが、この why ツリーでは「処理できた」時点で「問題を間違える」ことは発生し得ませんから、書かれていませんでした。
図16.17.枠組みの整理・作成 画像クリックで拡大
この why ツリーを作るとき、「問題を解く」過程の手順に沿って、順番に枠組みを考えながら作って行きました。上から下へ行うという時間的な順序はありますが、抽象度に優劣はありませんでした。ただ MECE に分解したいこともあって、このように分解して行ったのでした。
そもそも、この why ツリーは「問題を間違えた」原因を分析するために作ったものです。
さらに、赤枠の箇所は、MECE に分解するために枠組みを適用する際に副次的に生じたものであり、「問題を間違えた」原因になることはありません。ですから、赤枠の箇所は、省略したり削除したりできる確率が高いです。
そこで、赤枠の箇所を削除して、なおかつ、赤枠の箇所の直下にある範疇(カテゴリー)を第2階層まで引き上げてやります。
図16.17.枠組みの整理・作成 画像クリックで拡大
そうすると、第4階層までしかないスッキリした why ツリーとなります。
しかも、第2階層の各範疇(カテゴリー)が「問題を解く」過程の各手順のできなかった場合に対応しています。
さらに、各手順は、「読む」段階、「考える」段階、「解く」段階に分けられていました。
これは(16.1.1)のヒントから得た段階の分け方でしたが、この why ツリーからでも導くことができます。
第2階層の各範疇(カテゴリー)の共通点はないか、抽象化したり、まとめることはできないか、と考えることで、「読む」段階、「考える」段階、「解く」段階に分けることができます。
折角、「問題を間違えた」場合の原因分析のための枠組みを作っているので、ついでに少し格好をつけた表現にしてみます。
「読む」段階を「観察」段階、「考える」段階を「分析」段階、「解く」段階を「処理」段階とします。
図16.18.枠組みの整理 画像クリックで拡大
どうでしょうか。これなら、他人に見せてもある程度分かりやすい図表になっていると言えるのではないでしょうか。
自分独りで問題の原因を分析しているのならば、論理ツリーの階層が深くなったり、大きくなっても構いませんが、他人に見せたり、一緒に考える場合には、論理ツリーをある程度整理しておいた方がいいです。
また、一度作った論理ツリーを他の場面で流用する際には、ある程度整理して小型化した形にしておいた方が何かと便利になります。
今回作った「問題を間違えた」原因を分析するための why ツリーは、勉強している際に、間違えた問題について「なぜ間違えたのか?」と考えるときに使えるかと思います。
このように、その時々の場合に合せて作った論理ツリーでも、上手く流用できる場面に出会うことがあります。そして、こうした枠組みを自分の中で知識として経験として蓄積していくことで、幅広い考え方ができると共に、考える時間を短縮することができます。
さて、次に、できあがった why ツリーによって、せっかく色々な原因の候補が網羅的に挙げられているので、原因の候補について、少し応用的な発展的な分析を試してみます。
なお、今回は、why ツリーをそのまま使うと黒板に収まらないので、各最下位階層の原因領域を抜き出して、上から順番に1列にまとめ直します。
皆さんは、余裕があれば、第10階層の右隣りに1列に書いてください。後で、さらに右に3列程追加するので、その余裕がなさそうならば、why ツリーの隣にではなく、違う場所に書き直してください。
図16.19.原因候補
why ツリーの原因を表している最下位階層は、上位階層の縛りを受けているので、目的語を敢えて書いてなかったりしましたが、ここでは、一読しただけで意味がとれるように、主語や目的語を補って表しています。
表現が微妙に詳しくなっていますが、この12個の原因は、why ツリーで分析した原因と同じ意味です。この12個の原因のどれかが、「問題を間違えた」ことを引き起こしていることには変わりありません。
ある試験の「問題を間違えた」ことの原因が、この中でどれなのか特定できたら、課題化して、その解決策を考えればいいわけです。この場合は、試験勉強や問題演習の類なので、どのように復習すればよいかを考えることになります。
「必要な情報に気付けなかった」ために、「問題を間違えた」のなら、問題文をじっくり正確に読み取る練習をする。
「必要な知識を知らなかった」せいなら、暗記をしっかりと行う。
「必要な知識を思い出せなかった」のなら、覚えてはいるのだから思い出す練習をする。
といった具合に個別に解決策を立てることが考えられます。
ここで、各原因の候補の共通項を考えてみてください。
「知識や記憶」に関係して共通点があることにすぐ気付くかと思います。
そして、「知識や記憶」に関する共通点以外と考えると、問題文を読む際に情報を拾ったり、処理方法を粛々と実行したりするという「情報処理」に関して共通点があることにも気付きます。
さらに、「知識や記憶」はいわゆる「暗記」に関することであり、一纏めにしましたが、正しい知識として「知っている」だけで不十分で、自分で「思い出す」ことができないといけません。
「知っている」こと「思い出せる」ことの間には少し開きがあるのは、日々の勉強で実感できるかと思います。答えを聞いたら「知っていたのに!」と思うことは何度もあるはずです。
ですから、「知識の正確さ」と「記憶の再生」という2つの項目に分けます。
そうすると、「情報処理」、「知識の正確さ」、「記憶の再生」という3項目は12個の原因の候補の中から共通点があるものを抜き出したものなので、12個の原因の候補は、当然どれかに分類できます。では、12個の各原因の候補が、3項目の中でどれに分類されるか考えてみてください。原因の横に「情報処理」、「知識の正確さ」、「記憶の再生」の3列を設けて、該当する項目に○をつけてください。
図16.19.原因候補 画像クリックで拡大
これで、12個の原因の特徴が浮かび上がります。
1つ1つの「問題を間違えた」という原因は、個別の場合によって異なるでしょう。あるときは「必要な情報に気付けなかった」から、またあるときは「情報と知識を整理する能力が足りなかった」から、といったように。
そして、勉強をしていて「問題を間違えた」という経験を何度もして、その度ごとに原因を分析してみると、「情報処理」に関する原因に集中していたことに気付いたとします。
そうすると、個別の「問題を間違えた」ことを解消するための復習をするのはもちろん、もう1つの解決策が見えてきます。自分は「情報処理」に関する能力が低いのではないか、という仮説です。
知識は正確に覚えているし、思い出すこともできる。でも「問題を間違え」てしまう。そして、その原因が「情報処理」に関することに集中している。このことから、個別の問題の復習とは別に、「情報処理」能力を向上させるような勉強をした方がいいのではないか、といったことに気付けます。
それならば、「情報処理」能力を上げるために、問題を多く解いて慣れを作る等する必要があるといったことに考えが行き着きます。
このように、論理ツリーによって様々な原因があることが明らかになり、それを基に色々考えてみると、何か新しい発見があるかもしれません。
なお、このとき、単発的に現れる「発生型」の問題と捉えて、論理ツリーで原因を分析しましたが、連続的に「困ったこと」が現れているので、「構造型」の問題として捉えなおすことができるとも言えます。このように、問題はどこからどこまでを考える対象にするのか、どう見るのかによって問題の型が変わり得ることが分かります。
8 まとめ
長くなりましたが、論理ツリーを使って、原因を分析して特定する方法について説明しました。
論理ツリーが有効な問題の型は、「発生型」の問題です。これは、原因と結果が対応していることが多い問題でした。
論理ツリーを実際に作るとき、まず分析する対象がどういうものなのかという本質を大雑把に、しかし、しっかりと捉えることから始めました。それを基にして、前提条件を置いて、枠組みを使いながら MECE に分解して、why ツリーを作りました。「なぜ?」と考えながら、どんどん分解していきます。
そして、原因が特定されれば後は課題化してやるだけです。課題化されれば、次は解決策立案段階に入り、how ツリーを使うことになります。how ツリーについては次の章で学びます。
また、作成された why ツリーが新たな枠組みとして、後々に利用できることもあることも学びました。
また、トップダウン方式でも、ボトムアップ方式でも、論理ツリーを作る際には、各階層の論理的な繋がりや関係性も意識しないといけませんでした。
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